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かくれんぶ!  作者: 鈴木智一
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姫ちゃんのリボーン

 放課後の部活動ことかくれんぼタイムに、エイミーは参加しなかった。疲れたとか、そういうわけでもないはずだが、用事があるとかでとっとと帰っていた。


 エイミー不在の部室にて、現在、粉雪と露と桃姫が直立密着修行をおこなっている。直立密着修行とは、なんのこっちゃという感じだが、要するにかくれんぼで隠れる際に、直立不動のまま長時間いなくてはいけない状況を耐え抜くためのもので、考案者はおよそろくでもないことを考えることを得意とする粉雪だった。


 壁に顔面密着の粉雪の背中に露が密着しそのさらに背中に桃姫が密着している。

 露は粉雪のケツと桃姫の巨乳に挟まれて、だんだん苦しくなってきたので「ヘルプぅ」と弱々しく鳴いてみせた。


「これ、くっつく意味あったの?」桃姫が粉雪に問う。


「いや、特には……ただ、プレッシャーというか、より困難な状況に耐えたほうが、本番に強くなるとかなんとか、思うじゃん?」


「主におつゆ部長のプレッシャーがすごいような」


「うぐぅ~ん」露がくぐもった声を出す。


「あひんっ! 背中が生あったかいっ!」露の息で温められた粉雪が身震いした。


「ねえ粉雪ちゃん、もうそろそろ……」


「ぶふぅ、うぶふぅ~ぅ」


「あひょひょ、おひょひょ!」


「なんだろう、これ……」


「ふーふ、ふーふ、ぶーふ」


「おふっ、あふっ、あひんっ!」


「もうやめよーよー」


「………………」


「あれ……部長終わった?」


 がくっ、と露が足から崩れ落ちたので、桃姫はあわてて離れると、露の両肩を支えた。


「ぶ、部長ぉ~、しっかりしてください」


「ありゃりゃ、部長だいじょぶか!」


「うい~、なんとか生き残った……こな、エロイミーの匂いするから、息するの忘れてた」


「どゆこと! あー、いい匂いだから夢中になったってことか。息は忘れんなよな」


「でも、あれですよね……エイミーさんが来るようになってから、この部室もなんかいい匂いするようになった気がする。前はなにか、なんだろう……ゴキ■リの干物みたいな臭いだったのに」


「おいおい、おいおい姫ちゃん……おいおい姫ちゃんよぉ……お前あんた、ゴ■ブリの干物ってお前あんた……ってかそんな干物あってたまるかよぉ。え、わたしらそんな臭いだったの?」


「い、いえ違う……違くって、ほら、お部屋の臭いとかあるから。人の家の臭い、みたいな」


「あちきの家、ゴキブ■屋敷」


「マジかよ!」


「嘘……ちゃんとお部屋の消臭リッキーやってる。ビジュアル系バンドのボーカルの臭いの消臭リッキーやってる」


 ちょっと聞いたことのない種類の香りの消臭剤だったので、粉雪と桃姫は興味をしめした。


「それ、どこで売っているんですか?」桃姫はなんとなく買いに走りそうな感じで、そう訊ねる。


「わかんね。いつの間にかあったから」


 いつの間にか出現するはずもないので、おそらく露の母親が購入したものだろう。

 

