表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

123/132

第123話 海水浴場



 王都の近くには、海水浴場がある。

 綺麗な浜辺があり、海も透き通っていて、王都の観光要所としてとても有名だ。


 家族連れや友達だけで来ている者もいれば、もちろん恋人同士で来る者もいる。


 そしてこの海水浴場でよくあるのが、ナンパだ。

 男性から女性に、女性から男性に、どちらも多くある。


 ただ単に恋人が欲しいという者もいれば、貴族などを狙って玉の輿に乗ろうとする者もいた。


 貴族の男性や女性が海水浴場に遊びに来ると、それはそれは酷い状況になる。

 その周りに異性の人達が集うのだ。


 だがやはり男性でも女性でも、異性が周りに集まりモテるのは、とても気分がいいものである。


 なのでわざわざ何も用がないのに、貴族の者がチヤホヤされに海水浴場に来ることが多い。


 今日も何人かの貴族、特に女性の貴族が来ていた。

 多少容姿が悪くても、玉の輿を狙う顔や容姿に自信がある男達が、その貴族の周りに集まる。


 優越感を得るために、海水浴場に来た貴族の女性達だったが……今日は、無理だった。


「テオ、パラソルを建てるならここか?」

「は、はい、そうですね」


 一組の若いカップルが、海水浴場にいる男達の目を奪っていたからだ。


 そのカップルの男性の方は、特に目が惹かれるところはあまりない。

 容姿は整っているがまだ少し子供。


 だがその一緒にいる女性が……あまりにも、美しすぎた。

 男性だけではなく、女性までもその美しさに感嘆の声を上げ、見惚れてしまう者もいる。


 透き通るような肌に、漆黒の水着。

 露出度はもちろん普通の服よりも高いが、下品な露出は一切ない。


 漆黒のビキニに、少し透ける黒のパレオスカート。

 決して他の女性よりも露出度が高くないはずなのだが、それでも老若男女を魅了するその美しさ。


 太陽に反射して燦々と輝く銀髪は、漆黒のビキニにこれ以上なく似合っており、彼女の魅力をさらに引き立てる。


 どんなに素晴らしい画家でも、その美しさを絵画にするのは不可能だろう。


 海水浴場にいるほぼ全員が、そう思ってしまった。


 まさしく国を滅ぼすほどの美しさ、傾国の美女とは彼女のことだろう。


 海水浴場にいる老若男女、全ての視線を集めているそのカップルは……。


「……鬱陶しいな。海を割く魔法でも放てば、ここにいる全員が逃げ出すか?」

「そ、それはやめましょう、ヘルヴィさん」


 とても物騒な話をしていた。

 もちろん周りには聞こえない程度の声で。


 聞こえていたとしても、冗談だろうと笑われるような言葉だが……ヘルヴィは本気だったし、それが出来るほどの力を持て余している。


 テオに止められていなかったら、本当にやっていたかもしれない。


 それほど、周りの目が鬱陶しかった。


 男からは下卑た目を浴びて、とても気持ちが悪い。

 しかも隣にいるテオを蔑む目もきているので、それをした男……海水浴場に来ている男のほとんどなのだが、そいつらには報いを与えている。


「いっ……! こ、股間に、急に、激しい痛みが……!」

「ギャッ! つ、潰れ……!」


 さすがに潰してはいないが、それと同等ぐらいの痛みは与えている。


 海水浴場にいるほとんどの男が、股間を抱えながら蹲っていた。

 知らぬ人から見れば、とても珍妙な光景だ。


「……この光景は、ヘルヴィさんがやったんですか?」

「まあそうだな。テオを馬鹿にした罰だ」

「うぅ……とても嬉しいですけど、なんか同じ男性としては複雑な気持ちです……」


 周りの男達が蹲る姿を見て、テオも特に痛みはないのに股間が気になってしょうがなかった。


 男性からの下卑た目はこれでほとんど解消するのだが、女性からの視線は別だ。


 少数の女性は見惚れるような、特に不快感がない視線をくれるのだが……それは本当に、極々少数。


 ほとんどの女性が、嫉妬の目を浴びせてくる。

 男の嫉妬は見苦しいとよく聞くが、女の嫉妬はとても鬱陶しい。


 カッコいい男をナンパしようとしていた女性達が、その男達を虜にしているので恨むような視線も浴びせられている。


 中には恋人や夫がヘルヴィを見ているので、それをヘルヴィのせいにしている奴もいた。


(それは単純に、私を恨むのはお門違いだろ。相手の男を怒るか、相手の男すら魅了出来ない自分を恨め)


 まあだが、ヘルヴィも少し気持ちはわかるかもしれない。


 テオが他の女に夢中になったりしたら、テオよりも女の方を恨む可能性は否定出来ない。


(だが……テオがそんなことを、するわけがないな)


 もう数十分はこの水着姿になって隣にいるのに、いまだにしっかりと水着姿を直視出来ていないテオ。


 だけど時折、恥ずかしそうにチラっとヘルヴィの方を見ては、耳を真っ赤に染めてぷいっとすぐに顔を逸らしていた。

 その姿を見れば、この海水浴場にいる他の女など、テオが全く見ていないということがわかるだろう。


 だが、やはり少しはちゃんと見てほしいというのが、女心というものだ。

 せっかく少し恥ずかしいのを我慢して着ているのだから。


 どれだけ多くの男達の視線を独占しようが、どうでもいい。


 ただテオの目線一つを、しっかり奪えているのであれば。


「テオ、私の水着姿はどうだ?」

「え、えっと……も、もちろん綺麗です!」

「ふふっ、そう言うなら、しっかりと私の方を見て、目を見て言ってくれ」

「っ! うぅ……!」


 テオは顔を真っ赤にしながらも、ヘルヴィの方を向く。


 恥ずかしそうにもじもじとしながらも、ちゃんと真正面からヘルヴィの姿を捉える。


「と、とても綺麗で、可愛くて……素敵です……」

「……そ、そうか、ありがとう」


 拙い言葉だったが、その顔や態度から、ヘルヴィへの好意が漏れ出ていた。

 それを感じたヘルヴィも、少し顔を背けて赤くなった顔を隠そうとした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[一言] あれ?おかPEOPLE?口から砂糖が出てきたぞぉ?
2020/10/04 22:46 退会済み
管理
[気になる点] 海王の話は、続きがあるでしょうか? あったら嬉しいです。
[一言] > まさしく国を滅ぼすほどの美しさ、渓谷の美女とは彼女のことだろう。 誤字とはわかっていてもくすっときたw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