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RedWing ~光翼のクレイン〜  作者: やいろ由季
第二章 フェスティバル
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襲撃③

 雪輝は向かってくる敵機に怖気づくどころか、むしろ青鷹を加速させていた。

 敵機も減速はしない。正面衝突の時が目前に迫っていた。


 戦闘機の鼻先同士がぶつかり合う寸前、雪輝は機体を真横に倒して目前の敵機を避けた。敵機も同じように真横になり、ぎりぎりの間隔ですれ違う。


 互いの戦闘機の背側同士ですれ違ったほんの一瞬、雪輝は戦闘機の全容を見ることができた。雪輝がその一瞬で見たものは、グレーの主翼に描かれたワインレッド色の鷹のマークだった。


「あいつら、どうしてここに――!」

 わずかの間、雪輝の呼吸は止まった。操縦桿を握る手が強張る。


 しかしすぐに操縦桿を握り直して前方を見据えると、小さな動きで方向転換し、敵機の後方をとった。

「そう簡単にお前らなんかに負かされるかよ……!」


 雪輝は低く言い捨てると、ハヤブサのごとく敵機を執拗に追い回し始めた。


◆ ◇ ◆


 櫻林館のフェスティバル会場の真上を通過しつつ、千鶴はどのように眼前のグレーの機体を櫻林館から引き離そうか悩んでいた。後ろをとったものの、ここではミサイルもバルカン砲も発射するわけにはいかない。

 眼下には避難にもたついている民間人も見られる。そしてその中には莉々亜も陽介もいるのかもしれない。


 千鶴が苦渋に奥歯を噛みしめたとき、下方からバルカン砲が連射された。

「本部の迎撃!」


 砲身は上を向いている。しかし発射されたバルカン砲は、千鶴が追う戦闘機を狙ったわけではないようで、千鶴の進行方向とは真逆の海上を向いていた。


「何を狙ったんだ……?」

 後方を映し出すウィンドウを出して注意していると、もう一度砲台からバルカン砲が発射された。


 海上の青空の真ん中が不自然に歪んだ。

「あんなところにステルス機がーー!」


 歪みは次第に大きくなり、ついには施されていた光学迷彩が解けて大きな機体が姿を現した。


 それは戦闘機ではなく輸送機のような大きな図体をした機体だったが、何より目を惹いたのは巨大な円盤のようなアンテナが搭載されていることだった。


「なんだ、あの大きな電波妨害装置は! あれがジャミングの元凶……!」


 砲台がその機体に向かってバルカン砲を連射する。

 しかし電波妨害装置を搭載した輸送機は、その装甲でバルカン砲を弾きながら針路を変え、背を向けて加速を始めた。


「逃げるのか!」

 すると千鶴が追っていた戦闘機も急に方向転換し、輸送機を追うように伊勢湾方面に針路を変えた。


「逃がすか!」

 千鶴が加速しかけた時、雪輝の通信が入った。


「千鶴、もう終わりだ。あいつらは退避を始めている。追うのはやめておけ」

「退避だって!」

「やつら、本気でこちらを潰しにかかってるわけでもないみたいだ」


「そっちは大丈夫なのか!」

「ああ。こっちの機体も逃げていった。俺はもちろん無傷だ」

「よかった……」


 千鶴は減速しつつ安堵の吐息をついた。



 もう遠くなった敵機の群れは、最初に姿を見せた方角へ消えていった。


 千鶴は本部と櫻林館の上空を旋回して無事を確認しつつ、海上に向かった。

 穏やかな海面に千鶴がエンジンを破壊したグレーの機体が浮いている。三角形の機体の翼には、ワインレッドの塗装で鷹のような鳥のマークが描かれてあった。


「あれはどこの部隊のマークだ……?」

 その時だった。グレー色の機体は、中心部からの突然の爆発で木端微塵に吹き飛んだ。


「自爆!」

 血の気が引いていくのがわかった。敵機とはいえ、自分が初めて撃った敵の末路を目の当たりにしたのだ。実戦はこれが初めてだった。千鶴は青ざめて操縦桿を握りしめた。


「爆発前にパイロットが脱出したのが見えたから、死んではいないだろうな」

「脱出……?」

「ああ、海にな。ダイビング機能付きのパイロットスーツでも着てたんじゃないか? 用意周到だな、まったく」

「そうか……」

 肩から力が抜けていくのがわかった。


 千鶴は深呼吸をすると、旋回を続けながら敵機の残骸をもう一度見下ろした。

 もう粉々になってわからないが、先ほど見たワインレッドの鷹のマークは脳裏に焼き付いていた。


「赤い鳥……」

 背筋がぞくりとした。千鶴は必死に首を左右に振って赤い鳥のイメージを振り払った。


「大丈夫か?」

 尋ねてくる雪輝に、千鶴は「ああ」と小さく頷いた。


「千鶴、あとは本部に任せて戻ろう。俺たちのやるべきことは終わった」

「そうだな」


 針路を変えた雪輝の後を追って、千鶴も滑走路へ向かった。


◆ ◇ ◆


「どこの国の機体だ? あんなジャマー見たことないぞ……」


 敵機が去った空に視線を向けたまま、ハッチから身を乗り出していた常影は呟いた。


 ふとコックピットを見下ろすと、通信もレーダーも復旧したようで、モニターはすでに平常時に戻っている。


 それに安堵しようとしたまさにその時、常影はレーダーの微弱な反応に気が付いた。

 瞬時にハンドガンをコックピットの外に向けて引き抜く。


「そこか!」


 発砲すると、光学迷彩が解けた機械の塊が落下した。

 銃弾一発で壊れたらしく、死んだ虫のようにひっくり返って沈黙している。


「偵察用ドローン……!」


 制帽のつばを下げ、常影はそれを睨み据えた。

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