表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かくれんぶ!  作者: 鈴木智一
34/42

紅蓮の炎

『いいいってきマンモスぅ、いらっしゃインドカレーん、あっヘダチキマンモスぅ、そんでもってヘダチキインドカレー味がぁ、なんとなんと今なら半額セール実施中なんだよなーっつってよおいコラなんだおめぇ誰だおい触るな触るんじゃねーよ誰だよなんだよなんなんだよ!』


 どこぞのヤバイ野郎が考えて、どこかのサイコ野郎が喋ったような店内放送がうるさい。

 どうやらこれは最近売り出し中の若手芸人がやっているようだが、世間の認知度が低く、やや不評な店内放送だった。


「あーこれ、あの、なんとかっていう芸人の人の声……なんだっけ、んー」と、桃姫は顔は知っているのだが名前がまったく出てこなくてイラつく。


「どうせろくでもない、館長みたいなやつでしょ」と、粉雪。


「それって、映画館の?」


「そう、ハゲタコシルクハット」


「ハリウッドさんは、ろくでもなくないです!

 素敵な、素敵なハゲタコさんです!」


 素敵なハゲタコとはなにか、疑問はあったが、それよりもおとなしめな桃姫がちょっぴり怒ったことが意外で、粉雪はおんやぁと思う。


「もしかして姫ちゃん、お笑い好きっこ?」


「あ、はい。お笑い好きっこです」簡単に認める。


「へー、そうだったんだ。見た目と胸によらないよね。で、そんなお笑い好きっこな姫ちゃんでも名前出てこないって、ど新人か?」


「新人といえば新人ですけど、最近お笑いハルマゲドン世代って話題になってきた人たちの中の一組で……トリオでぇ……えーと、なんだっけかなぁ……難しい名前だったような、うんんー」


「あの~、名前、40000000(四千万)頭身です」


 と、急に店内にいた見知らぬ若い男が声をかけてきた。


「ひっ!」


 桃姫が悲鳴を上げかけたが、相手の顔を見てすぐに喜びが上回った。


「あっ、40000000頭身の石崎(いしざき)さん!」


 はじめて見る生の芸人で、しかも━━すぐに名前が出なかったわりに━━そのトリオの中では一番好きな人を間近にして、桃姫は興奮した。


「えっえっ、なんでいるんですか!」


 興奮した桃姫は、男に媚を売るような態度としゃべり方で媚を売る。


「いや、いるのはたまたまなんですけど、ちょっととあるお宅を探してて。あ、五郎(ごろー)吹雪(ふぶき)もいますよ」と、芸人石崎は言った。


「えっえっ、みんないるんですか!」


「おっ、なんだおい、石崎このやろー、マブいナオンに手ぇ出してんじゃねーかこのやろ」


 先ほど店内放送で聞いた声そのままの男が、購入したラージサイズのコーヒーカップに間違ってスモールサイズ分のコーヒーを注ぎ、やってきた。


「いや手は出してない。ってか五郎、吹雪はどこ行ったんだよ」


「あーあいつは(かわや)だぁな」言って、ごっくんごっくんコーヒーを飲み干す。「ちっくしょ、間違って小せぇサイズのボタン押しちまったから、もーねぇわ少ねっ」


 しゃべり方と態度のデカさのわりに、背丈は中学生女子の桃姫より低く、顔もなんだか肥大したレーズンみたいな特徴ある男が、どうやら五郎という名前らしい。と、沈黙を守っている粉雪は把握した。


「いやーそれにしてもよ、こんな美少女ばっかの女の子たちとなぁに話してたんだよ石崎このやろおいこの石崎このやろ……って、なんだなんだなんだおいこらなんだぁーっ、おいおいおいシャレになんねーレベルの美人いるじゃねーかなんだおいこれなんなんだよこれっ!」


 エイミーに気づいた五郎は、極端に黒目の小さい小さなお目々を全開に見開いて、驚愕の表情をつくった。持っていた空のカップなどはすでに床へ落下しており、粉雪が「…………」と、ちゃんと拾うかどうか厳しい視線を向けている。


「あっ、ほんとだ、すごいかわいい!」そこで石崎も、ようやくエイミーの美貌に気がつく。


 なぜかはわからないが、このように時間差でエイミーのかわいさに気がつく人間というものが、かなりの割合で存在する。おそらくであるが、エイミーが現実的ではないレベルの美少女であるがため、認識が遅れるのではないか、と粉雪などは分析していた。


