〜あなたの眠りにお供します〜第六夜
眠れない夜に贈る物語。あなたにそっとお供します。もちろん、途中で寝てもかまいません。さぁ行ってらっしゃい。
『七夕』
かさかさと風に吹かれ、笹の香は宙に舞った。
「今年も会えなかったね」
大粒の雨が降り始めている。いつになったら、私たちは……。
昔彼に言われた言葉を未だに信じてる。
『どこにいても、七夕には会いに行くよ』
って。あの言葉を聞いてから七夕は毎回ベランダで過ごしてる。友人から「もう五年経つんだよ?」そう言われたって、どうしたって、待っていたいんだから。
「お願いだから、もう、止んでよ……」
灰色の空には風がびゅうびゅう鳴り響き、ふりかかる雨が私の顔を濡らした。銀色の柵にもたれ掛かって、濡れることも構わず突っ伏す。
もう待てないよ。あなたはふっといなくなってしまったんだから――。
その時、あたたかい風が私を包んだ。
「顔はあげないで」
行動を読んだかのようにそうささやかれた。彼の……声だ。
「あなたなの……?」
聞かなくてもわかっていた。あたたかい彼が、そこにいる。
「ごめんね。もう待っていなくていいんだよ」
彼の言葉は胸にすっと染み込み、私の心を離さない。何を今更……。風に乱され、笹の葉が揺れる音はどんどん大きくなっていく。
「なんでそんな事言うのよ」
少しむきになっていた。なんて子供っぽいセリフなんだろう。久しぶりの彼なのに、素直になれない。ゆるやかな風が頬をなでた。
「君が好きだから」
はっきりと聞こえたその声に、思わず顔をあげてしまった。すっと光が灰色の空へと消え、かさかさと笹が鳴る。笑ってるみたいだ。ふと横を見ると、黄色い短冊が飾ってあった。こんなの飾ったっけ? そう思って覗き込むと、
『幸せになってね』
と、書かれた文字が滲んでいた。
七夕の日、皆さんは誰を想っていましたか。
想いは論理を越える。
そんな特別な日もあるのかもしれませんね。
それでは、良い夢を。
「おやすみなさい」




