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RedWing ~光翼のクレイン〜  作者: やいろ由季
第二章 フェスティバル
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夢のアクロバットと次世代戦闘機③

 地上の群衆の興味は、すでにアクロバットショーから次世代戦闘機のお披露目へと移っている。

 音楽も消えエンジン音のみが響く機体の中、千鶴は静かに旋回を続けながら眼下を見下ろした。


「次世代戦闘機ファルコン……か」

 以前格納庫で目の当たりにした巨大な戦闘機。ヒト型への変形可能な機体は、きっと群衆の度肝を抜くだろう。民間人のみならず、櫻林館の学生や防衛官までもが驚くに違いない。


 モニターに表示した拡大ウィンドウは、軍用車両が巨大なコンテナをけん引しているところを映していた。あの巨大コンテナに次世代戦闘機が入っているのだろう。

「やっぱり、あいつが乗ってるのかな」

 千鶴は金髪男のあの見下すような笑みを思い出し、苦虫を噛み潰したように顔をしかめた。


 お前なら乗れるだろうと浮かれさせておきながら、結局は赤色人種であることを馬鹿にしただけだったあの男のことは思い出すだけでも腹が立つ。

 赤色人種だからとからかわれることはある程度慣れてはいるが、あんな風に煽って、これまで必死に積み重ねてきたパイロットへの努力を笑いながら蹴散らそうとするところに怒りが収まらなかった。

「くっそーっ! 俺だって実力でいつか乗ってやるからな! 見てろよ!」

 眼下では櫻林館学舎の学長の挨拶に引き続き、司会役の女性防衛官の紹介で永野防衛大臣が壇上のマイクの前に立ったところだった。


◆ ◇ ◆


 白の制服のままの常影は、次世代戦闘機の広いコックピットで腕を組んで待機していた。今はまだ操縦桿を握るまでもない。

 任されているのは戦闘機型からヒト型へ変形させる操作のみだった。

 そもそも、パイロット出身の常影でさえそのくらいの操作しかできないほどこの機体は特殊なものであるので、パイロットスーツもヘルメットも必要ないと判断していた。


「まったく、上の人間たちは気が早い。こういうことは操縦可能なパイロットを養成してからだろうに。抑止力とは言うが、これを扱えるパイロットがいない今はただの張りぼてだな」

 そう呟くと同時に、常影は呆れのため息をついた。

 常影の視線の先、群衆向けのスクリーン映像を映したモニターの中では、永野防衛大臣の挨拶が終わり、櫻林館と航空宇宙防衛隊本部のお偉い方たちがぞろぞろと壇上に並び始めていた。


◆ ◇ ◆


 いよいよ群衆の前に次世代戦闘機が披露されるという頃、青鷹のコックピットのモニターに『着陸許可』の文字が点滅を始めた。

「嘘だろ! あともう少しなのに!」

 その絶妙なタイミングに千鶴が悲鳴をあげると、雪輝からの通信が開いた。


「千鶴、降りるぞ」

「タイミング悪すぎだって! お披露目はこれからだろ!」

「先輩たちはもう着陸したんだ。わがまま言ってると後で怒鳴られるぞ」

「えー! あんなにかっこいい機体、滅多に見られないのに!」

 うっかりそう喚くと、雪輝が驚いた様子で声をあげた。

「お前、見たことあるのかよ……!」

「え? あ、まあ……。偶然……」

 なんとなくばつが悪くなって千鶴はそう濁した。


 問い詰められるかと思いきや、雪輝は意外にもいつも通りの呆れた嘆息の後でこう言った。

「あと一周旋回するだけだぞ。管制塔に連絡入れといてやるから、ちゃんと見とけよ。音が迷惑になるからあまり高度は落とすな」

「了解!」

 雪輝の通信が切れると、千鶴はこっそり青鷹を減速させて大回りに旋回を続けた。

 拡大ウィンドウを見ると、永野に続き学長や航空宇宙防衛隊の幹部やらがコンテナの前に並び、紅白のリボンを持っている。あれをカットすれば次世代戦闘機の姿が露わになるはずであった。


◆ ◇ ◆


 同じ頃、陽介はスクリーンに注目していた。今は楽団がファンファーレを模した楽曲を奏でている。

 そして満を持してテープカットが行われると、やや遠い位置に置かれたコンテナがゆっくりと開き、徐々に中の機体が露わになった。


 コンテナの天井と壁面が展開図のように開ききり露わになったそれは、戦闘機にしては巨大な、紫をメインカラーとした機体だった。

 群衆の「おお!」という歓声が響く。

「あれが戦闘機? あんな大きな図体で、何か特別な機能でもあるのか……?」

 陽介がいぶかしんでいると、まるでその問いに答えるように司会進行役をしていた女性防衛官が声高に言った。


「こちらの次世代戦闘機、ご覧の通り通常の戦闘機よりかなり大きい設計となっております。と言いますのも、次世代と言わしめる新機能が備わっているようなのです! 今回はお披露目の席ということで特別にその新機能を実演で皆様にご紹介いたします。私もまだどのような機能か知りません。本邦初公開! どうぞご覧ください!」


 司会者が手を振り上げると、それを合図にしたかのように次世代戦闘機のエンジンが唸りだし強風を巻き起こした。

 そして機体が垂直にふわりと浮かび上がると、一瞬にして二足歩行ロボットに姿を変えていた。


 陽介は強い風圧の中、かざした手の下で目を見開いた。

「これが戦闘機の新機能だって……!」

 陽介のみならず、誰もがその次世代戦闘機の姿を見て、驚嘆の後、言葉を失っていた。

 関係者が拍手をすると、呆気にとられていた観客たちから気付いたように拍手が沸き上がった。

 巨大なロボットは、緩やかな曲線でまとめられた四肢に逆三角形の頑丈そうな胴を持っていた。全体的にどことなく鳥を思わせるようなデザインで、眼光は緑色に光っている。主に紫で塗装されているが、黄色で塗られたパーツもあり、白のラインもところどころに入っていた。


「これが次世代戦闘機……」

 陽介は周囲の歓声や拍手の中、ひとり立ち尽くしたままわき上がる不安を抑えきれないでいた。

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