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かくれんぶ!  作者: 鈴木智一
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ゴミクズ遊戯(後編)

「さあ、はじまりますよ~。寿々木さま、準備はよろしいですか? 玉の借り方わかります?」


「うん、それはわかる。でもこれ、ハンドルだっけ? 打つとこないんだけど?」


「あっ、ご存じなかった? このタイプはですねぇ、まぁ、我々からしてもこのタイプの台はあんまり出してほしくないんですけど」


「そうなんですよ、我々はやはりハンドルを持たないとね。そのために手がついているわけですから」ドリモグが言う。


 耳栓と同期させたスピーカー装置により、普通の会話と変わらず話ができるのだ。


「ちょくちょくこのタイプの台は出るんですけど、ここの乳首みたいな出っ張りのあるあたりに触れると玉が打ち出される仕組みになってまして、触る強さで強弱が変えられます」


「へぇ~、そりゃ楽かも。こないだハンドルでやってた時、けっこうキツかったからなぁ」魔弾のアレサ嬢の勇姿を思い出しながら、粉雪はひとりごちた。あの日の夜は手首が痛かったのを覚えている。しかも、なんか嫌な痛みだったはずだ。


「あの~粉雪ちゃん、どうすればいいの?」粉雪の隣では、一万円札をプラプラさせた桃姫が途方に暮れていた。


「あ、姫ちゃんは初めてだったね━━」


 と、大切な紙幣を無慈悲に没収する機械がこれです、と丁寧に説明し、玉の借り方、今しがた桶野に教わったばかりの打ち出し方までを桃姫に教え込む。


 露と違って勉強もそこそこできる桃姫は、なんなくそれらを飲み込むと、さっそく玉を打ち出しはじめた。


 というわけで、粉雪もつづいて試してみた。しかし、そっとやさしく触れただけでは上まで玉が上がりきらずに戻ってしまう。もうちょっとしっかり触れると、玉はちょうどいい強さで打ち出された。しかも、運よく最初の玉がヘソ入賞を果たす。


 一発目の保留は赤い炎が燃え上がる刀だった。


「えええっ! ウソだぁーっ!」桶野が絶叫に近い叫びをあげる。


「どうしました桶野さん!」ドリモグも反応する。


「寿々木さま赤保留! え、これ一回転目ですよね?」


「うん? すごいの、これ?」


「すごいです、大チャンスですよ、うおおーっ! セリフ金だ、金! あああーっ! 慶太の延べ棒予告出たぁぁぁーっ!」


「えーっ! 延べ棒出たんすか! それ大チャンスですよ寿々木さま!」


「さすがっすぅ、やっぱり美しい方のところには運が━━」これは病島のセリフだが、残念ながら途中で桶野の叫びにかき消された。


「どーだ、どーだ、のあーっ! 慶太の木馬遊びっ! 慶太の変態木馬遊びリーチだぁーっ! 寿々木さま本機最強リーチに発展しましたぁーっ!」


「おえええーっ! いったんじゃないですか、当たりますよ寿々木さま! あとは最後のカットインで━━」


「なああああーっ! カットイン“ギンギン坊や”じゃん!」


「ほげえええーっ! えーっ! 慶太じゃなくてギンギン坊やがカットイン! プレミアじゃないすかぁーっ!」


 とにかくうるさい二人の中年男性たちは、とにかくひたすら叫びつづけている。


「寿々木さま、まさかの朝一お座り一発プレミアカットインでラッシュ確定でございます!」


「すげー、パチンコの女神すごいっすね。ちょっとこれ、噂以上ですよ桶野さん」


「いやほんとですよドリモグさん……ぼくこんなの見たことないもん! え、これ339分の1だよね? こんなことある?」


「わかんないです、寿々木さまのだけ3分の1とかかもしれないですし」


「3分の1(笑)! シンフォニアチャンス中だってそんなに甘くないよ。すごいなマジで、なんかあれだね、寿々木さまのところだけ時空が違うってゆーか、常識ではあり得ない確率の収束してる感じじゃない」