「そういえば大会決まったって、こなのママのこなのママが言ってた」露の母親の娘の露が言う。


「は? え、まーたわたし聞いてないんですけど。なんで部長にだけ言う……わたしのママのわたしのママは」粉雪の母親の娘の粉雪はちょっと不機嫌そうに洩らした。


「それ、流行ってるの?」


「え、なにが?」


「粉雪ちゃんのママの粉雪ちゃんのママっていうやつ」


「いんや、今部長が言っただけの腐れ戯れ言だから、流行るはずもない」


「腐れ戯れ言……こな、恥ずかしい思い出の中に浸し沈める」


 そんなこんなで、この日は基礎練習のみで帰宅の時間となった。運動部でいうところの筋トレなのだと彼女らは豪語するが、外部の人間に理解されることはおそらくなかった。


「そういえば粉雪ちゃん、またテレビ出るんでしょ?」


 廊下を歩くさなか、桃姫がどこから情報を仕入れたものか、そんなことを訊ねる。


「お? なんで知ってるの? 誰も見てないようなCSのクソ番組のはずだが……」


 粉雪は疑問に思う。あんなクソ番組のコマーシャルなどは、あのクソ番組の中くらいでしか放送されず、あるいは過去の遺産ではあるものの、趣味で利用している人間のために細々と存続しているマイチューブなんかには無料広告として出ているのかもしれないが(昔のように広告収入などという有って無いような収益の形態は跡形もなく消え失せたので、流れるコマーシャルはすべて無料となっている)、そんなものを桃姫が見ているとは思えず、不思議がる粉雪。が、すぐに答えがわかった。


「え、だって、かくれんぼ部の連絡メッセージが来てた━━」


 粉雪は頭を抱えると、自分のスマホを確認してみる。だが、自分のものにはなんのメッセージも来ていなかった。


「部長のとこには?」うしろを歩く露に訊いてみる。


「きてる。『うちのこなっこが「ゴミクズ遊戯」に出演します!』って。チャンネルと、放送日時もあった。あちき見る覚悟」


「おーう……ママの仕業でした。いやー、まだ収録もしてないのになんで放送日時までこのタイミングでわかってるのかあの人は……もう、なにも言う気にならんくらい先回られてるわー」というわけで、その件に関して粉雪は完全にあきらめてしまった。

 どうせ言わなくても見る人は見るだろーしなーとも思いながら。


「こな、パチンチンコするの?」


「そうそう、パチンチンコする番組で、ほんとは出たくないんだけどねー。そーいやさ、予習みたいな感じでマイチューブになにか動画ないかなぁーって見てみたら、けっこーあんのな。今どきマイチューブで生配信してる人まだいるのもすごいけど」


「あ、わたしもたまに見ます」と、桃姫。


「え、姫ちゃん……パチンチンコ見るの? もしかしてやってたりなんか━━」


「あ、いえ、やってはないんですけど、無駄な時間を無駄に使いたい時たまに見るんです」


「あー、なるほどねー……なんそれ!」


「生配信のも見たことあるけど……なんだかご家庭に設置したオート設定の台を見せてるだけの動画があって、あーゆうのってお店の実戦を映すから興味深いはずなのに、誰がこんなの見るのかなって思いながら━━あ、わたし見てるって気づいて究極の無駄な時間を過ごしたなって満足したことがあります」


「………………」無言になる粉雪。


 露はすでに理解をあきらめており、放心している。きっと、夕食のメニューでも想像しているに違いない。


「姫ちゃん、ストレスとか抱えてる?」


「いえ? あまりストレスはないですけど」


「じゃあいいけどさ……」


「ただ、なんかリフレッシュしたいなぁって思う時があって。サウナで整うみたいな? そんな感じで、無駄な時間をできるだけ無駄に費やすと、なんて言うか、心がよみがえる気がするんだ」


「気のせいでは?」粉雪はつっこんだ。


「あ、ねえ粉雪ちゃん……そのパチンコの番組、わたし見学に行ったらダメですか?」


 との申し出に、戸惑う粉雪。まさかそんな提案があるなんて思ってもいなかったから。


「うへぇ? いやぁ、別にうん、いいと思うけど。パチ屋だよ姫ちゃん?」


「はい、パチ屋行ってみたいです。一人だと行こうと思えなかったけど、粉雪ちゃんいるなら行ってもいいかなって」


「マジかぁ……まあいいけど、ほんじゃあ━━」

 

 粉雪は撮影の日時と待ち合わせ場所、共演者の情報などを桃姫に細かく伝えた。最後に、ろくな場所じゃないし、絶対におすすめはしないし、あと耳栓忘れたらダメだよと念をおしておく。


 桃姫は「はい、はい」とメモを取りながら返事をするだけで、意見の変更はないようだった。なので、桃姫の番組見学が決定した。


(というか、一緒に出演ということになるのでは?)と、粉雪は予想する。

 だとしたら、事前にドリモグにでも伝えておくべきかも知れない。と、粉雪はスマホを取り出してクソヒゲデブ中年の連絡先を探した。

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