「やっべ、やーべ、オイラと結婚してくだスイッ!」五郎が突然プロポーズする。


「エイミーはまだ、法的に結婚できる年齢ではありませーん」と、エイミーは最近得意としている断りの文句を口にした。

 確かに実年齢(?)を考えると、エイミーを嫁にすることはかなわない。すべての男を黙らせる、最強のお断り文句だった。


「あーマジかー、でもオイラは諦めない。諦めの悪さだけは誰にも負けねーからよぉ、何年かかったってあんたをモノにしてみせるぜ……初対面でなんですがよー!」ちゃんと常識があるらしいあたり、憎めないやつではあった。


「ねー、もう買い物しよーぜー」


 いい加減うんざりしてきた粉雪は、桃姫とエイミーに告げる。

 桃姫は名残惜しそうな表情だが、いつまでも知らない芸人と話している暇も……あるけど、ない。


「あっそうそうそう、あのさオイラたち寿々木さんって家ぇ探してるんだけどさ、あんたら知りませんかぁ?」と、五郎が言った。


「え、寿々木?」粉雪は瞬時に嫌な予感がした。いや、予感ではない。ある事実を思い出したのだ。

 それは、小さいころから不定期に起きていた、自宅への芸人来訪事件である。

 経緯はよくわからない。でも、母親が言うには今や大御所芸能人へと登り詰めたコンビ芸人ペロペロキャンディーマンが原因であるとされている。彼らのせいで、粉雪の……いや、厳密には母親である寿々木初雪の家が、芸人にとって最高の聖地であると言われるようになったらしい。訪問した芸人が実際にブレークしたという話は多く、若手芸人にとっては是非とも訪れたい場所の第一位になっていた。

 最近はご無沙汰だったので、すっかりそういったことを粉雪は忘れていたのだが。


(あー、まーだ来るのか芸人……)と、内心でうんざりする。

 それは粉雪母がまだ若いころに始まり、最初はペロペロキャンディーマンにクレームを入れたこともあるらしいが、結果的に芸人にとっての通例になってしまうくらいに、この寿々木家訪問が定着してしまったのは、粉雪母の能力を考えると解せない話ではあった。

 でも粉雪は、もしかしたらママもなにか良い側面があることをわかっていて、容認しているのではないかと考えるようにもなっていた。


「ま、迷惑なことに違いはないんだけど」


 という粉雪の言葉に五郎は「え?」と返す。


「それ多分、わたしの家だにょ」教えてやる。


「ええっ、つーことはつまり、あんた寿々木初雪さんですかぁ!」五郎が、見当違いなことを言って驚く。


「いや、それママだから。わたし娘。粉雪」


「ワタシムスメコナユキ?」


「その黒豆みたいな顔、煮込むよ?」


「あっいや、すいません。さーせんっした!」


 黒豆が頭を下げる。意外に怒られると弱いのが特徴だった。


「ちょっと待っててくれたら、案内するけどどうする?」


「えっマジすか。そいつぁありがたいわ。いやぁ寿々木初雪さんの娘さんに偶然会っちゃうあたり、やっぱオレらって持ってるもんが違うんかねぇ。なあ石崎。こりゃもう、爆売れ間違いなしっしょ、どぅわはははっ!」


「じゃ、ちょこっと待っててね。店の外で。うるせーから」言って、粉雪は離れた。


 レジではちっこい露が、店員と話しをしていた。どうやら例のお姉さんらしい。


「しかせんべー、これ半額にならない?」


 繰り返しになるが、レジのお姉さんの名前が鹿煎餅珠稀という。

 露は、お姉さんを名字で呼び捨てにしていた。


「いや、なりません……ってか、わたしにはできません」当然のことを説明するお姉さん。


 粉雪の存在に気がついたお姉さんが、すぐさま助けを求めてきた。


「あ、粉雪さん! あの、お連れのチビッ子……もといチビ助、じゃなくて……お名前なんでしたっけ?」露に真顔で尋ねる。


「しかせんべー……小雨で湿らせ浸す」


 びしょびしょやん……と、呟きながら粉雪は近づいた。


「お姉さん、この部長は我がかくれんぼ部の部長でグリーン露といいますにょ。グリーンが名字でぇ、あ、親のどっちだったかが外国のグリーンっていう人でぇ━━」いい加減な説明をする粉雪。「で、なにしとるの?」


