表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/132

第14話 ゴミ掃除


 テオの家の裏路地――そこに、男たちが集まっていた。


 その数は十六人。

 全員が傭兵ギルドに登録している者たちで、テオと一度でも組んだことあるパーティが五つほど集まっているのだ。


 今日の朝、婚約者の女をいきなり連れてきたテオが調子に乗っていると、あの場にいたパーティの二人が色んな奴らに声をかけた。

 テオが今まで組んだパーティは七つ。

 一つのパーティを除いて、全部が集まった。


 その理由はやはり、テオの婚約者というヘルヴィのことだった。


「おい、めっちゃいい女じゃねえかよ」

「あんな極上の女、見たことねえ」


 小さな声でそう話している男たち。


 この世界でほぼ見かけないほどの美貌。

 女に飢えている男たちが夢中になるのは当然だった。


 そしてその女が、自分たちよりも下と思っているテオの女ということがわかった。

 男たちはイラつき、そしてほくそえむ。


 極上の女がテオのものというのは許せないことだが、それだったらすぐに奪える――と。


 そう思った者が、十六人集まっているのだ。


「お前らのパーティのリーダー、名前なんだっけか……」

「カールだ」

「ああ、そうだ。カールは来てないのか?」

「あいつは今怪我をしているからな。置いてきた」

「はっ、可哀想だな、こんな良い夜に怪我をしてるなんて」


 カールのパーティにいた男は、嘘をついた。


 確かにカールが怪我をしたのは本当だ。

 しかし、来ない理由ではない。


 今男たちが狙っている女に怪我をさせられ、カールは怖気付いたのだ。

 右腕に包帯を巻き、やり返そうと提案する仲間にカールは全力で拒否した。


『無理だ……あの女、人間じゃねえ……! 今度こそ殺される……!』


 無理やり連れていこうとしても、頑なに動かなかった。


 見限った仲間はカールを置いてきて、他のパーティに声をかけ今夜の襲撃に踏み切った。


 他の奴らにこのことを言わないのは、自分たちのパーティが今後舐められる可能性が高いからだ。

 だから怪我を理由に来ない、ということにした。


「おい、いつ仕掛けるんだよ!」

「もう待てねえよ!」


 血走った目でそう話す男たち。

 今テオの家には受付嬢のフィオレもいる。


 テオの婚約者ほどではないが、フィオレも良い女だ。

 今襲えば、二人の女を食える。


 そう思って居ても立っても居られない男たち。


「そうだな……じゃあそろそろ行くか!」

「よっしゃ!」

「テオを殺した奴が、あの極上の女を食える権利をもらえるってことにしようぜ!」


 全員がこれから起こる宴に、心を踊らせている。


 しかし――その宴は、違うものに変わる。



「ゴミが、うるさいぞ。その臭い口を閉じろ」


 突如その場に女の声が響き、驚いて全員が声がした方を向いた。


 そこには男たちが狙っていた極上の女、ヘルヴィがいた。


 いつの間に自分たちの背後にいたのかわからなかったが、その姿を見てニヤける。

 自分たちから行かなくても、あちらの方から来てくれたのだ。

 こんなチャンスはない、と。


「さて、時間がないのでな。早速場所を変えよう」


 ヘルヴィが指を合わせ、パチンと鳴らす。


 刹那、男たちは一瞬の浮遊感と共に、目の前の光景が変わったことに驚愕する。


「な、なんだ、ここは!?」


 さっきまで裏路地で暗くて狭いところだったのに、いきなり広い空間に来た男たち。

 周りを見渡すと、暗くてよく見えないが岩肌っぽい壁がある。


「ここはキマイラの巣だったところだ」


 ヘルヴィの言葉に、男たちは狼狽える。


「キ、キマイラの巣だと!?」

「あんな化け物がいるところに連れて来られたのか!?」


 そう口々に言うが、ある男が冷静に思考して叫ぶ。


「落ち着けお前ら! キマイラは討伐されたと聞いたはずだ!」


 その言葉にハッとして、落ち着き始める。


「そ、そうだ、今日倒されたって聞いたな」

「よかった、キマイラがいたらどうしようかと思ったぜ……」


 安堵したように息をついた男たちに、ヘルヴィはもっと騒ぎ立てるようなことを言い放つ。


「キマイラは、私が倒した」

「はっ……?」


 十六人の男たちが、呆然として言葉も出ない。


 目の前の女が、伝説の化け物のキマイラを殺した?

 そんなの信じられるわけがない。


「信じていないようで結構だ。そのまま死んでいけ」


 ヘルヴィはキマイラを倒したときのように、右手を前に出し、軽く振った。


「えっ――」


 男たちの中の、誰が言ったのだろうか。

 もしかしたら全員が、それとも一人生き残っている者が漏らしたのかもしれない。


 十六人中十五人の、頭が飛んだ。

 目の前の光景がクルクルと回っていることを認識した男たちは、それを最期の光景として見て、死んでいった。


「はっ、えっ……?」


 一人取り残された男は、周りが血の海に変わる中、ただただ立ち尽くしていた。

 目の前の光景が、信じられなかった。


 しかし目では仲間が死んでいる姿を、鼻では夥しいほどの血の臭いが感じ取れる。


「さて、貴様を残した理由だが……」


 この光景を作り出したであろう目の前の女は、言った。


「『テオを殺した奴が、女を食える権利』と言っていたな、貴様は」


 残った男はヘルヴィが来る前に、そう言った者だった。


「テオを、殺す。この言葉が、私をこれほど不快にさせるとは、私も思っていなかったよ」


 ヘルヴィは男を睨む。


「あっ、ああっ……!」


 それはカールを恐怖させた殺気よりも、強い殺気を含ませた視線だった。


「貴様には、他の奴らとは違う地獄を見せてやろう」


 男は泣きながら、首を落とされて死んでいった奴らを羨んだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[一言] 男達さん… ( ̄ノ ̄)/Ωチーン
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