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第31話 久しぶりの旅へ


 食べ過ぎてすぐ動けないジーナとセリアは、ソファで休憩していた。


「……なんかあの二人、本当に夫婦みたいだね」

「夫婦みたい、じゃなくて実際に夫婦なんでしょ」


 二人の目線の先には、一緒に皿洗いをしているテオとヘルヴィの姿があった。

 皿を渡す度に、目線を合わせて笑い合っている。


「弟だと思って接してたテオ君が、いつの間にか結婚してたのにビックリしちゃった」

「……そうね」


 二人がテオとパーティを組んでいたのは、もう一年以上も前になる。


 当時から他の傭兵達と比べると飛び抜けて強かった二人は、他の人と組むことはなかった。

 テオと組んだのも、どのパーティにも入れてもらえずに可哀想だから一時的に組もうとしただけだった。


 しかしテオは戦闘こそ全くできないが、それ以外の雑用は完璧だった。

 野営地で道中拾った薬草を煎じて軽い傷を治してくれたり、数少ない材料で美味しい料理を作ってくれた。


 キツくて辛い仕事も、テオがいるだけでその辛さが和らいで楽しいと思ったこともある。


「あーあ、私の人生設計が変わっちゃったなぁ」

「なによそれ」

「テオ君を連れて王都に行って、私たち三人で暮らそうとしてたのに。テオ君は家事をしてもらって、日を跨ぐような仕事だったら一緒についてきてもらってご飯を作ってもらうの」

「……それは、幸せそうね」


 しかし、それは叶わない。


「まさか婚約者が昔からいるなんてね」

「そうね、知らなかったわ」


 婚約者というのはヘルヴィがついた嘘なのだが、二人がそれを見破れるわけがなかった。


「そういえばテオ君、私たちを女として見てる感じなかったもんね」

「……そのことはあまり思い出したくないけれど」


 最初は別々のテントを使って寝ていたが、仲良くなるに連れて一緒のテントで寝ることもあった。


 二人ともテオになら襲われてもいい、と思っていたのだが、そういう雰囲気になったことは一度もなかった。

 一度本気で誘ったことがあるのだが、流されてしまったこともある。


 自分たちに魅力がないのかと、その当時は落ち込んだものだ。


 ……実際は、テオにそういう知識がなかっただけなのだが。


 パーティを解散したのは依頼で王都に行くことになったのと、とても危険だからさすがにテオを連れていけないと判断したからだ。

 断腸の思いで別れて、二人は王都で仕事をこなしていった。


 そして久しぶりに依頼が無くなったので、テオに会いにこの街に戻ってきたのだ。


「だけどよかった、テオ君が幸せそうで。ヘルヴィさんも優しそうだしね」

「ええ、二人が愛し合ってるのがよくわかるわ」


 このご時世、政略結婚や金を狙ったような詐欺結婚などがよくある。

 特にヘルヴィは美人なので、二人はテオが騙されているのではないかと最初は思ったのだが……。


 今までの二人を見てきて、そして今二人で仲良く皿洗いをしている姿を見ると、そんな心配は全く必要ないと確信できた。


「……二人って、したのかな?」

「……何のこと?」

「わかるでしょ?」

「……私がわかるわけないでしょ」


 二人の目線がこの家の寝室に続く廊下へとズレた。


「ヘルヴィさんって、肉食っぽいもんね。もうやってそう」

「昨日結婚したって言ってなかったかしら? つまり昨日の夜は、初夜……」

「ああ、絶対にやってるね、間違いない」


 皿洗いをしている二人に聞こえないように、ジーナとセリアは妄想を膨らませていく。


 実際は熱烈なファーストキスをして、一緒のベッドにすら入っていない初夜の二人だった。



「お二人はこの街にいつまでいるんですか?」


 テオは皿洗いを終え手を拭きながら、ソファで妄想をしていた二人に話しかける。


「ん!? ああ、えっと……急な依頼が来なければ、一ヶ月ぐらいはいるかも」


 突如話しかけられたジーナが、慌てながらも答えた。


「そ、そうね。一ヶ月ぐらいはこの街で軽く依頼を受ける程度かしら」


 セリアが妄想をやめてそう言うと、ジーナは何か思いついたかのように「そうだ!」と言って立ち上がる。


「テオ君、久しぶりに私たちで依頼に行こうよ! そんな難しい依頼はないと思うけど、いい感じのやつを受けてさ!」

「えっ、いいんですか?」

「もちろん! ねっ、セリア」

「ええ、私もテオと一緒に久しぶりに旅したいわ」


 ジーナとセリアは気分が上がって楽しそうに話す。

 テオも二人と一緒に旅のような感じで、久しぶりに依頼を受けたいと思った。


「ヘルヴィさんも来ますよね?」


 当然のように、テオがヘルヴィにそう言った。


 二人もテオの妻であるヘルヴィを置いて旅に行けるとは思っていなかった。


「ヘルヴィさんも行こうよ! きっと楽しいよ!」

「私たちにヘルヴィさんがいれば、そう危ないことは起こらないでしょうしね」


 二人もヘルヴィとは仲良くしたいし、いろいろと聞きたいことがあった。

 主にテオとの夜の生活について。


「……ああ、テオが行くならもちろん私も行こう」


 ヘルヴィは二人の考えが読めていた。

 むしろ先程の妄想も全部二人の心を読んでいたので、知っている。


 それについて聞かれるのは少し面倒くさいとは思うが……。


(嬉しそうにしているテオの顔を、曇らせてはいけないな)


 久しぶりにジーナとセリアと依頼を受けられる、というのを喜んでいるテオを見て了承した。


 テオが二人とだけ旅に行きたいと思っていたのならば、快く行こうとはならなかったのだが……。


 当然のように自分のことを誘ってくれて、


(やった……! お二人と、それにヘルヴィさんと一緒に旅に行ける! ヘルヴィさんとは初めてだから、すごく楽しそうだ! ご飯とか頑張って作らないとなぁ……!)


 心の中でこんなに喜んでいるテオに、とても嬉しく思うヘルヴィ。

 多少質問攻めされるのが面倒くさいとしても、テオと一緒に行く価値は十二分にあるだろう。


 こうして四人は、泊りがけの依頼を受けることに決まった。





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