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かくれんぶ!  作者: 鈴木智一
8/42

こっ、まっ、つぅぅぅ~

「はんせー……かぁ~い」


 寝起きの露は動きが鈍い。というかまだ眠そうだった。


「部長、なんでそんな眠い?」


「たぶん昨日Jやってたから」


「あー、ジェイソンのゲームか……」


 きっと夜中まで遊んでたんだろうなぁと、粉雪は理解した。露は後先考えない女の子なので、目の前のことだけにしか意識が向かない。そして未来の予定を考えない。


「なんでももがめっかったか」


「粉雪ちゃんが、見つけるのがうまいからですか?」桃姫が発言する。


「ない。いや、ある。こなのほうが、ももよりも上。これは仕方ない。キャリアの差」


「姫ちゃんのおっぱいがやらかかった!」目を輝かせた粉雪が手を上げ大声で言った。至近距離で。


「うるせ。いや、ない。柔らかさ関係ない」


「でも、姫ちゃんの隠れかた、めっちゃ上級者っぽかったですぜ? 少なくとも、トイレで寝てただけの部長よりはな!」


「ぬぅぅ……次。あちきがなんでめっかったか」


「トイレで寝てただけだから」


「な……ある。眠かった。Jのせーで」


「Jのせいにするのかよ」


「他」


「わたしがついうっかり、粉雪ちゃんに教えちゃったから……です」


「ある。もものせー」


「姫ちゃんのせいにするのかよ」


「結論がでた━━早く寝る」


「うに。それがよい」


 なんだか疲れた感じの露を見ていたら、粉雪と桃姫も疲れてきたので早く帰りたくなってくる。


「帰ろ。今日は確かママがいるから、わたしはよ帰りたいねん」ママ大好きな粉雪は言う。


「おけ。じゃあ部活オワタ。締めのご挨拶━━もも」


「わっ、わたしですか?」まさか指名されるとは思っていなかった桃姫が慌てた。

 でもまあ、三人しかいないのだから、そーだよなーと思い、諦める。やり方はもうわかっていたし、難しいことはなにもない。


「で、では━━頭隠して?」


『オケツぷりぷりー』けっこう適当な感じで、露と粉雪がいつものやつをやる。

 隠者のポスターを拝んだ三人は、戸締まりをしてから部室を出た。


 ★★★★★


「あ、紀依ちゃんだ」

 いっこ上の先輩は友達、ふたつ上の先輩はふたつ上。そう認識している粉雪がタメ口で言った。


 三階の端の物置部屋だったかくれんぼ部の部室の、ひとつ部屋を挟んだお隣が軽音部の使用する裁縫室で、彼女たちはそこで活動している。その扉の前に、ギターケースを置いた紀依ちゃんがいた。


 軽音部は軽音部で、吹奏楽部とは別個の部活だったし、それよりも肩身の狭い存在なのだ。なので当然、音楽室で活動なんてできない。


 ちなみ隣の部屋は元々ロボット部なるものの拠点であったものが、部の自然消滅とともに残されたロボットごと、かくれんぼ部の代わりとでというように物置部屋と化している部屋だ。


 あちきらにデカイ部屋ちょんだい、と言った露であるが、物量が多過ぎて、かくれんぼ部の部室にするにはあまりにも物置部屋として完成してしまっていたので、露たちはやはり狭い部屋で活動するしかないのだった。


「きい、入んないの?」露が言う。


「それが、部室開いてなくて━━なんか、誰もいないの」


 ということは、今の時間になってようやく訪れたということらしい。露たちはもう戦いを終えて帰ろうという時間なのに━━紀依は今までどこでなにをしていたのか。気になった粉雪が尋ねた。