「してますね多分。時空が歪んでますから、寿々木さまの台が1分の1に収束して当たったってことは、つまり桶野さんの台に残りの338分の1が移っちゃってますから、今桶野さんの打ってる慶太は実質677分の1になってるってことじゃないですか?」


「えっ、ウソぉっ! 今オレの台677分の1なの? えー、もう無理じゃん。そんなの2万でも8万でも無理よ無理! いや、オレじゃなくておっぱいちゃんの台に移ったんじゃない?」


「いや、悪いほうの運は左に移動する性質がありますから、桶野さんです」


「えーっ! あー、でもドリモグの右の台が当たるってのも、その理屈なの?」


「そうです、いいほうの運は右に逃げます」


 大当たりラウンドがすべて終了した粉雪の台が「慶太暴走ラーッシュ!」と鳴り響いた。

 実に男らしい男の野太い歌声の男っぽく男くさい男丸出しの楽曲が流れはじめる。実に個性的で印象的な曲だ。


【男、(ほとばし)る!】作詞・鈴木智一/作曲・男


 男 男 男の子!


 男 男 男の子!


 男 男 男 男男男男男~ 汚床(おとこ)


 男 男 おっ とっ こ~ 男

 男 男 おっ とっ こ~ 男


 男の子 男 男の子 男 男の男の子 男

 男の男の子は男 男 男 男だ 男だ~


 男 男 男の子!

 男 男 男の子!

 男 男 男の子!

 男 男 男の子!


(永遠に繰り返し)


「なんかこの歌、クセになりますね」


 粉雪の当たり台を見ながら、桃姫が話しかけた。彼女はまだ当たっていない。


「クセになってはいけない気がしなくもないけど……なんだろ、もこちんの部の先輩が好きそうなやつな気はする……」


 ふんどし一丁の姿で抜き身の刀を片手に荒野を単独ひた走る“慶太”少年。大当たりラウンド中に流れた人物紹介によると、彼は一国の殿様であるということだったが、かなりの若年だ。その性癖からお遊びが過ぎる日常を送っており、治める国は“変態の国”と呼ばれ、近隣諸国からバカにされているそうな……。


「こんな漫画あったのはしらなかったな……」粉雪の家には主に母親が買い集めた大量の漫画があるのだが、その中には含まれていなかった。あれば、必ず一度は目にしているはずだ。


 ぶおお~ん! と、ホラ貝の笛が鳴り響き、慶太が他国の変態と会敵(かいてき)した。


 バトルがスタートする。


「寿々木さま、それ勝ったらラッシュ継続です。がんばってください!」桶野がエールを送る。ことパチンコに対しては本当に真剣な男である。


『慶太VS股関にザリガニ男!』ナレーションが言う。股関にザリガニ男の“危険度”は星2つだった。


「星2個なんで大丈夫だと思いますけど、たまに負けありますからねザリチンは」股関にザリガニ男の通称を交えて、桶野が助言する。「油断ならない変態ですよ」


(お前もなー)と、心の中で思いつつ、バトルの行く末を見守る。内容はもちろん、変態同士による変態バトルである。


『股関で綱引き、ワッショイ!』


「やーべ」どこに繋がっているのか、両者の股関から綱が伸びて、二人を繋いでいる。その映像を見ながら、粉雪は意識がなくなりかける。「なにやってんだよ、こいつら……」


『いざ尋常に━━変態勝負!』またナレーションがちゃんと言う。言わなくてもいいのに。


『ワッショイ! ワッショイ! ワッショイ!』


 どこから現れたのか、それぞれの国の国民が大勢で応援している。慶太の国は赤軍で、股関にザリガニ男の国は青軍だ。

 

『いてぇ、いてぇよぉ~!』涙目になりながらそれでも引くのをやめない慶太は苦しそうだ。


 これはかなり劣勢なのでは……というあたりで画面がホワイトアウト。決着は━━


『あ~ん!』股関にザリガニ男の股関にくっついているアメリカザリガニの“ジョニー”がそのいかついハサミで綱を切断、ルールがよくわからないが、それにより股関にザリガニ男が敗北したらしかった。つまり慶太の勝ちであり、見事に大当たりのラッシュ継続が確定した。


