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かくれんぶ!  作者: 鈴木智一
9/42

給食×牛乳×ごべっぱ!

「もこちん、このあとランチでもどうだい?」


 チャイムが鳴ったのと同時に、粉雪はすぐ前の席にいるもこ菜に声をかけた。


「うん、給食だね」


 言われなくてもお昼の給食だったから、もこ菜は立ち上がり、準備に向かった。今週はもこ菜が給食係の一人だった。


「こなゆきちゃん、並ぼうよ」軽音部の寧ちゃんが粉雪の隣にきた。席は教室の中においては沖縄と北海道くらい離れているのだけれど、寧ちゃんは粉雪が好きなので誘いにくる。

 そして、粉雪の隣の席の伊藤くんに無理を言って席を交換させ、給食を一緒に食べたりする。


「よしっ、並ぼう。今日は……うふふ、スパゲッチー☆ナッポリたんじゃーっ!」


 萌えキャラみたいに言って、みなさんお待ちかね、スパゲッティ・ナポリタンを目指す。


「ナポリたんは、イタリアのマフィアと戦う魔法少女で、必殺技は50口径の機銃を呼び出して━━」


「魔法関係ないね。いや、呼び出すところが魔法なのか……」


 粉雪がその場の思いつきで喋った戯れ言にも、ちゃんと対応する寧ちゃん。二人は列の中頃というベストポジションを確保していた。


 これは、先頭でも後ろのほうでも、配膳係によっては少なくわけられる可能性があるからだ。人によって違うけど、しょっぱなビビって量をセーブしたりする人もいるし、あるいは後ろのほうになってから「これ間に合うのか?」と心配になってきて、やはり量を減らされてしまうことになる。どちらの場合も一番安全かつ安定して納得の量をわけてもらえる場所が、だいたい今の二人の位置だった。


 とかなんとか、長々説明しておいてなんだが、ナポリタンの係がたまたまもこ菜だったので、粉雪と寧は多目にもらうことができた。


「くれ」と言ったら「やる」と言われ、ちょっと増量してくれたのだ。


 ちなみに粉雪が、もこ菜の分も合わせて二人分をもらう。重いので一人分を教卓に置き、もう一つを席に運んでから、また取りに戻った。


 粉雪ともこ菜の席と、寧ちゃんが座る伊藤くんの席の3つが、すでに合体している。特に仲のいいグループや、あるいは単に近い者同士で席をくっつけることは正式に許可されている。


「こな、あちきの席ここでいい?」


 給食を持った露が、もこ菜の席を指差して、粉雪に尋ねた。


「いや、そこはもこちんが座るから、部長はそうだなぁ……って、いるぅ~⁉」


 部長、なんでいるの!

 そんな粉雪に、露は「?」で返した。


「かくれんぼ部の部長さんだ。え、なんでいるの?」寧ちゃんはちょっと嬉しそうだ。


「今、わたしも訊いたところ」


 座る席のない露が、困った表情で見ている。自分のクラスじゃないんだから席がないのは当然で、困るのはむしろ粉雪と寧のほうなのだが、それを理解している様子はない。


「こなに話あったから、ついでに一緒に食べると思ったからきた」


「いや、話なら部活の時でもいいべよ……てか、その給食うちのクラスでもらった?」


「もらってない。あちきのクラスの」


「持ってきたのかい……わざわざ、ここまで……」階段もあるのに、と呆れる粉雪。


「せっかく来てくれたんだから、部長さんも一緒でいいんじゃないの」と寧ちゃんは言う。

 けれど、席がない。クラスには余分な机も椅子も、用意されてはいないのだ。


「まあそれはいいんだけど、席が……仕方ねーなぁ、先生の椅子を借りよう」


 その案はイコール、先生の座る椅子がなくなるということなのだけれど、もちろん粉雪は承知の上で言っている。

 最後に給食を分けてもらっていた担任の村上先生に相談し、なんとか説得すると、粉雪は先生の椅子を持ってきて自分の机の横に置いた。


「机はわたしので一緒に。部長ここ座って」


「シツレシマス」職員室に入る時とおんなじ感じで、露はちゃんと失礼した。先生から奪った椅子に座る。

 ちなみに粉雪が先生を説得した言葉は「たまには立ち食いもいいと思うので」という無茶苦茶なもので、実際、かわいそうな先生は立ち食いをしていた。


「うほぉ、スパゲッチー☆ナポリたんだぁ、うまそうやなぁ……もうなんか、見た目がすでに美味しい。目が美味しい」


「スパゲリィ……この世界で三十八番目に美味しい食べ物」露がほざいた。


「上のほうなのか微妙だし、そんなに上位でもないですよね」と、もこ菜はちゃんと相手をする。寧ちゃんなどは無視して食べることに集中しているのだが。


「すべての食べ物の中で三十八番目なら、すごくね? え、こんなもんが?」美味しそう美味しそうと言っていたわりに、こんなもんとか言う粉雪。彼女は常日頃からシェフの料理に親しんでいたので、学校の給食は別物と考えている。

 ナポリタンは、あくまでも給食の中でのお楽しみ料理なのだ。


「三十七番目はなんなんですか?」もこ菜がしつこく会話を続ける。


「三十七番目はベスコ」正式な名称がベイビースコーンである通称ベスコという子供向けのお菓子の名前を、露はあげた。


「なんでやねん」ジャンルが違うので一概にどうとは言えないが、それでもスパゲッティの上のベスコは違和感があったので粉雪は突っ込みを入れた。「そんで、なんか話あるとか言ってなかった、部長?」


