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かくれんぶ!  作者: 鈴木智一
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今さらタイヤと言われても

 部活の結果は、エイミーが鬼で露が真っ先に発見され、つづいて粉雪、桃姫が最長隠れを記録してマンオブザマッチを獲得した。学校からの帰り道。

 部員全員で、一緒に帰宅。エイミーは、そこいらを四六時中走っている(エイチ)システム社の車をとっつかまえれば、エイミーの送迎が最優先事項とされている社員によって市内にある本社社屋まで帰ることができる。なので、別に一緒に歩いて帰宅する必要性はないのだが、逆に言えばどこからでも帰宅することが可能なので、好き勝手に行動することができるのだ。エイミーの位置情報は把握されているらしいのだけど、そんなことは本人も周りも気にしていなかった。

 通り雨があったせいで誕生した水溜まりの上を、けっこうなスピードで通過した車があったが、すぐそばを歩行していた一行には、当然ながら水がどばっしゃ~っとかかることはない。なぜなら車は空中を走行しており、この文章を読んでいる諸兄の時代や世界にあるようなタイヤで走行する車両は、すでに廃止されて久しいからだ。

 事細かに、おもしろ事件や事故なんかも記録している歴史の教科書にあるような、たとえば大雪が降って車が立ち往生……などということは、もう起こらなくなっている。

 かつてタイヤがあった時代に、大雪で立ち往生した車の運転手らに、付近の飲食店などが差し入れをするという善意の行いがあった。が、宣伝にもなり一石二鳥と、一帯の飲食店や食料販売店などがこぞって差し入れをし「いや、さすがにこんなにいらねーよ!」とトラックのドライバーがコメントしたほどの過剰配布となり、問題になったという珍事もあった。

 中にはあからさまに偽善としか思えない者も存在し、そのせいで本当に善意のみでやっている者にまで悪評が立つという、まさに人間の世界らしいと言えば人間の世界らしい、愚かな出来事すら発生した。

 という歴史の一ページはさておき、タイヤがなくなったことは概ね良いことであった。タイヤ屋以外にとっては。


「タイヤ屋ってのがあって、タイヤってのが売っていたそうな」粉雪が言う。


 エイミーが車で送迎されているという話から、車そのものの話題にシフトしていた。


「タイヤは、処分するのも大変ですので、無くて困る人はいませんでした。タイヤ屋以外は」


 あらゆる情報が詰め込まれているエイミーの中には、当然ながらその情報も存在する。まるで見てきたことのように言えるのは、事実、その映像記録を見ているからだ。彼女が、彼女の脳内だけで。


「現在の車は、すべてコンピュータで管理・制御されています。タイヤがなくなったとはいえ、海を渡れるわけではありません。かつての車が走行していたようにしか、走行しません。かつて一時間かけて移動した距離ならば、現在でも一時間かけなければ到達できないように仕組まれています」


「そう、うちのママによって」と、粉雪。「今ある世界を作り上げたのが、うちのママだと言われているし、本人もそう言っている」


「事実です」エイミーも肯定した。


「各国の政府とは別に、世界政府があるっていう噂は?」桃姫が、先週視聴したばかりのオカルト系番組で取り上げていたネタの真偽を質問する。


「それは、あれかなぁ……ママの『世界こんな風にしたらいいんじゃないか秘密倶楽部』のことかも」


「あちき、そこのメンバーだった」


 えっ、と驚いたのは粉雪だった。


「なんで、嘘でしょ、なんで部長が?」


「なんか、こなのママが、なんか、日本人の数足りないから、あちきに入るってゆったから、あちき入るってゆったら入った」


「え……この世界、終わってる?」


 露が大国の大統領かなんかに、なんかイミフなことを言っていることを想像し、粉雪は絶望に包まれた。だが、ママが監視してるから大丈夫なのだろうか、という思いもある。いずれにしろ、露の頭脳では世界をどうこう動かすことはできないと思うし、そう思いたい。というか、こいつに世界を任せてはいけない、と強く思う。


「こな……失礼極まれりな想像してる顔してる」思いのほか鋭く、露が指摘する。


「あ、いや、思ってないよ、部長に世界を任せたら一週間もたねーなとか……」


「こな……オリーブ油で炒めアヒージョる」


 アヒージョる動作をしながら、露。


「でも、粉雪ちゃんのママが作った世界ってゆうのは、なんだかわたし、納得できます」と、桃姫は言う。「テクノロジー的にはできるのにやってないことって、たくさんあるじゃないですか」


