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かくれんぶ!  作者: 鈴木智一
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プレイヤーみんなアンノウン野郎だけどたまに本人特定されるゲーム

 拝み、柏手を叩き、歌い、遅れてやってきた三人目がズボンから出ているトイレットペーパーを指摘され、笑い、怒り、なぜか粉雪からお土産のお菓子をもらって迷惑な三人組のお笑い芸人が帰ったあとで、粉雪は宿題に取りかかっていた。


 出された宿題は簡単な英単語の書き取りだけで、一時間もしないで終わる内容だったので、すぐに終わらせるとエイチシステムの本体を頭からすっぽりと被り、起動する。


 椅子に座った状態でも問題ない。理由は、実際の身体が倒れたり怪我したりしないようなサポートシステムが作動しているためだ。


 近年になってエイチシステム唯一のゲームだったソルアースの世界以外にも対応するようになり、他機種版のVRMMOにも参加できるようになっていた。で、最近ハマっているバトル・ロワイアル系ゲームの『蜂の巣アイランド』をこのところずっとプレイしていた。


 言わずもがな、過去の名作『蜂の巣マック』シリーズを祖とする現代版最新型の戦争ゲームである。


 超高速ログインで前回の続きからすぐに再開できる。とは言え、デフォルトで一人きりのホームに佇んでいるだけだが。


 このゲームはマッチングを開始することで、様々な条件下にある「無人島」(たまに住人がいる場所もあるので、厳密には「陸の孤島」だが)上空を飛行する飛行機の機内へワープ。そこから任意のタイミングで飛び降りれば、ゲームスタートとなる。

 ちなみに、昔あったゲームのように時間経過でプレイエリアが狭まったりはしないので、ぶっちゃけエリア内ギリギリの海上で波間に漂い身を隠して生き残ることも可能だが、そういうやつはほぼ99パーセント鮫に食われたり荒波に飲まれたりブルーホールに消えたりして命を落とすので、まあ、ちゃんと陸で活動するのがセオリーであった。


 飛行機のエンジン音がうるさい中、それでも機内の会話ははっきりと聞き取ることができる。


「あっ、てめーこの間やりやがったやつじゃねーか。お前最初にやってやんよ」


「は? っせーわ。ザ・コ・ヤ・ロ・ウ」


「ぶっこす! マジお前ぶっこす! つーか通報しまんたぁーっ!」


「どこにだよ? ママにかよ? くっせぇー」


「やべぇ、マジでお前だけ狙う。マジ狙う。早く降りろ。降りろ降りろ!」


「死ぃ~ん……くっさぁ……」


 いつもの感じで、これでも常よりはマシだったりするから凄いゲームだった。

 ゲームの性質上しかたないと言えば言えなくもないのだろうが、とにかくネット云々諸々考えてもろくでもなさすぎる会話が横行している。当然、粉雪などは無視無言を決め込んでいるので相手をしたりなんてしな━━


「いいおとな(多分)が中学生男子みたいな口論しちゃってさー。え、中学生男子だった? だとしたらゴメンねー。同世代だにょ」


「なんだコラメス豚、☆〇△に〇△☆□してやんぞおらぁ」


 そういうことは言っちゃいけない規約はあるはずだが、言う。みんな言う。しかも、通報したところで処罰されない。あくまでもゲーム内世界に準じた発言として認められるためだ。現実の生活、肉体に何らかの極端な影響が認められない限りは、あくまでも仮想現実での「なりきり」の範疇となるらしい。このゲームの運営会社としては「嫌ならやるな」の姿勢を貫いていくようで、道徳もなにもあったものではないが、逆に言えばそれらを了承してしまえれば、言いたい放題のゲームとして楽しむことができるというわけだった。


「おっほっほ、お前ごときにそんな技術はないだろー。どーせ誰かにやってもらうんだろー、お前のようなやつは人の威を借りなけりゃイキがることもできない小物なのさ、わたしは知ってるんだからねー、ばいばーい」


 捨てゼリフを残して飛び降りる粉雪。すると、すぐさま言われた野郎があとを追って飛び降りてくる。


 上空からタイブする最中、後方から「ころっ、ふっすぅ~……ん」みたいな声がついてくる。


(にょほほ、先に地面着いたほうがアドバンテージあるのは基本中の基本の基の字じゃんかよー、みてろよー、返り討ちにしてやんよー)


 などと考えながらも、視界に注意を向ける。近づく地面と建物。粉雪が目指すのは、建物の屋上部分であり、そこに落ちている武器を遠目にも把握しようと試みる。今の状況下においては、ほぼ着地の場所で、その瞬間に勝負が決まると言っても過言ではない。いや、着地する前にもう勝負は決まっている。


(なぜなら……お前がわたしの後ろに位置しているからさっ!)


