第118話 高台で
高台。
王都の町並みを広く見渡せるほど高い場所である。
この高台に登る階段を見つけるのは難しく、人が来ることはほとんどない。
知る人ぞ知る、デートに使える穴場である。
(こんなところ、いつ見つけたんすか?)
(前にこの街を上から見下ろして、良い男がいないか探してたときです。良い男はいなかったですが、良い場所は見つけました。それが役に立ってよかったです)
街中を見渡せる場所に、クレスが魔法で椅子を作った。
木で作っていて長椅子であるが、どう見ても三人が座るには狭すぎる。
二人用の長椅子の大きさだが……。
「じゃあテオ君、一緒に座るっす」
「そうですね。ええ、早く座りましょう」
「えっと……僕は、どこに座ればいいのでしょうか?」
当然の感想だった。
すでにキーラとクレスが座っているが、どこにもテオが座る場所がないのだ。
「あっ……もしかして、僕は、地面ですか……?」
「そんなわけないっす! そんなイジメみたいなことしないっすよ!」
「そうです。テオちゃんが地面に座るのであれば、私が地面になります」
「ちょっとクレス、変態が出てるっすよ」
テオは昔にパーティを何度も追放されていた時の扱いを一瞬思い出したが、そうではないと言われてホッとした。
「テオ君の座る場所は、うち達の太ももっす!」
「えっ?」
「どちらの上でも構いません。ですが私の方が良いと思われます、絶対に、死ぬほど」
「うちの方が良いっすよ! しっかり抱きしめて落ちないようにするっす!」
「私の方がキーラよりも太ももが柔らかく、そしてテオちゃんが座った時に後頭部に当たる部分も大きく柔らかいです」
「……喧嘩売ってるんすか?」
「事実を言ったまでです。あっ、もちろん後頭部ではなく、テオちゃんのお顔を埋めても良いです。むしろ推奨します」
太ももに座るということに驚いているテオを置いて、二人は色々と盛り上がっていた。
どちらの太ももに座った方が良いか、テオに熱弁している。
「あ、あの、さすがに二人の上に座るわけには……」
「大丈夫っすよ! うちは鍛えてるっすから、テオ君ぐらいの子が乗っても痛くも痒くもないっす! むしろ気持ちいいっす!」
「き、気持ちいい……?」
「そんな鍛えて硬い太ももの上にはテオちゃんも乗りたくないでしょう。私の方が柔らかくて身体を埋めるには最適です。どうぞどこまでもテオちゃんの身体を私の身体に埋めてください」
「えっと……?」
二人が早口すぎて何を言っているのか、よくわからないテオ。
「と、とりあえず、もう一個僕の椅子を出してもらえたら嬉しいのですが……」
「……すいません。私の魔力はこの長椅子を作るのに使い切ってしまったので。あと一発で魔法を放ったら死んでしまいます」
クレスのその言い訳に、キーラは舌打ちをしたいのを我慢した。
(何言ってんすか! 魔力は尽きたら死ぬっすけど、普通は尽きる前に気絶するんすよ! まず顔色も全く変えずにそんなこと言って、絶対に嘘だってバレ……!)
「えっ!? ほ、本当ですか!? 大丈夫ですか!?」
「あれー?」
とても心配そうにテオは慌て始めた。
背筋をピンと伸ばし、体調なんてどこも悪そうにないクレスを見て。
(テオ君、すっごい純真無垢っすねー……悪い人に騙されないか、不安っす)
キーラは自分達のことを棚に上げ、そんなことを思っていた。
「なので申し訳ないですが、テオちゃんの椅子の分は作れそうにないので、私の膝の上に正面んから抱きしめるように……」
「よ、横になりますか? あ、だけどここの地面じゃ硬いですよね。僕の膝を貸す……いや、そんなのじゃ治らな――」
「治ります。それをやられたら絶対に治ります。膝枕をお願いします」
「えっ?」
突然の膝枕というチャンスに、欲望に従って口走ってしまったクレス。
自分の太ももの上に座ってもらうというよりも、膝枕の方がして欲しいようだ。
「えっと、膝枕して欲しいですか……?」
「はい」
「ちょ、ちょっと待つっす! うちもその……なんだか貧血で、フラついてきたっす! これはテオ君の膝枕をしてもらうしかないっす!」
「キーラ、黙ってなさい。あなた、貧血になんてなったことないですよね」
「それを言うならクレスもっすよ! あんたが魔力が尽きかけたことなんて、見たことないっす!」
「……嘘だったんですか?」
「「あっ……」」
言い争いの中で、嘘だということをバラしてしまった。
「クレスさん、嘘だったんですか?」
「そ、その……すいません」
クレスは長椅子に座っているので、身長が低いテオに見下ろしされている。
少し怒っているような顔をしているテオ。
クレスは(嫌われたかもしれない)と恐れると同時に、(テオちゃんに見下ろされるのも良い……)と興奮もしていた。
「もう、心配したんですからね! こんな嘘、もう言わないでくださいよ!」
「……はい、テオちゃん」
「だけど、無事なようで安心しました!」
「はぅ……!」
怒っている顔も可愛く、ホッとして笑う顔も天使のように後光が射して見えた。
クレスは手を組んで祈りを捧げたい気持ちになった。
「とりあえず、僕のお弁当食べましょう! 椅子をもう一個用意してもらってもいいですか?」
「はい、天使様」
「……天使様?」
またクレスがよくわからない言葉を喋ったと思ったテオだが、「そういう人なんだ」と思って気にしないことにした。
(はぁ、テオ君可愛いっす。もうなんか、ヤらなくても満たされてる気がするっす)
(本当ですね、見てるだけでも癒されます。ですが、絶対にヤります)
(そうっすね)
テオがお弁当を出して広げている間、二人は目線を交わしてそんな会話をしていた。




