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第19話 風呂後


 ヘルヴィは風呂から上がった。


 水気を取るために、指をパチンと鳴らす。

 するとすぐに身体についていた水や、少し濡れた髪などが全部乾いて、風呂に入ったことすらわからないほどの状態になった。


 ヘルヴィはわざわざタオルで拭かなくても、そのぐらい簡単にできるのだ。


 服も意識するだけでまた着ることができる。

 これからは寝るだけなので、黒のネグリジェを着た。


 胸元がガッツリ出ていて、裾も短いので綺麗な足が惜しげなく晒し出されている。

 性を意識するのが今日初めてなテオにとって、結構刺激的な格好だ。


(これで、少しでも意識してくれれば嬉しいが)


 確信犯だった。


 風呂場を出てリビングに向かうと、テオがソファで正座をしていた。

 煩悩を払おうとしていたのか。


「テオ、出たぞ。良い湯だった」

「あっ、は、はい、良かったです。じゃあ、自分も入ってきますね!」


 ヘルヴィの服を見たとき、ちょっと目を見開いて驚いて、すぐに顔をそらしていた。

 テオは立ち上がり、ヘルヴィの脇を通ってリビングを出る。


 しかしそのとき――ヘルヴィは見逃さなかった。

 悪魔であるヘルヴィは常人とは比べ物にならないくらいの動体視力を有している。

 その目が、見逃すわけがない。


(――膨らんでいる……!)


 確実に、場所的に、それは男のソレだった。

 ソレを手で抑え、前屈みになりながら、頰を赤く染めながら脇を通って行ったテオ。


 テオがリビングを出て足音が遠くなっていき、風呂場のドアが閉められる音が聞こえるまで、ヘルヴィは動けなかった。



(なんだあれなんだあれ! そういうことなのか! テオが私でそういう妄想をして、たたせて……! ああ、可愛い、可愛すぎる……! 今すぐ、食べてしまいたい……!)


 ソファに横になって身悶えているヘルヴィ。

 最初は座っていたが、横になった方がテオの残り香を嗅ぐことができると判断した。


 端から見たらただの変態だった。


(私は、我慢できるのか? これはある種の拷問ではないか? あんなに美味しく熟した果実を、目の前に置かれて食べれないなんて……)


 ヘルヴィは我慢などしたことがほとんどない。

 悪魔であるので、それは当然のことだろう。


(しかし今回は我慢しようと決めたのだ……だが、これはキツイ。いずれ我慢できずに襲ってしまいそうだ。何か、少しでも発散しないと……)


 そう考えていると、風呂場のドアが開かれた音が聞こえた。

 どうやらテオが出たようだ。


 結構早く出た、とヘルヴィは思ったが……。

 はたしてテオが風呂から上がる時間が早いのか、それともヘルヴィが身悶えていた時間が長かったのか、どちらなのかは誰にもわからない。


「はぁ……遅くなりました」


 リビングに入ってきたテオは、タオルを手にして髪を拭いていた。

 ヘルヴィのように一瞬にして乾かすような手段はないので、髪は結構濡れたままだ。

 艶やかな黒髪が、濡れてさらに鮮やかさを増している。


 服も何年も使っている寝巻きなのか、首の部分がダボついて胸元がチラチラと見えている。


(くっ……やっぱりもう誘っているだろう!?)


 テオはヘルヴィとは違い、全くそういう誘いをしようとした格好を意識していない。

 だが意識していないからこそ、無防備さが出てしまっている。


 ヘルヴィの目は見逃さない。

 ちょっとした隙を。

 テオが少し動くたびに、隙が生まれてそこを見てしまう。


 もちろん戦いにおいての隙ではなく、この場合は性的な隙というべきか。


(もう、ダメだ……)


 ヘルヴィはゆったりとソファから立ち上がり、テオに近づき両肩を掴む。


「ど、どうしたんですか? もしかして、体調悪いんですか?」


 最初は戸惑っていたが、体調を気遣って心配そうに見上げてくるテオ。

 風呂上がりだからか、なんだか良い匂いもする。


「テオ……」

「は、はい」

「キスをしよう」

「……はい?」


 聞き返したテオだが、しっかりと聞こえてはいた。


「き、き、キスですか?」

「ああ、いいだろう?」


 ヘルヴィは抑えきれないのか、肩を持ってテオを押していく。

 そんなに強くは押してないが、体格差や力の差があるのでテオはどんどん後ろに下がっていく。


「そ、その……子供が……」

「いや、さっき説明したが、キスで子供は絶対にできない」

「ほ、本当ですか? コウノトリが運んできたりは……?」

「しない、絶対にない」


 後ろに下がっていくと、壁に行き当たる。

 テオは壁に背中を預け、ヘルヴィがテオの顔の横に左手を置く。


 ここに傭兵ギルドの受付嬢たちがいたら、「見て、壁ドンよ!」と騒いでることだろう。


 恥ずかしそうに俯くテオの顔を、ヘルヴィが顎に右手を添えて上げさせて強制的に目を合わせる。


「……いいか?」

「あっ、そ、その……」


 目を一瞬右へ、左へと逸らして……。


 見上げるように目を合わせると、潤んだ瞳で言った。


「……僕とキス、したいですか……?」


 その言葉に、ヘルヴィの理性はことごとく崩れ落ちた。



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