 言っていたのはテレビタレントだったが、桃姫はさも自分の意見のように口にした。


 たとえば全部機械に任せられる仕事も、任せていないとか。と、事例を並べる。ホテルの受付は、前は機械にしてたのにという話をしだしたが、それについては粉雪母が動く前に、世間の意見が動いていた。

『いややっぱ人間いないと味気ないよね』と。

 雇用等の問題ももちろんあるが、その上でやはり人間がいたはずの場所に誰もいないと、寂しいよねという人情が世の中を動かして、無人化していた場所に人が戻ったという事例はたくさん存在した。

 要するに、人間が人間である限りにおいては、テクノロジーに制限をかけることは必要であるという説だ。

 エイチシステムのバーチャル空間は、精神だけの存在と言えなくもないほどリアリティーを持ったバーチャル世界を構築しているが、それでも、その中だけで生きられるようにはできていない。本体に少しでも異常が発生すれば、その時点で強制的にログアウトさせられるし、場合によっては救急の連絡がなされる仕組みになっている。

 神は肉体を持たないが、肉体を捨てた人間が神になれるというわけではない。そもそも格が違う、ということを人間はまだ理解していない。

 肉体を捨てることで神にわずかながら近づくことはできよう。だが、それ以上にはならない。永遠に生きたとして、それはもはや精神の牢獄と呼んでもいい状況と言えるのだ。

 という考えから、寿命がなくなるようなテクノロジーも、普及させてはいない。これは、技術的には可能であるが、故意に隠されている。

 誰だって死にたくないだろうけど、永遠に生きることはできないよってのが、世界政府の出した最終結論だった。


 いろんな世界があるけど、少なくともこの世界はこの結論でいきまーす。というのが、粉雪の母が残した言葉だ。


「うちのママも、何十年後かに全解除したらダイナマイトヘヴンだって言ってるし、できるようになったからやるってのは、逆に頭のいい考えではなくて、できるようになったからこそ、力や技術の使いどころは慎重にってのが、わたしがずっと言われてきたことだにょ。もっとも、わたしはなんもできないんだけどね」


 粉雪のあとを継いで、エイミーが喋る。


「車の運転でも、あるいはスポーツに例えてもいいですね。車の運転であれば、アクセルを踏むだけなら誰だってできる。単にスピードを出すだけなら、誰でもできるのです。従って、スピードを出すことが運転のうまさとは言えない。スポーツも同じことが言えます。本当にうまい人というのは、力をコントロールできる人を言うのです。言い換えれば『力を抜くことがうまい』のですね。もちろん、超人的な力はそのままでも脅威の武器です。アクセルをベタ踏みしていれば、目的地には早く着けるでしょうし、他の車もごぼう抜きです。でも、それだけではカーブに突っ込んでお陀仏あの世行きですよねw(うふふっ)、サッカーであれば、キーパーと一対一なのに力任せにただ蹴って枠の外にびゅーんです。そこは、正確にキーパーの届かない場所へのコントロールシュートが正解ですね。どんなに力があったって、コントロールできないのであれば、それはおバカなのです。力を得たうえで、それを制御できてはじめて一人前と呼べるのデース」


 と言うエイミーの言葉だが、現在の車ではごぼう抜きできないし、カーブに突っ込んでお陀仏あの世行きにもならないので、これは前時代の話である。エイミーを誕生させた人物が、ただスピードを出しているだけで運転がうまいと思っていた前時代のバカに一家言(いっかげん)ある人物なので、そのようなデータがエイミーの中にあったというだけに過ぎない。誰か実在の人物を想定したものではなくエイミー自身の考えではない。また、作者の考えでもないらしいので悪しからず。


「まっ、人間なんてバカなんだから、なんでも好き勝手やらせちゃダメだよ神様ってところかな?」というのが、今回の粉雪の結論。「久しぶりにそこのヘンダーソン寄っちゃう?」と、訊ねる。

 ションボリマンの新段が出なくなってから、また、粉雪母のサイン色紙をレジのお姉さんにプレゼントしてから、しばらく足が遠のいていた。とは言え、一週間に満たないのだが。最後に来たのが先週末で、その時に粉雪は約束していたサイン色紙をレジのお姉さん(名前は鹿煎餅(しかせんべい)珠稀(たまき)さんという)に渡し、思っていた以上に喜ばれてちょっと引いたという出来事があった。よほど嬉しかったようで、お姉さんは涙すら流していた。


「お姉さんいるかなぁ?」


 シフトを把握しているわけではないので、いるかいないか、会えるか会えないかはその時々で違う。

 いればいいなぁくらいの気持ちで、粉雪たちはヘンダーソンに入店した。

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