 パラシュートを開き、いよいよその時が近づく。


 迫る建物の屋上。落ちている武器やアイテムは把握済みだ。


 どさっ、と着地した瞬間に粉雪━━のセクシーボディなアバター━━は前方へ一回転して切れ味抜群な本物の日本刀を右手で拾う。


「おらてめぇこのメス豚死━━」


 着地直後の互いに無防備な場面でしか意味のない、素手で殴りかかってきた相手に、しかしもう無防備ではなくなっていた粉雪が振り向きざまに思いっきり右腕をブン回して日本刀を一閃した。


 あまりにも切れ味が良すぎて、ひゅん、という風を切った音だけを残して━━男の頭部がけっこう遠くまで飛んでいき、残された身体が切断面から壊れた水道管よろしく血液を噴出させながらがっくんぶるぶるぶるりんちょと踊り倒れるまでを眺め、さあ行こうと思った瞬間ズッダーンと一撃必中で粉雪はヘッドショットをくらい絶命した。


「うっ……そ~……んぶろ!」ゲロみたいに吐血して死亡。リザルト画面が現れる。


「えー、うっそだぁ。あの場所でどこから?」


 着地後ソッコーでお陀仏になったのが久方ぶりだったし、おそらく遠距離からの狙撃を受けたはずだが、ゲーム開始直後と建物(三階建てアパート)の屋上にいたという状況から、さすがに唖然としてデスカメラ(自分の死に様を、やった相手の視点で確認できる)を見てみると、かなーり遠くのビルの中から超長距離狙撃を喰らっていた。


「マジすか……これ、何倍ズーム拾ったの? ってか、武器なに? なんで届いたん?」


 調べてみると、新たに実装された最新の武器があり、また、粉雪を狙撃した犯人は大会優勝レベルのレベチなプレイヤーであったとさ。


「じゃ、しゃーねーわな」言って、ログアウトする。


 このゲーム、一回のプレイが長時間になりがちなので、マジで1日1プレイくらいしかできないのだ。


「あー、おもしろつまんなかったー!」


 着地後までは完璧だったのに、たまたまスーパープレイヤーのスコープに捕捉されて終了。これはもう、運がなかったの一言に尽きる。ほとんどどうしようもない終わりかただった。


「こんな日もあるにょ。お、誰かからのメッセージが」スマホに来ていた。


 いつまで経ってもスマホがなくならないのは、これが一番人間の使いやすい人間が使ってもいいツールの最適かつ最終形態だから━━というかこれ以上進化しないようにセーブされているからなのだが、とにかくスマホはずっと昔からある。


 さすがに脳波を感知して触らなくても操作できる機能くらいは備わっているが、みんな触りたいし粉雪も触りたいから触る設定になっているので触って操作する。


『パチンコ番組はじめました。よかったらゲストで出ていただけませんでしょうか? ドリモグ』


「ドリ……モグ?」


 知らないやつだ、と一瞬思ったのだが、その名前にはどうやら聞き覚えがあった。


「確か……なんだっけか……つち……そうだ土里(つちさと)土竜(もぐら)とかいったっけな。通称ドリモグ。床屋のおっちゃんの知り合いで、くそ、こいつも確か芸人やってたな……」


 なんかもう芸人という時点で拒絶反応が出始めていたが、これは持病かもな。なんて考えながら返事も考える。


(なんでわたしが?)まず思ったのはそれだったが、おそらく床屋がなにか言ったはずだ。パチンコの神とか、女神とか、そんなようなことを。


 で、ちょっとだけ思案した粉雪は、すぐさま答えを決めると指を動かす。


「もしもしもしもしもっしもしん!」


 即通話モードでドリモグこと土里に連絡を取った。トモダチというわけでこそないが、一応、一通り関わりのある人間は登録してある粉雪。中にはハードSMプレイヤーデブ・梨泉バッビュちゃんとかいうわけのわからない名前もあるが、これに関しては登録した粉雪自身わけがわかっていない。


『あっ、どうも寿々木様。わざわざお電話ありがとうございます』


 スマホの向こうでひげもじゃのデブがペコペコ頭を下げている様が目に浮かぶ。


「うーい! で?」


『へ?』


「番組? 出てほしいって話」


『はい、そうなんです。この度ですね、あの先輩の芸人の、あ、芸人っていってもあんまりテレビに出てないクズの人なんですけど』


「ほうほう」


『その人と二人で【ゴミクズ遊戯】っていう番組をはじめまして━━それに是非、うわさの“パチンコの女神”である寿々木様に出てもらえないかって、まあ、その先輩になんとかしろって言われちやってて』


「ドリモグもたいへんだねぃ」


『そーなんですよ、あのクズ、こーゆーことは自分じゃやらないんで。まあ、あのクズは寿々木様の知り合いじゃないから、無理は無理なんですけど、だからってオレでも難しいとは言ったんですけど、出てもらったらその回のギャラ2倍くれるって言うもんで(←クズ)』


「ほーん。いいよ、出ても」


『えっ! マジですか! うそっ、やったー』


「正直パチンコは好きくないんだけど、床屋のおっちゃんがらみだからな、ドリモグは。特別サービスで、一回は出てもいいという所存」


『いやぁ、ほんとっすか、マジすかぁ。わっかりました、じゃあ出ていただくという方向で。ディレクターと、クズにも報告しておきます。日程とかは、追ってご連絡差し上げますので何卒よろしくお願いいたしますぅ』


「あい~ん、じゃっね~ん」


 通話終了。で、思うことひとつ。


「わたし、パチンコ番組出るのかよ……」


 なんだかなー、とは呟くが、元来の楽天的な性格も手伝って「ま、いっか」ですべてオーケー。あとは連絡待ちとなった。

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