第122話 仕置とは何か
「……死ぬかと思ったっす」
「むしろ、一回死んで生き返った気分です」
キーラとクレスは、街中のカフェでテーブルに突っ伏していた。
ナンパのために街に出て、最高に好みの男の子、テオを見つけ……。
予想だにしないことは多々あったが、順調に仲良くなり。
最後に、最大の欲望を発散しようとテオを連れて行こうとしたところに、まさか奥さんがくるなんて思わなかった。
しかもその相手が、対面しただけで勝てないと思わせるようなヘルヴィだったとは。
「まさか、テオ君が既婚者で、奥さんがアレだったとは……夢にも思わなかったっす」
「……私のテオちゃんが」
「クレス、そういうの言わないで……あの悪魔のような女が聞いているかわからないっすから」
「頭で思ったことを読み取られるなら、喋っても同じことだと思いますが」
「えっ、そうだったんすか? そんな魔法あるんすか?」
「聞いたことないです。おそらく格下だけに通じる魔法です」
「やっばー……敵対したら、絶対に死ぬっすね」
敵対したくないからあのクズ貴族の下から逃げたのに、まさかこんな形で会敵するとは思ってもいなかった。
「なんとか逃げれた……いや、見逃された感じっすね。テオ君のお陰で」
「そうですね。やはりテオ君は天使のような神様でした」
「同感っす。だけどなんか、仕置があるって言ってたっすよね」
ヘルヴィが二人に刀の代金を渡す際に、放った言葉。
『あとで仕置だけで済ましてやる。ただ次はない、いいな?』
これの仕置というのが怖いが、それだけで済んだというのが奇跡だろう。
それこそ、天使テオのお陰だ。
「仕置ってなんすかね……さすがに逃げられないっすよね?」
「やめておいたほうがいいですね。この王都から逃げて捕まったら、ほぼ確実に次こそ殺されます」
「そうっすよね……痛いんすかね?」
「苦しいかもしれませんね」
どんな仕置か、全くわからない。
あの化け物がやるような仕置だ、ほぼ拷問に近いかもしれない。
それを二人は想像して……。
「あっ、ヤバ、興奮してきたっす」
「早くしてほしいですね。私、ずっと夢見てたんです。自分よりも強い者に、支配されるのを」
「うちは痛いほうが好きっすけど、苦しいのでも全然ありっす」
「首絞めとかしてほしいですね……はぁん、今のうちに下着をもっと過激なのにしておきます」
「うちもそうするっす」
二人は超が付くほど、ドMだった。
我々の業界ではご褒美です、が本気でいけるような二人だったのだ。
「も、もしかしたら、テオ君からも仕置をされたら……!」
「っ! 天才ですか……! はぁ、もう興奮で待ちきれませんね」
「うちもっす! テオ君に鞭とかで叩かれたら……もう昇天するっす」
「言葉責めなんかも、いいですね……」
二人は泊まっている宿屋に戻ることに。
この後の楽しみに、胸を踊らせ股を濡らしていた。
◇ ◇ ◇
「むっ……」
「どうしました、ヘルヴィさん?」
「いや……なんか身震いがしてな」
一方、ヘルヴィとテオはまだ昼ご飯を食べていなかったので、少し遅いがご飯を食べに行くことに。
今日はどこかの店に入るというよりは、街で食べ歩きをしようということになった。
しばらく歩いていたら、ヘルヴィが何か嫌な予感のような、ゾッとしたものを感じて辺りを見渡したが、特に何もなかった。
「寒いですか?」
「いや、大丈夫だ」
ヘルヴィは身体を魔力で常時まとっているので、雪が降り積もっているような場所でも、溶岩が燃え盛っているような場所でも、今の格好のまま悠々と暮らせる。
しかしそれを知らないテオは、ヘルヴィと手を繋ぐ……だけではなく、その腕に抱きついた。
「こ、これで寒くないですか……?」
「っ〜! あ、ああ……とても暖かいぞ」
普通ならば男女が逆でやるような体勢だが、二人にはそれが合っているような気がした。
いや、いつかはテオも、ヘルヴィから腕に抱きつかれ身体を預けてもらいながら、街を歩きたいとは思っている。
ただ今は、ヘルヴィが寒がっているから、自分が抱きつく方だ。
もちろん、ヘルヴィは全く寒かったわけではなかったが、それを言うことはない。
テオの気持ち、テオの行動が可愛すぎて、先程の悪寒などすでに忘れてしまった。
「し、しばらくはそれで頼む、テオ」
「わ、わかりました……!」
テオは顔を真っ赤に染め、ヘルヴィは頰と耳を赤く染めて、くっつきながら歩く。
前は街を歩いた時は嫉妬の目線などが多かったが、今回は街に家族連れや夫婦が多いからか、生暖かい目線を向けられることが多かった。
「あらあら、とてもお熱いカップルですね」
「違うよ君、あの子らの左手を見てごらん」
「あらまぁ指輪が、ご夫婦でしたか! まだお若いのに、ふふっ、いいですね」
一組の熟年夫婦がすれ違いざまに、なかなか大きな声でそう言って微笑ましそうに去っていった。
その声につられて、さらに周りの目がヘルヴィ達に集まる。
テオはもちろんそんなのに慣れていなく、ヘルヴィも注目されることは慣れているが、こういう生暖かい目線で見られるのはなかったので、二人揃って恥ずかしくなる。
「な、なんだか恥ずかしいですね」
「そ、そうだな。しかし、やはり指輪を買っておいてよかったな」
二人はそんなことを話しながら、街で食べ物を買って食べ歩きを楽しむ。
その間は……決して、テオはヘルヴィの腕から離れなかったし、ヘルヴィもテオを離そうとはしなかった。