「おーっ、やった! 寿々木さまなんなく連チャン決まりました!」


「早いっすね~、まだはじまって十分も経ってないですよね? いや、寿々木さますごすぎます。業界を破壊しかねない……今日、この店潰されますよ」


「このまま行ったらあり得るよね。だって寿々木さまの台1分の1だからね、今日。やばいってマジで。えーと、その代わりわたくしの台が今なんでしたっけ?」


「今桶野さんの台は677分の1で当たります」


「それ当たるって言わないよもう! 677分の1はもうダメよ、違法でしょ違法」


「仕方ないですよ、寿々木さまの運が強すぎたんですから。もう今日はその確率でなんとか引くしかないんですって」


「えー、もう引ける気しないんだけど~!」


 ただでさえ引きの悪い桶野は絶望的な表情を浮かべる。が、奴にとってそんなことは日常茶飯事なので実はまったく気にしていない。


「それよりほら、こっちも早く当てないと。全然、リーチすらかからないじゃないですか」


「まだ台が寝てますねこれは。ドリモグなんか驚かせないと、寝てるよこれ」


「マジすか。じゃあちょっと━━あんべべべべべべ、えべえべんびょびょ~ん!」パチンコ台に向かってなにかしているドリモグ。「起きましたかね、これで?」


「起きた起きた、いや、びっくりして運がこっちに逃げてきたかも」桶野が言う。


「そんな~、せっかくやったのに~」


 そんな風にしてじゃれあっている二人だが、やはり一向に当たる気配はない。

 粉雪はその後も、前回同様、さも当然であるかのように当たりつづけ、順調に連チャン数を伸ばしていった。


 一方桃姫の台は━━回転数が百を越えた直後だった。

 台全体がブブブブブと振動し、桃姫を驚かせる。


「えっ、地震!」桃姫があわてる。


「あっ、だいじょーぶです、台の演出ですから。ってゆうか、筐体バイブは超大チャンスです!」桃姫の隣の席の病島が説明した。彼もまだ当たっていないし、当たる気配もない。


「なになに、おっぱいちゃんもなんかきた?」桶野が粉雪の背中越しに見ようとする。見えなかったようだが。


「チャンスみたい。台そのものが振動してた」と、粉雪が教える。


「えー、筐体バイブって確か八割くらいなかったっけ?」


「タイミングにも寄りますけど、リーチ前のやつでも70パーセントはありますね」


「マジで、激アツじゃん!」


 その後、桃姫の台も見事に大当たりしラッシュに突入。が、初回のラッシュは十連チャンを目前にして敗北してしまい終了。それでも、その後も少ない回転数で初当たりを引き続け、単発とショボい連チャンを最後まで繰り返した桃姫だった。彼女はとにかくコンスタントに当たりを引くので、最終的な結果はかなりのプラス収支となっていた。


 ドリモグ、桶野、病島の三人は、最後の最後までショボすぎる一日で、それぞれドリモグが初当たり三回でラッシュゼロ。桶野も同じく初当たり三回で、うち一回がラッシュ突入もわずか4連で終了。病島に至っては単発一回のみ(しかも二千回転近くで)という、地獄のハマり記録を打ち立てた。


 そして粉雪であるが……マジで朝一お座り一発で突入したラッシュが閉店まで終わらずに、ちょっと歴史的な出玉を記録。本気で店が潰れるかどうかという話になり、店長がパンツ一枚になり女子中学生に土下座、換金なしの永久貯玉とかいう異例のルールが適用され、粉雪は伝説となった。


 もちろん、それらの映像はすべて記録されているし、全部そのまんま放送された。


 そしてこの日━━少女は神となった。


 パチンコの神様に……。


『おっとっこ、おとこー、おとこのーこー!』


 脳に焼き付いてしまった歌を放出しながら、粉雪と桃姫はなぜか仲よくお手々を繋いで帰宅しましたとさ。

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