「ある。なんだっけ?」


「くぬぅ~、思い出せよ~」


 ごくごくごくごく……無心で牛乳を飲んでいた寧ちゃんの喉の変なところに牛乳が刺さり、「ごべっぱ!」と言ってわりと大量の牛乳が吐き出され、彼女の給食に降り注いだ。


「うわっ、寧ちゃんが爆発したーっ!」


「キッタネ! キッタネ……シネ!」


「部長さん、それは酷いですよ」


 三者三様にそれぞれの反応を示してから、寧ちゃんの机を拭いたり、いろいろ手伝ってあげる。スパゲッティもまみれていたが、寧ちゃんはあんまり気にしていない。


「ごへっ、ごへっ、ご、ごめんなさ~い! 牛乳が横穴に入ったよ~!」


 喉に横穴ってあったっけと言いながら、粉雪は常備しているポケットティッシュを使いきり、机の上を綺麗にしてあげた。


 そして遠くで立ち上がっているのは、寧に机を貸している伊藤くんで━━彼はものっすごく嫌な顔をして頭を抱えていた。

 今度から、貸してもらえなくなるかも知れない。


「あ、思い出した」寧ちゃんの牛乳ごべっぱ事件の衝撃により、忘れていた用事を露は思い出すことができた。


「日曜日、ペクヌックに行く人~」とか言い出す。


「にょ? なんだそれは? 部長、外国でも行くの?」


「行かない。違う。ペクヌック。みんなで、ペクヌック行きたい」


「わかった、それってピクニックだ!」と、寧ちゃん。


「それ!」露が箸を寧に向けると、その先端から鋭く飛んだ3センチくらいの長さのスパゲッティが彼女の顔にぴちゃっと付着した。


「なんか飛んできたよ!」寧ちゃんが訴えるけれど、誰も気にしない。


「部長、ピクニック行きたいの?」


「行きたい。みんなで楽しいやつ。えぬえちけーの『じゃりんこおっとっと!』でみんな行ってた。あちきも行く」


「なんでそんな平日の午前中にやってる子供番組録画しとるんだ、部長は」


「録画しない。美術の時、テレビ見てた」美術室のテレビで。と、露。


「なんで見れんだよ……美術どーした」粉雪は呆れたが、まあ露なので仕方ない。「じゃりんこに感化されやがってこのやろー……よし、じゃあ行くか、ペクニックに!」


「行く! ナイスこな。判断がいい」


「日曜日?」


「日曜日」


「じゃあフリキュア見てからか……いや、録画でもいっか。

 わたしは行けるけど、もこちんと寧ちゃんは行くかい?」


「わたし行きたい、用事もないし、ペクニック楽しそう!」寧ちゃんが勢いよく手を上げたら、その先端から5センチくらいの長さのスパゲッティが飛んで行き、露の頭にぴちゃっと落ちた。が、誰も気にしない。露すらも。


「おっけー、もこちんは?」


「ごめんねー、わたし日曜日は家族で出かけることになってるの……また今度誘ってね」申し訳なさそうにもこ菜は言ったが、用事があるのなら仕方ない。仕方ないはずなのに、露は顔を歪めて舌打ちした。態度が悪すぎる。


「ごめんなさい部長さん、ほんとに用事があって……」


「いや、それ以上謝る必要はないよ━━部長の態度が悪すぎる。ていっ!」粉雪は露の頭にチョップした。そしたらなぜか手にスパゲッティが付いてきたので、うげっという声がでる。「なんで頭にスパゲッティが……部長、食べ方下手過ぎね?」


「あちき知らない。ちゃんと食べてた」


「まあいいや。じゃあとりあえずわたしと部長と寧ちゃんは行くとして━━他に誰か誘うの?」


「誘うかも。誘わないかも。あとで決める」


 こうして、次の日曜日はピクニックに行くことが決まった。

 行き先は隣町である闇谷市(やみたにし)邪民愚(じゃみんぐ)にある"おにぎり山"こと平見土(ひらみど)(やま)がいいとのことで、全員異論なくそこに決まった。


「闇谷はママの実家もあるから、わたしの庭みたいなもんだにょ」


「こな、頼りになる」


「まーねー。でへへっ」嬉しかった粉雪は露の頭をなでなでした。

 母の兄が経営している喫茶店などは、わりと頻繁に行っているし、粉雪にとっては本当に庭みたいなものだった。

 自分の町と同じくらいの土地勘があるので、迷う心配もない。

 隣町なら露の両親も安心だろうと、そんなことまで配慮する粉雪なのであった。


「おやつは五万円までね」


「あちき、そんなにお金ない」


「わたしもー」


「わたしも。まあ、行かないんだけど」と、もこ菜。


「うに。わたしとしてもそんなにお菓子いらないから、じゃあみんなの食糧はわたしが用意するよ」粉雪は提案した。


「さすがこな。金持ち」


「やったー。じゃあ手ぶらでいいの?」


「うん。荷物持ちも用意できると思うから、手ぶらでもなんでもいいよ」


「こな……さすがすぎる。ス・テ・キ」と露が尊敬の眼差しを向けた。

 どっちが先輩だかわからない。


 そんな露は給食を食べ終わると、なぜか食器は粉雪のクラスの分に戻し、こちらも手ぶらで帰っていった。

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