「これ、半額にしたいから……交渉してた」


 と、露が見せたのは一回千円する超プレミアムくじ引き『死滅の八重歯~無限地獄編~』の券だった。


「なんでこれ半額にできるかもとか思えたんだよ部長……ってか死滅のくじあるの?」


 と思って見回したら、あった。クソうるさい40000000頭身のせいで気づかなかったのだ。


「あー、しかもまだ上位賞ほとんどあるじゃんか……超人気作なのに!」


 粉雪の驚きに、鹿煎餅お姉さんの説明が入る。


「それ今日からでして、昼過ぎに並べたばかりで、まだお一人様しか挑戦していないんですよ」


「へえ、そうなんだー。その人、粘らんかったの?」


「計三十回引かれましたが、すべて下位賞で……半べそかきながらお帰りになられました。『くそっバイト代がくそっ』とか言ってました」


「あー、そりゃあ、なんと言うか……ツイてなかったのね。かわいそかわいそなのだす」


「なので、今すごくチャンスです」


「あっ、つまりそゆことだよね?」


「半額に……」


「なりません」


 露はしつこく食い下がったが、無理なものは無理だった。


「部長、あきらめなよ。それよりも三十回分の下位賞が失われた今、かな~り大チャンスなこのチャンスを生かすべきではないのかね?」粉雪はクレジットカードをひらひらさせる。「確かに千円は安くない。けど、上位賞が超プレミア出来のいいフィギュアなのだから、見返りはデカイんだよ?」


「こな……そのカードで……全部買える?」


「……部長。あたしゃーねぇ、一番嫌いなものの一つに『買い占め』ってのがあってねぇ……この、自分以外をかえりみないことそのもののような言葉と行動が本当にヘドゲボるくらいダメでさぁねぇってなもんでしてよぉ━━」お前誰だよ的な喋り方をする粉雪が、なんか喋りだした。「つまるところねぇ、この超人気作品のくじ引きに関しちゃあ、それこそ自分以外の全員も引きたいって思ってることは想像に難くなく、我輩のように想像力の欠片ほどはある人間であれば想像力の欠片もない人間にはおよそ存在しないであろう『思い遣り』という精神性を獲得することに成功しておるゆえ、ただ己の欲を満たすためのみ根こそぎ奪うというような暴力や暴食にも通ずるやうな罪悪を体現することなかれという教えの元にだぁねぇ、つまりねー、えっとねー、次の人の分をお残ししておこーってことなのよぉ?」


「粉雪さんって、なんかさすがっていうか、すごいですね……」鹿煎餅お姉さんは呆気にとられていた。


「でもラストワン賞を得るためには、買い占めもやむ無しデース」と、横からエイミーが粉雪の言を台無しにするようなことを言った。


「ぐぬっ、エイミーちゃんめ……確かにそれはそうだが……いや、でもまだウン十個ある時点でラスワン含め買い占めるってーのは、やっぱ買いすぎ感あるっしょ。いや、悪いとは言いませんけどね……そこまでして欲しいかってゆー……あー、欲しいさねぇ、欲しいでしょーよ。人間だもの。転売だもの。銭だもの。でもさー、本来こーゆー性質の商品って、偶然性を楽しむもんじゃないのかって思うのよね。たまたまラストまで五回とか六回とかってなってたら、じゃあ全部くださいは妥当っちゃ妥当でしょ。でもラストまで三十回分とかあるのに『じゃあ全部ください』は無駄使いってか、金持ってるから買うんだろうけど、だから文句言われる筋合いはないって話でもなくて……なんかさぁ、わたしが言うのもなんだけど、有り難みの欠片もない人生よねそんなもんはさ。『有り難し』という概念すら失すれば、最早本当の幸福など遠く得難く、なにもかもあれどなにもないのとかわりなく、なにを得てすらギャハハとバカ笑いしてイキるだけイキり倒してなにも身につけていない裸の王様として死後は低俗世界のワイセツ物陳列棚に並ぶような人間に━━」


「コナユキ……そろそろ暴走し過ぎです」エイミーがたしなめる。


「すんまそん……じゃあ、5回引きます」


「こな、5回も引くの?」


 5回も、という露の驚きは女子中学生としては真っ当な、至極常識的かつ当然の反応だ。なにせ計五千円という金額になるのだから。

 しかし粉雪という少女に関して言うと、彼女の手にあるクレジットカードを使用することにより、ぶっちゃけ残りすべて買い占めることすら簡単なことであり……つまり、この女がさきほど熱弁していた話には、あまり説得力はないのだったが本人は気にしていなかった。

