第130話 海中散歩
テオがヘルヴィに抱き上げられてから、数分後。
ようやく二人は落ち着いて話をすることにした。
ヘルヴィもテオを抱き上げるのをやめたが、テオはすでにその場所だと海中から顔が出るのはギリギリであった。
「ぼ、僕は、ここが、限界みたいです……」
「ふふっ、そうか」
「わ、笑わないでくださいよ」
また海面に顔だけが浮かぶというテオの状況に、ヘルヴィは可愛くて微笑ましくて笑みを浮かべてしまう。
だがそれもテオがずっと背伸びをしているので、なかなか辛くなってくる。
やはりヘルヴィが先程と同様に、抱き上げないともっと沖の方には行けないだろう。
ヘルヴィでももう少し先に進めば、おそらくテオと同じ状況になってしまう。
「そろそろ、海岸の方に、戻りますか?」
波がくると少し口とかに水が入ってしまい、口の中に入った海水の味に顔をしかめているテオ。
その姿も面白可愛くて、ずっと見ていたいヘルヴィ。
「テオは、もっと先に行きたいか?」
「ま、まあ、そうですね。だけど無理そうなので」
「じゃあ行くぞ」
「えっ……そ、その、ヘルヴィさんに抱きかかえられていくのは、ちょっと恥ずかしいので……」
先程のように抱きかかえられるのは、男として恥ずかしすぎる。
なのでそれだったら行かなくてもいいのだが……。
「いや、そうではない。簡単だ、魔法をかければいい」
「えっ?」
ヘルヴィはいつものように、パチンと指を鳴らす。
「テオ、海水の中に少し潜ってみるといい」
「えっ、でも……」
「まあ物は試しだ、いくぞ」
ヘルヴィがテオの手を掴んで、さらに沖の方へ行く。
すぐにテオは海面から顔が出せなくなり、完全に海の中に入ってしまう。
テオは最初ビックリして、目を瞑り頑張って息を止めていたのだが……ふと、自分の顔に海水が全く当たっていないことに気づく。
恐る恐る目を開けると、テオは海の中にいた。
しっかり泳いでいるわけじゃなく、海底に地面がついていて、少し歩く感じになっている。
一番驚くのは、息が吸えていることだ。
水中の中では息が出来ないのは、海に来る前から知っていた。
それなのに普通に息が吸えているというのは……思い当たる理由は、一つしかない。
「ヘルヴィさん、何かやったんですか?」
「ああ、私とテオの顔の周りに空気を纏わせた。だから息はできるし水中の中で目を開けられるだろう?」
「本当だ……すごいですね! ありがとうございます!」
「このくらい朝飯前だ」
まさかさらに沖の方に行けるとは思っておらず、しかも水中の中に入れるとは全く思っていなかったテオ。
「こ、これだったら、どこまででもいけますかね!?」
「まあそうだな。私といれば、どこまでもいけるぞ」
実際、ここら辺だったら大丈夫だが、もっと深いところに行くとなったら少し大変だ。
太陽の光が届かないから暗くなるし、水温が冷たくもなるだろう。
さらに深くもっと深くにいけば、水圧で身体が潰れてしまうかもしれない。
しかしそれら全て、ヘルヴィがいればどうにかなることではある。
ヘルヴィももしテオがそこまで行きたいというのであれば、とことん付き合うつもりだ。
ただテオは、少し深いところで水中に全身が入って、息が吸えていることに感動している。
「すごい、あっちに小さな魚がいます! あっ、速い……!」
魚の方へ泳ごうとするテオだが、もちろん海中の中でどれだけ小さい魚であろうと、テオよりも速い。
遠くにいる魚に近づこうとしても、魚は逆方向に行ってしまう。
「こっちだ」
「あっ、ありがとうございます」
ヘルヴィがテオの手を掴んで海中の中を移動し始めた。
するとすぐに魚の近くまで行き、手を伸ばせば触れるくらいの距離になった。
「ヘルヴィさん、泳げるんですね!」
「まあ魔法の応用で移動してるだけで、しっかり泳いでいるわけじゃないが」
水の中なので、自分で水を操るようにして運んでもらっている感じだ。
ヘルヴィは簡単にやっているが、ほとんどの魔法使いが出来ないだろう。
そんな高度な魔法とは知らず、テオは海中の散歩を楽しんでいる。
「とても綺麗な模様な魚ですね! あっ、ヘルヴィさん、上見てください! 光が反射して綺麗です!」
「ふふっ、そうだな。太陽の光が、ここだととても幻想的に見えるようだ」
「すごい……!」
その後もしばらく、テオとヘルヴィは手を繋いだまま、海中散歩を楽しんだ。
報告遅くなりましたが、
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「願いを叶えてもらおうと悪魔を召喚したけど、可愛かったので結婚しました」
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