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第131話 浜辺に



 海中散歩を楽しんでいたテオとヘルヴィ。


 一時間ほどずっと潜っていると、テオは寒さから身体を軽く震わせた。


「さ、さすがにずっと水の中にいたら、冷えますね」

「そうか、すまない、今すぐに温めてやろう」

「えっ、えっ?」


 ヘルヴィの言葉に、テオは顔を赤くして動揺する。

 今までの言動からして、「温めてやろう」というのがどういう意味かを想像してしまい……。


 こんな美しい海の中で、そんなことをしてもいいのか。

 いやだけど、だからこそいいかも……とテオは思っていたのだが。


「……あっ、な、なんか、温かくなってきました」

「魔法でここら一帯の水温を上げた。風呂ほどではないが、冷えることはないだろう」

「そ、そうですか……ありがとう、ございます」


 とても健全な温め方だった。

 ヘルヴィほどに魔法を使うのが上手くないと出来ない温め方だが、テオが想像していたことよりもとても健全であった。


 自分がそういうことを想像してしまったことが恥ずかしく、テオはさらに顔が赤くなってしまった。


「ん? どうしたんだ、テオ」

「い、いえ、なんでもないです……」


 明らかに様子がおかしくなったテオ。

 それを見てヘルヴィは不思議に思い、テオの心の中を覗く。


 瞬間、自分の発言でテオが勘違いしていたことを見抜き、ヘルヴィも一瞬だけ恥ずかしくなる。

 しかしそれ以上にテオがとても可愛らしく思え、口角を上げてしまう。


「ふふっ、テオはもっと違う方法で、温めて欲しかったか……?」

「っ! い、いえ、その……」


 自分の考えていたことが見抜かれ、ビクッとしながらも俯くテオ。


 先程まではずっと二人は手を繋いでいたが……ヘルヴィはさらに身体を寄せて、テオに後ろから抱きつく。


「あっ……」

「これで、寒くはなくなるか?」

「は、はい……温かい、です……」


 確かに水温を上げるよりも、こちらの方がとても早く温まるだろう。

 ヘルヴィの体温はこのくらいの水温では全く下がることなく、むしろ極寒の雪の中でもヘルヴィは平温を保っていられる。


 そんな温かいヘルヴィが、水着姿になりほとんど肌が露出している状態で、上半身裸のテオにくっつく。

 温かくないわけがないだろう。


 むしろ背中から伝わる熱と、くっつかれたことにより緊張と興奮で体内の血の巡りがよくなり、むしろ熱いぐらいになってしまう。


「ふふっ、テオ、本当に寒かったのか? テオの身体、なかなかの熱を持っているぞ」

「ヘ、ヘルヴィさんのせいですよ……!」


 テオの顔のすぐ横に、ヘルヴィの顔がある。

 頬と頬がくっつくほど近い距離……テオが少し右を向く。


 するとすぐ横にヘルヴィの顔があり、唇が近づき……。


「んっ……」

「んんっ……!」


 二人の唇が重なる。

 水深百メートル以上の美しい海の中、テオとヘルヴィだけの二人の世界。


 誰も邪魔出来ない、周りには珊瑚や熱帯魚だけが二人を見つめていた。


「ん……ヘルヴィさんの唇も、ぬくいです」

「っ……それを言うならテオも、とても柔らかくて、ぬくいぞ」


 そう言ってお互いに笑い、また黙って瞳を閉じ、唇を重ねた。


 その後しばらく、冷たい海の中で、二人は身体を温めあった。



 結構な時間が経ち、もう日が沈む頃。

 二人はようやく海の中から海岸へ戻った。


 かなり長い間冷たい海の中にいたが、二人の身体は特に冷えてはいない。

 ヘルヴィの魔法のお陰というのもあるが、二人でお互いに温めあったのが大きいだろう。


「海、すごい綺麗で、楽しかったです! また一緒に来たいですね!」

「ああ、そうだな」

「次はセリアさんやジーナさんと一緒に来るのもいいですね! 大勢で行くのも楽しそうです!」

「ふふっ、そうかもな。セリアならもしかしたら、私の魔法なしでも海の中に行けるかもしれないしな」


 ここにセリアがいたら、「無茶言わないで、無理に決まってるでしょ」と言っていただろう。


「ぼ、僕もいつかヘルヴィさんの魔法なしでも、海の中に行けますかね!?」

「まあ、いつかは出来るだろうな」


 そのいつかは、百年後以上の話になるだろうが。


「ほ、本当ですか! じゃあ僕ももっと魔法頑張りますね!」


 楽しそうにそう宣言するテオを、ヘルヴィが頭を撫でる。

 海の中に入っていたが、顔の周りは空気を纏っていたので、髪は一切濡れていない。


 テオのサラサラとした髪触りが、ヘルヴィの手に伝わる。


「私ももちろん協力するぞ。ただ……魔力の量を増やすためには、アレをするわけだが……」


 本来、人にはそれぞれ自分の身体に内包できる魔力には制限があり、その限界を増やすことは相当難しい。

 しかしテオにいたっては、ヘルヴィと身体を重ねるだけで魔力量の上限が上がっていく。


 それを利用すれば理論上、何百年後かにはテオは、人類の中で一番魔力量が多い人間となるだろう。


「っ! そ、その……もちろん強くなりたいんですけど、それが目的ってわけじゃ……」

「ま、前にも聞いたから、それ以上は言わなくていいぞ」

「は、はい……」


 身体を重ねることは、あくまでもテオがヘルヴィとしたいからで……ということは、前にも伝えていた。


 これから二人は数え切れない数の夜を一緒に過ごすことになるだろう。

 その間で二人は愛をさらに育み、テオの魔力量もそれに伴って増えていくことになる。


 今日もすでに……昨日のテオよりも、今のテオの方が強いことが、その証拠だ。



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― 新着の感想 ―
[一言] >今までの言動からして、「温めてやろう」というのがどういう意味かを想像してしまい……。 順調に染まっていくテオ君ww
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