 とは言えその考え方に嘘はなく、彼女はわずか5回の挑戦を申し出たのだ。しかも、気の利いた条件を足して。


「わたしと姫ちゃんとエイミーちゃんで一回ずつ引くから、部長2回引きなよ」と、仲間たちに提案する粉雪。


 それを聞いて、露と桃姫の目が輝く。


「こな、いいの?」


「粉雪ちゃん、ありがとう!」


「にょほほ、みんなで楽しまなくちゃ」


 粉雪がクレジットカードでお支払いすると、鹿煎餅お姉さんがくじの入った小箱を持ってきた。別に混ぜたりとかはせず、そのまま置く。中は、確かにかなり減っていた。半分ほどだろうか、それでも、これだけ減っていると当たりを引く可能性は段違いに高くなってくる。


「どれ、ではわたくしが先陣を……」と、粉雪が当然の権利として最初にくじをごそごそする。偶然性を重視する粉雪は、ごちゃ混ぜシャッフル派なのだ。「これに決めたッ!」ここぞというタイミングで適当な一枚をつまみ、引き上げる。


 ペリッ、と、あの小気味の良い音を鳴らしてくじをひん剥く。


 結果は……A賞!


「出たっ、竃馬(かまどうま)チュウ太郎!」


 お見事、誰もが欲しがる主人公のフィギュアを一発で当てやがった!


「うわーすごーい! さすが粉雪ちゃん、一回で当てちゃった」


「あー、こないーなー」露がうらやましがる。


「にょほほ、部長これ欲しかった? ま、わたしの推しとは違うから、あとで部長引いたのと交換しようぜ」


「え、いいの?」


「いいけど、下位賞引くなよ」


「うん……こ」露は自信なさそうに頷いた。


「次、わたし引いていい?」桃姫がすでに手を突っ込みながら言う。待ちきれなかったらしい。


「かんばれ姫ちゃん」


「うん……こ、これだー!」


 桃姫は底からサルベージ派なので、特に混ぜたりはせず、一番下のほうから一枚取った。


 ペリッ……B賞。


「やっ、やったやったやたよーっ!」変に高い声で喜ぶ桃姫。それもそのはず、主人公であるチュウ太郎の妹で、人気のヒロイン竃馬ネズ子のプレミアムフィギュアである。

 まさかの連続上位賞に、鹿煎餅お姉さんも興奮しはじめる。


「わー、すごい。二連続ですね!」


「ふふふ、お姉さん……これが我がかくれんぼ部メンバーの実力っスよ、うっふふふ」


「そのセリフ、あちき言いたかった」露がぼやいた。


「エイミーの番です」エイミーが引く。「E賞です」


 事も無げに、あっけなく、いつの間にかめくっていたくじを見せて、エイミーが言った。

 エイミーはこの世界の人間の範疇にない星の下に誕生しているため、ほぼ間違いなく欲しい商品を引き当てる運を持っている。なので、一番上にあったくじを取り出しただけで、狙い通りのE賞・夜這いのエロスケを引き当てる。夜這いのエロスケは劇場版オリジナルキャラで、別世界……というか、この文章を読んでいるキミたちの世界のアレん中に元キャラがいないというか、オレ(誰?)がアレに詳しくないというか、まぁ、ぶっちゃけアニメの一話しか見てないっつー信じらんない状況でブチ込んでますんで……一話見て「なるほど……」って、なるほどじゃねーよ。なにそれ、的な。いずれコミックス揃えようとは思ってますけどね、いずれね……。


