〜あなたの眠りにお供します〜第四夜
眠れない夜に贈る物語。あなたにそっとお供します。もちろん、途中で寝てもかまいません。さぁ行ってらっしゃい。
『ローズ・マリー』
チクタクチクタク。さっきっから時計を気にしている彼。今日の回数は異常だ。
「ねぇ、そんなに早く帰りたいの?」
少し棘のある言い方だったかもしれない。彼は一層肩を縮めた。
「ち、違うんだ」
「何が違うのかわからない」
そう言ってバッグを持った瞬間。丸テーブルに店員が近づいてくるのが見えた。かわいいバラのケーキを携えて。
「ハッピバースデートゥーユー。ハッピバースデートゥーユー。ハッピバースデーディア、まりさーん。ハッピバースデートゥーユ~」
三人の店員と彼が手を叩いている。めまいがした。
「あ、ありがとう」
満面の笑みの彼が火を消すように促す。
フゥー。あっけなく消えた五本のろうそくは、私の年には全然足りなかったが、そんな事はどうでも良かった。だから朝から変だったんだ……。本当に早とちりしてしまった自分が恥ずかしかった。真っ白いクリームに囲まれて、ピンクのバラが咲き誇っている。堂々としてていいのよって言ってるみたいに。彼と「はんぶんこ」してバラも半分になってしまったけれど、相変わらず存在感があった。
「いただきます」
一口運んだ瞬間。幸せな味が口いっぱいに広がった。甘すぎず、クリームもスッキリとしている。
「おいしいっ」
そう言って彼の方を見ると、満足そうな誇らしげな笑みが返ってきた。
バラの花びらを一枚一枚丁寧に剥がしながら食べていく。てっきり硬いのかと思ったら、とっても柔らかく溶けた――。
甘い気分のまま、私は助手席に乗り込んだ。
「今日はごちそうさまでした」
改まった口調で言うと、彼は自分の首をさっと触った。恥ずかしいときの癖なのだ。
「いえいえ。喜んでもらえて良かったよ」
そう言うとハンドルを強く握って前を向く。走り出して五分くらい経ったとき、彼は前を向いたままぽつりと言った。
「ちょっとそこの引き出し開けてくれる? 説明書取って欲しいんだ」
「どこの引き出し?」
「そこのさ、真里ちゃんの前の」
「あ、ここね」
バンッと開けるとバラの花束が姿を現し、思わず
「えっ!」
と、軽く叫んでしまった。彼はちらっと私の方をみて嬉しそうな顔をする。
「それ、真里ちゃんに」
水々しいピンクがほんのり香ってきた。赤じゃないところがまったく彼らしい。
「ありがとう」
「うん! え、ちょっ、泣かないで」
彼に言われて初めて自分が泣いていることに気がついた。車内にはほのかに甘い香りが漂い、二人をふんわりと包んだ――。
さて、そろそろ眠りの時間がやってきたようです。
皆さんにもバラの甘い香りが漂ってきましたか?
ケーキを食べる夢とか見れたら幸せですね。
それでは、
「おやすみなさい」




