第120話 いざ、イイところへ…?
「どうですか? 僕の、お味は……?」
「……最高っす。もうなんか、その言葉だけでも美味しいっす」
「美味しいですね、二つの意味で。後半部分の言葉をもう一度言って頂けると嬉しいです」
「よ、喜んでもらえてよかったです……?」
高台で、キーラとクレスはテオの弁当を食べていた。
味はめちゃくちゃ美味しい。
とても家庭的で、温かい料理だ。
さすがに王都の高級料理店と比べると、味は劣ってしまうかもしれない。
だけど、ずっと、毎日食べたいのは、こちらのテオの料理だろう。
それはもちろんテオの性格や、思いやりだったりを含めて、ずっと食べていたいということだ。
(というか、マジで結婚して毎日ご飯を作って欲しいっす)
(私はもう結婚しました)
(何言ってんすか)
またテオに気づかれない程度に目線を交わし、意思疎通をしている二人。
二人は長椅子に座り、その前にテオが椅子に座っている。
テオの椅子の方が柔らかく、座り心地が良いものをクレスは魔法で作った。
「そういえば、お二人は傭兵なんですか?」
テオと二人は本当に会ったばかり。
見た目がどストライクだったから、二人がテオをナンパしただけだ。
しかもそれが思わぬ形で成功したから、このように高台でテオのお弁当を食べていた。
キーラとクレスの想定だったら、ナンパしてそのまま連れ込み宿に行く予定だった。
だがこれはこれで、とても良い時間である。
「そうっすね。こう見えても、結構強いんすよ。貴族から名指しで指名もらうくらいには」
「えっ! 本当ですか!? すごいですね!」
「ええ、すごいのです。私はすごいから、もっと私への評価を上げてもいいですよ」
「そこでうち達、って言わないところが、クレスっぽいっすね」
「ふふっ、仲良いんですね」
いつもの軽い言い合いをしていたら、二人は「天使の微笑み」に出会った。
(やっぱりここが天国みたいっすね)
(私達はいつの間にか、天使をナンパしていたみたいです。早く堕天使にしたいです)
(天使を汚して、堕天使に……いいっすね)
そんなことを考えながら、二人はテオのお弁当を食べていく。
「テオ君は何やってるんすか? 格好的に、王都のどこかの商人の息子とかっすか?」
格好だけ見ると、ほどほどに綺麗なので貴族の息子か、商人の息子っぽい。
だがどちらでも、これほど純粋な子が育つことは珍しすぎる。
「い、いやいや、違いますよ。僕はこの王都に旅行で来ているだけで、いつもは他の街で傭兵をやってます」
「テオちゃんも傭兵を?」
「はい。だけど全然弱くて、魔物も最近ゴブリンを数体同時に倒せるくらいで……」
苦笑気味にそんなことを言うテオに、すぐさま反応する二人。
「大丈夫っすよ! 最初はみんな弱いっす。テオ君はまだまだ若いんすから、これからっす!」
「そうです。たとえテオちゃんが弱くても、私はテオちゃんのことを見捨てません。私が育てます」
「っ! キーラさん、クレスさん……!」
テオはとても嬉しそうに、顔を輝かせる。
なお、クレスの「私が育てます」という言葉は、意味がよくわからないので気にしないことにしていた。
早くもクレスの扱いに慣れてきたテオだった。
「ありがとうございます、お二人とも! とても励まされました!」
「あははっ、それは良かったっす!」
「そうですね。テオちゃんの笑顔が守れたなら、私は本望です」
そんなことを話していると、ついに二人がテオのお弁当を食べ終わった。
最後のおかずを食べたのはクレス。
キーラが最後から二つ目のおかずを口に入れた瞬間に、素早く取って食べた。
それにイラっとしたキーラだったが、我慢をする。
これから……とても、とても楽しみにしていた時間が、待っているのだから。
「ご馳走様っす! いやぁ、美味しかったっす!」
「お口に合ったようで良かったです!」
「ええ、合い過ぎました。もうこれ以外食べれなくなって、餓死するぐらいには」
「あはは、大袈裟ですよ」
テオは笑いながらお弁当の片付けをしている。
それを見て、二人は目線を交わして頷く。
(よし、行くっすよ。てか絶対に連れて行くっす)
(はい。もう私は我慢出来ません。あとはテオちゃんを下でも食べて、完食します)
(超下ネタっすけど、まあその通りっす!!)
二人はこれからヤることを共有し、それに向かって行動する。
「じゃあテオ君! 弁当のお礼に、イイところ連れて行ってあげるっす!」
「えっ? いや、お弁当は僕が刀を買ってもらったお礼に食べてもらったもので……」
「お弁当もとても美味しかったので、刀の件はチャラです。むしろ私達に借りが出来たほどです」
「い、いやいや! このくらいじゃ返しきれませんよ!」
「じゃあ返しきれてないってことなら、とりあえずついてきてほしいっすよ!」
「そうですね。とてもイイ場所へ、連れていってあげますから」
「ほう、貴様らは私のテオをどこに連れていこうとしてるのだ?」
「それはもちろん……えっ? い、今の、クレスが喋ったっすか?」
「……違います。どう考えても、私達の後ろから聞こえましたが」
この場には三人しかいなかったはず。
なのにどう聞いても、四人目の声が混じっていた。
声の発生源は、キーラとクレスの後ろ。
二人は恐る恐る振り返る。
振り返る前から声に聞き覚えがあって、なんとなくその人物が頭に思い浮かんでいた。
だがその人物じゃないことを、心の底から願った。
なぜならその人物がここにいて、「私のテオ」と言っているということは……最悪な未来しか、予測出来ないからだ。
しかし、二人の願いは神にも誰にも届かず――。
「もう一度聞こうか。貴様らは、私のテオをどこに連れていくつもりなのだ?」
そこには、悪魔がいた。
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「海に捨てられた子供、人魚に拾われる 〜海の怪物達を支配し、世界最強の海王となる〜」
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