「作者が元ネタにうといから誕生したキャラのフィギュアです、部長にあげまーす」と、エイミーはよくわからないことを言いながら、フィギュアを露に差し出した。


「い、いいの?」露が驚く。「デカイミー、エロいのに優しい……いいやつなのか……?」なにか勝手に困惑している。


「じゃ、あと二回は部長だね。みんな一発でフィギュア当てとるから、二回もあったらさすがに引くっしょ」


 という粉雪の言葉は、見事なまでのハズレフラグとなって……


「手拭いと……手拭い……あちきそんなに手ぇ……拭わない…………」


 迷い失敗派の露はどれを引こうか迷いに迷って適当なところから適当に二枚を引き、思っくそ外してしまった。最も等級の低い景品をゲットする。


「あ、あららー。宝くじは当てるのに、くじ運ないってどゆことよ?」粉雪が言う。


 プルプル震える露は、エイミーから貰ったフィギュアを見て思う。あー、貰えててよかったー、と。で、さっそく交渉の材料にする。


「こな……これと、それ、交換する?」


「それを平気で言える部長、やっぱすげーよ……ま、フィギュアはフィギュアだしね。いいよ、ほい、チュウ太郎」


 粉雪としても夜這いのエロスケはいらないと言えばいらないキャラだったのだが、露のほうがもっといらなそうだったので交換してあげる。フリマサイト……いや、馴染みのリサイクルショップに持っていけば、いくらか儲かるかもしれない、などと考えながら。


「でも、さすが粉雪さんたちって感じですよね。5回でフィギュア3体って、そうそうないですよ」と、鹿煎餅お姉さんは語った。


「だよね」と、同意する粉雪。


「ではコナユキ、帰りましょう。先ほどの方々が待ちくたびれて、なんだか放心状態に近い表情で入り口付近に並んで直立棒立ちの姿勢でこちらをじぃ~~~~っと見ている光景は、すぐにお店の迷惑へと繋がりますよ」


 というエイミーの言葉でそちらを見やると、確かに、ちょっと異常者みたいな二人が死んで甦った魚みたいな目でこっちを見ていた。


「うーわゲロキモ~い!」


「ゲロキモ・ヤバマックス・リターンズ」


「け、警察にれれ連絡ぅ~ん」


「あれは……憑依されているの……?」


「一撃通報レベルです」


 というセリフは上から順に粉雪、露、桃姫、鹿煎餅、エイミーとなっております。


「なんか、一刻の猶予もないっていう不安な気持ちにさせてくれる、絶妙にやべぇ顔!」


「こな、早く行こう……早く、すぐに」でなければ魂を奪われてしまう、という強迫観念にかられた露が急かす。


「そうだね、行こう。早く行こうすぐに行こうよし行くぞー」


 夜這いのエロスケが入った袋(かつての時代のビニール袋そのものだが、ビニールではなく原料にドモンカスというバイオ素材を使ったドモン袋=そのへんに投げ捨てても三日以内で土に還るすぐれもの)をぶん回しながら店を飛び出す。


「ごめんごめん待ったー?」


「いえ……オイラたち日本人なんで、待つのと並ぶのは心を殺して我慢しやす」


「我慢って言ってるし……めんごめんご。すぐ案内するから許してちょ。ま、案内というかわたしの帰宅についてきてもらうだけなんだけどねー」と、粉雪は歩き出す。「あ、エイミーちゃん姫ちゃん、バイビー!」別方向へ帰る二人にさよならする。


 露はまだ同じ道なので、一緒だ。


「紅蓮の炎よ~、愚かな人間の罪を焼き尽くせ~、香ばしい匂いとともに~♪」


 上機嫌で歌を披露する粉雪に、芸人二人も一緒になって熱唱する。公共の場で、歩きながら。

 露も加わればギリギリ女子中学生のウキウキ帰路の範疇に収まったかもしれないが、加わらなかったので迷惑行為ではあったのだが、幸運にも他の歩行者は少なかった。

 そして、この時点では全員が全員(というか、芸人の二人なのだが)完全にある一つの事実を失念してしまっていた。

 ヒントは、この芸人はコンビではなくトリオであるということだ。


 ━━というわけで、粉雪たちが去ってから数分後のヘンダーソン店内。


「あれ、ちょっとすんませーん、芸人の40000000頭身の者なんですが、五郎と石崎……ウサギのウンコみたいな顔の、あ、この店の店内放送やってる……え、粉雪さん?……あ、はい、え、そうなんスか……一緒に、マジすか。すんませんわかりましたっ、すぐ追いかけますっ。くっそなにアイツら、オレのこと忘れるとかありえねーだろマジでぇっ!」と、ダッシュで店を飛び出す細面の高身長男。そのズボンから、なにやら紙が伸びている。


「あっ……あの人、トイレットペーパーはさまってる…………」


 ズボンのうしろから、わりと長めのトイレットペーパーを出している男を見送ってから、鹿煎餅珠稀はトイレをチェックしに向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