「紀依ちゃん、なにやっとったの?」


「ギター、おうちに忘れちゃって……一度おうちに帰って、取ってきたの」


 確かに……紀依の家はそんなに遠くなかったはずだが、かといってすごく近いわけでもない。


 だからこんな時間になったのか。と、粉雪たちは納得する。


「多分だけど、みんな普通に帰ったんじゃ……」粉雪が、おそらくそうだろうという予想をする。「誰かに言ってから取りに行った?」


「え……あっ、言ってない……かも」


「それだ」


「それ」


「それですね~」


 と、かくれんぼ部の三人は原因を突き止めた。紀依は真面目で優しくて常識的だけれど、決定的に間の抜けたところのある女の子だった。


「ギターケース、置いとけばいいのに。重そうだし」


「う~ん、確かに重いんだけど……でもおうちでも練習したいから、やっぱり持って帰りたいんだよねー」でも、と続ける「今日はもうしんどいから、置いて帰るよ」


 そう言って部室のドアに手をかけた紀依だったが、もちろん閉まっているので開きません。


「あっ……そうだった、開かなかったんだ……」肩を落として、しょんぼりする紀依。


「紀依ちゃん……(残念な感じが)かわいそう……そうだ、そのギターケース、うちの部室で預かろうか?」思いついた粉雪が提案した。


「えっ、ほんとに? いいの、つゆちゃん?」


「よろし」


「わ~、ありがとう。助かるよー」


 ということになったので、また部室に戻ってカギを開けて、紀依ちゃんのギターを置いてから、またカギをかけて、みんなで一緒に帰ることになった。


「紀依ちゃん、おうちどこなん?」


「一丁目と二丁目に挟まれた、ギリギリ二丁目な一軒家だよこなちゃん」


「おー、そうなん? で、どこの一丁目?」


「ひよこの(ひたい)一丁目だよ」


「え、したら逆やん」


 校門を出てから、そろそろ百メートルも歩いたかなというところで、紀依が言った住所はまるっきり逆方向の地名だった。


 牝獲市ひよこの額は中学校のすぐ西側にある地名なので、粉雪や露たちの家とは逆方向になる。なんで黙ってついてきたのか、粉雪にはわからなかった。


「うん、でもつゆちゃんに一緒に帰る帰ろーって言われたし……せっかくだから」


 誤字ではなく、実際に露がぼそっと紀依だけに「きい、一緒に帰る帰ろう」と言っていた。


「なにがせっかくなのか……ただの無駄足じゃんか」と、粉雪。


「おばばショッパーズまで」露が言う。


「にょ?」


「きい、おばばショッパーズまで一緒に行く。そこでお菓子買って、ばいばい」


「ああ、なるへそ。それだったらまあ、いっか?」


「うん、わかったよつゆちゃん……おばば……それ、なんだっけ?」


 紀依は露の言動の半分以上をよくしらない。なので露の言動の半分以上をよくしる粉雪が説明してあげる。


「帰り道の途中にある駄菓子屋のことだよ。ほら、あおば商店ってあるじゃん?」そこの店番がおばあちゃんで、しかもうまいこと店名にかかっているとかいないとか、そんなことまで補足説明する粉雪。


「あるある、しってるしってる。通学路違うから、あんまり行ったことないけど、文房具とかも揃ってるお店でしょ? わたしあそこでメンヘラ戦士ゴスロリヌーンの鉛筆買ってもらったことあるもん」


「なぬうっ! ゴスロリヌーンの鉛筆たぁ、紀依ちゃん、なかなかイカしたセンスしてんじゃねーか、ああん?」


「うええ、こなちゃん、怖いよ?」


「あ、めんごめんごー。わたしもママもゴスロリヌーンにはお世話になっとりますんで、つい同士を見る目で見てもうた」


「あちきもゴスヌン狂い。ゴスヌンTB(メンヘラ戦士ゴスロリヌーンThunderBird)が一番」


「おお、さすが部長。よりによってThunderBirdとは。違うね、やっぱし」


「誉められた」


「誉められたの、今の?」紀依にはいまいちわかんなかった。


 そもそもゴスロリヌーンはフリキュア以前のスーパーヒロインなので、親の世代より前の人じゃないと、リアルタイムで見てはいない。なのに粉雪たちがしっているのは、リメイクされた新しいアニメが話題になっていたからだ。その影響で昔のアニメも視聴する子供たちがいるので、つまりは彼女たちがそうだったというわけである。

 そしてその影響もあり、関連グッズも続々と発売されているので、粉雪の母親などは、それらを予約して購入しているのだという。自分と娘の分とで、すべてを2個ずつ。


「あのぅ……わたし、全然わかりません」


 それまで黙っていた桃姫が、かわいそうな声でようやく喋った。

 ゴスロリヌーンをしらないから、話に参加できなかったのだ。


「あっ、姫ちゃん……悪ぃ。これね、我々オタガールのダメなとこね。自分たちの好きなことだけ喋って、しらない子をおいてけぼりにしちゃうってゆー」


「ある。KAIZEN(改善)の余地」


「あり、だにょ━━ごめんね姫ちゃん。明日さっそくDVD-BOX貸してあげるからね」


「そっちの解決法なんだ……」と、紀依は苦笑い。てっきりオタ話を控えるとかだと思っていたら、桃姫を引き込むほうだった。


 さすがは粉雪、と紀依は思った。


 目的地である『あおば商店』が迫ったところで、突然粉雪と露が走りだし「ひゃっは~!」と言いながら店内に突入するのを、桃姫と紀依は呆気に取られて眺めていた。


 中から「おばば、五十円だまチョコ!」という露の声と、粉雪の「おばあちゃん、ションボリマン入荷した?」という声が漏れでるのを聞きながら、残りの二人はゆっくりと入店する。


 店内はそれほど広くもなく、なのにお菓子や文房具やその他の生活雑貨なんかも並んでいて、なんか、ぎゅうぎゅう詰めな感じだった。


 こんなんだったかなぁ? なんて、紀依などは思ったわけだが、それは彼女がまだ小さいころの記憶に頼っていたからだ。

 ずっと改装もしていないので、お店の規模は変わっていない。単に紀依が大きくなったから、昔の印象よりも狭く感じるだけなのだ。


 と、店内ではすでに露がレジ前に貼り付いていて、粉雪はションボリマンチョコを数えたりしている。後で聞くところによると、前から何番目とか後ろから何番目とかにホロシールの可能性が……というオカルトを信じての行為だった。もちろん、一個も減っていない状況を見た粉雪が、ついつい試したというわけだ。


 紀依と桃姫は物珍しく店内を眺めてから、それぞれ『4分の1で後悔する味のガム』と『お子さまポテチ』を購入して、外に出た。


 ちなみに前者を買った紀依が、せっかくだからみんなで分けようと言って、4つ入りのガムを配った。


 そんで、今回のオチとして露が「こっ、まっ、つぅぅぅ~」とか言って、おええっとガムを口から漏らした。


「うわ、部長きったねぇ……なんだよ小松って」


 そう言った粉雪であるが、口から落下したガムを拾って処理してあげるあたり、ほんとは露にやさしいのであった。

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