第129話 水深?
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします!
「あっ、これってあれなんですね、海岸から遠ざかるほど、深くなっていくんですね」
「ああ、そうだな」
海に遊びに来たものだったら必ず知っていることを、テオは知らない。
なので沖に行けば行くほど、水深が深くなっていくことを初めて知った。
「これって、どこまで行けるんですかね?」
周りを見渡すと、浅瀬でしか遊んでいない人が多い。
家族連れは子供がいるので奥には行けないし、異性との出合い目的の奴らはそもそも海に入っていない。
なのでどこまで沖に進めるかは、全くわからない。
「どうだろうな」
「……た、試してみてもいいですか?」
「ふふっ、別にいいぞ」
どこまで深さがあるか試してみたいと思うのは仕方ないことだろう。
テオはキラキラとした目で海岸から離れていき、ヘルヴィは後をついていく。
海の中を歩くのもなかなか大変で動きづらかったが、経験したことない感覚にテオは興奮していた。
少し歩き、海岸から十メートルほど離れた場所ぐらいか。
そこらへんで、テオの限界がきた。
水深が深くなり、テオは今海から顔しか出ていない状態だ。
つま先立ちをしてそれくらいなので、後もうちょっと進めば泳がないと沈んでしまうところまで来た。
だが……ヘルヴィは、まだ胸が海面から少し出てる程度、まだ余裕がある。
もともとテオとヘルヴィは、身長差が頭一個分ほどヘルヴィの方が大きい。
だから必然的に、限界が早く来るのはテオの方になるのだ。
「うぅ……これより先は、僕は無理です……」
テオは少し恥ずかしそうに海面から顔だけを出してそう言った。
ちょっと上を向いとかないと、口や鼻が海の中に入ってしまう。
そんな顔だけ海面から出ていて、頑張って上を向いているテオを見て……。
(くっ……なんという可愛らしさ……!)
ヘルヴィが悶えないわけがなかった。
可愛すぎて、このまま顔だけ持ち帰りたい気分になってしまう。
さすがにそれをするのはダメなので、ニヤけるのを我慢しながら海面に浮かんでいるテオの可愛い顔を、しっかりと目に焼き付けた。
テオはこれ以上進みたいようだが、泳いだことがないのでぶっつけ本番で、足がつかないところで泳ぐことが出来るか試すのは少し怖い。
「テオ、もっと先に進みたいか?」
「そうですね……だけど泳げるかわからないので、怖くて」
「ふふっ、それなら」
「えっ、わっ」
ヘルヴィがテオに近づき、腰に両手を回して持ち上げるようにする。
すると海中なので水の浮力で軽くなっているテオは、簡単にヘルヴィに持ち上げられてしまう。
「これなら先に進めるだろ?」
「そ、そうですけど、恥ずかしいです……!」
ヘルヴィが正面から抱き上げたことによって、テオとヘルヴィの顔はとても近づいた。
少しずらせばそのままキスを出来るくらいだ。
それにテオとしてはヘルヴィに抱きかかえられること自体が、とても恥ずかしい。
先程、テオの背中にヘルヴィの胸が当たるなどがあったが、今は胸と胸同士がくっついて当たっていた。
顔を赤くするテオに、ヘルヴィはまたさらに可愛くてドキドキしてしまう。
そして我慢が出来ずに、目の前にあるテオの唇を塞ぐ。
「んっ」
「んぅ!? ヘ、ヘルヴィさん、なんで今、キスを……!」
「ふふっ、テオが可愛すぎて、我慢出来なかったからだ」
「うぅ……」
真正面からそんな恥ずかしい台詞を言われて、何も言い返せないテオ。
だが最近のテオは少しずつ耐性がつき、なんとかやり返したいと思うようになった。
先程の日焼け止めのオイルを塗る時に、少しやり返せたかもと思っていた。
だからここでも少しやり返したい。
もちろんこの場合のやり返すとかは、殴る蹴るなどの暴行ではない。
恋愛において少しでも相手に不意をついてドキっとさせたい、という意味だ。
実際、テオが意図せずともヘルヴィはテオにドキドキしっぱなしなのだが。
やり返そうと思ってもこの場で出来る行動は限られている。
抱きかかえられていて身動きが出来ない、自分が動かせるのは両手と、頭くらい。
それを考えてテオがやった行動は……。
「んっ!」
「っ……!」
「んぅ……ど、どうですか?」
キスの仕返しだった。
先程のヘルヴィからのはしっかりと唇を塞いで数秒くらいのキス。
今テオがしたのは一瞬だけくっつける、本当に軽くつけるだけのキス。
テオはやり返せたのかどうか反応を見るべく、ヘルヴィを上目遣いで見つめる。
今のテオからのキス、上目遣いで見つめてくる仕草が……また、ヘルヴィに火をつけてしまった。
「テオ……んっ」
「んぅ!? ヘル、ヴィさん……んっ……!」
今度は数秒じゃなく、長く深くのキス。
テオはヘルヴィに抱きかかえられているので、もちろん逃げることなんて出来ない。
逃げることが出来たとしても、逃げてはいないが。
そのまましばらく、その海岸には沖の方で男女が二人、ただ突っ立っている光景が続いた。
幸運にもヘルヴィの背中が影になって、何をしているかまでは海岸にいる人にはわからなかった。
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