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第21話 朝


 ――翌朝。


 テオはいつもよりも少し遅い時間に起きて、慌てて準備をし、朝食を作っていた。


 いつも通りの時間に起きれなかったのは、昨日の夜の出来事が原因だろう。

 そのことを思い出すと、今でも顔が熱くなってドキドキしてくる。


 あんなに近くでヘルヴィの顔を見つめて、そして貪られるようなキスをされ……。


「いっ……!」


 ぼーっとしてしまい、気づいたら親指に痛みが走った。

 見たら包丁で軽く薄皮を切ってしまった。


 親指を咥えて、血を舐める。


 料理をしてる最中に変なことを考えてしまったから、間違えて切ってしまった。

 祖母にも料理のときは気をつけろ、と言われていたのに。


 しかし、どうしてもあのときのことが頭に思い浮かんでしまう。


 親指を口に咥えていると、ヘルヴィが自分の口の中に舌を入れてきたことを思い出してしまう。


(ヘルヴィさんの舌はもっと柔らかくて、熱くて……ってダメだ、こんなんじゃ! もっとしっかりしないと……!)


 そう思い、料理をしようとすると。


 リビングのドアが開かれる音がして、テオはビクッとなりながらもそちらを向く。


「おはよう、テオ」


 そこには寝間着姿じゃない、初めて会ったときと同じ姿のヘルヴィがいた。

 つまり、翼とツノが出ているということだ。


「お、おはようございます、ヘルヴィさん。その、翼とツノが出てますけど」

「ん? ああ、眠っている最中に出してしまったようだ。熟睡するとつい、な」

「そうなんですね……」


 悪魔っぽさが出ている姿だが、やはり綺麗で美しいとテオは見惚れる。


 テオのその様子を見て、ヘルヴィはなんとなく察する。


「……翼とツノが好きなのか?」

「えっ! あっ、いや、すいません、ジロジロ見てしまって……」

「いや、それは構わないぞ。で、どうなんだ?」


 翼を少し動かして、ヘルヴィはもう一度問いかける。

 テオは恥ずかしがりながらも、正直に言う。


「その、翼とツノが好きというわけではなくて、その姿のヘルヴィさんが、美しすぎて……見惚れてしまいました……!」

「……そ、そうか。で、では、二人きりのときは出してた方が嬉しいか?」

「は、はい……」

「そ、それなら仕方ない。愛しい旦那の頼みだ。これからはそうすることにしよう」

「あ、ありがとうございます」

「いや、これくらいで喜んでくれるなら、こちらも嬉しいぞ」


 お互いに顔を真っ赤にして、少し俯いている。

 しかしどちらも口角は上がって、これからのことを考えてにやけている。


(二人きりのときは、この姿が見れるんだ……僕だけが知る、ヘルヴィさん……)

(朝からやってくれるな……可愛すぎるぞ)


 朝からお熱い二人だった。



 ヘルヴィが先に顔を上げ、テオを見ていると異変に気づく。


「テオ、親指を切ったのか? 血が出ているぞ」

「あっ、そうでした。あとで絆創膏でも貼っておきます」

「いや、その必要はない」


 テオに近づいて、怪我をした方の手を取る。

 そして、テオの親指を咥えた


「えっ! へ、ヘルヴィさん……!?」


 その行動に驚いて、ドキドキするテオ。

 なんとなく親指の感覚が鋭くなってる気がした。


 親指を一瞬舌で舐められて、そしてヘルヴィが離れる。


 見ると血は舐められたのでもちろんないが、傷すらも消えていた。


「えっ……ない?」


 親指を凝視するテオ。

 まるで切ったことが嘘だったかのように、綺麗な親指だ。


「治しておいたぞ」

「あ、ありがとうございます!」


 どうやらヘルヴィが魔法で治してくれたようだ。

 傷を治す魔法なんて初めて受けたテオ。


 ヘルヴィのすごさに驚かされると同時に、やはり気になるのは親指が入った場所だ。


 先程までヘルヴィの口の中にあったので、少し濡れている。


(ど、どうしよう……! 拭くのもなんか申し訳ない気がするし、それでもこのままだと……意識しちゃうし)


 自分の親指を見ながら、ちょっと動揺しているテオ。


 そんなテオを見て、またヘルヴィは察して少し笑う。


「ふふっ、別にまた咥えてもいいんだぞ?」

「えっ! いや、それは、その、さすがに……」


 この親指を咥えるという度胸はさすがになかった。

 しかもヘルヴィの目の前で。


 ヘルヴィは動揺している姿を微笑ましそうに見ながら、そこらにあったタオルを手に取って親指を拭いてあげる。


「これで大丈夫か?」

「す、すいません……」

「いや、大丈夫だ。しかし、傷を治したお礼をしてもらいたいな」

「は、はい、何をすればいいでしょう?」


 テオがそう問いかけると、ヘルヴィは目を瞑って顔を前に出した。


「おはようの、その……キスを、要望する」


 もう少し余裕をもって言いたかったヘルヴィだが、最後の最後で照れてしまった。


「えっ!? お、おはようのキス、ですか?」


 それ以上に照れているテオ。

 差し出された綺麗な顔に、唇を見てドキドキする。


「ああ、もう少し屈んだ方がやりやすいか?」


 少し腰を折って屈むと、テオの唇と丁度いい高さになる。


「さあ、旦那様。おはようの、キスを」

「……は、はい」


 顔を真っ赤に染めながら、テオは意を決して目を強く瞑ってキスをしにいく。


 そして重なる……と思いきや、自分からは初めてで距離感などがわからず、ヘルヴィの唇を少し外れて頰にキスしてしまった。


「あっ……す、すいません」


 昨日と感触が違ったので、失敗したと気づいたテオ。

 さらに恥ずかしくなって、顔を赤くして動揺する。


「ふっ、ふふふっ……大丈夫だ、ありがとう。とても満足なお礼だったぞ」

「そ、それはよかったです」


 ヘルヴィが笑いながらそう言ったのでちょっと安心したが、フォローされていると思おうと妙に情けなかった。


 テオがそう思って少し落ち込んでいると……。


「んっ……」

「……えっ?」


 いきなり、ヘルヴィが唇を重ねてきた。

 軽く重ねてすぐに離れたので、テオは呆気に取られてしまった。


「次はこういう風に頼むぞ、旦那様」


 そう言って笑うヘルヴィに、テオは今日始まって間もないのにまたも見惚れてしまうのだった。



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