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かくれんぶ!  作者: 鈴木智一
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いくつもの夜をこえて、たどり着いた小さな部室があちきらの楽園だ

 壁の隠者が、心なしか笑っているようにも見える。

 もちろん、気のせいだが。

 なんでこんなポスター貼ってるんだろうなぁ、みんな早くこないかなーって、桃姫は思いながら部室にひとり。

 いつもはだいたい部長の露か、それでなくとも粉雪のどちらかは先に来ている。あるいは、廊下で会ったなら、桃姫は粉雪と一緒に部室へと向かう。しかし、今日に限っては粉雪のクラスがぜんぜん帰りのホームルームが終わんなくって、一向に誰も出てこないから桃姫は粉雪を待たずに先に来たのだ。しかし、部長もまだやって来ない。


「遅いなー」


 ひとりだとやることもなく、最近持ち込んだふわふわ座布団の上で身体をゆする。

 胸もゆれる。


「遅いなー」


 部室には椅子がないので、みんな地べただ。正座したり体育座りしたり女の子座りしたりひっくり返ったりしている。ひっくり返るのは、露だった。


「遅いなー」


 同じことを言うのにも飽きてきたころに、ようやく足音が近づいてきた。

 足音だけで、誰かわかるようになっていた桃姫は「おつゆ部長だ」と喜んだ。


「えんたーひあー」とか言って、露は入ってきた。


「おつゆ部長、遅かったですね」


 桃姫の言葉に、露は返事をする。


「もも、早すぎ」と。


「そういえば、休み時間にたまたま会った粉雪ちゃんに聞いたんですけど」


「うん……こ」


「……聞いたんですけど、なんか、大会に出るって本当なんですか?」


「うん……こ?」


 露は疑問符を返す。どうやら、聞いていない様子だ。部長なのに、と桃姫は思う。


「秋頃に、かくれんぼの全国大会が開催されるって、粉雪ちゃんが」


「あちき、知らね……」


「そうですか……」


 やはり、粉雪を待つしかなさそうだ。休み時間にちょいと聞いた程度では、そこまで詳しくは伝えられなかった。なので、桃姫もいまいち把握しきれていない。

 会場はどこなのかとか、誰が出場するのかとか。そもそも、本当にそんな大会が開催されるものなのか、等々、疑問は尽きない。


「あちき、ぶよぶよの大会出たことある」


「え?」


 露が突然そんなことを言ったので、桃姫はなんのことやらわからなかった。


「ぶよぶよ」


「なんです、それ?」


「ゲームの、ぶよぶよ」


「あ……あ~、なんとなくわかります」とは言え、桃姫はゲームなんてほとんどやらないので、うろ覚え程度の知識なのだが。確か、なんかぶよぶよした得体のしれない物体を重ねるみたいなテレビゲームだったような気がする。いつだったか、コマーシャルで見たことがあるはずだ。よく覚えていないけれど。


「チェン公堂(電気屋)の大会で、5位になった」というグリーン露が参加したぶよぶよの店舗大会はかなり小規模な大会だったし、参加者は総勢で6名しかいなかったのだが……。


 その中の5位入賞(?)であるグリーン露は、かつての輝かしい栄光に思いを馳せる。


「へー、すごいですね」と、なにも知らない桃姫は誉めた。


「いえす」露は誇らしげだ。


「粉雪ちゃんたち、まだ来ませんね」


 なんて言ってたら、二人分の足音が聞こえた。

 すぐに扉が開き、女子中学生然とした身長の粉雪と、学生を越えて大人の女性にしか見えない容姿と身長のエイミーが一緒に到着。


 部室は一気ににぎやかさを増す。


「でさー」いきなり、でさーから喋りはじめるのは、さすが粉雪。「万寿夫が言うには、秋にかくれんぼの全国大会をやるらしくって、なんかしらんけど、わたしが中心人物だって」


 ほとんど、なにも伝わらないくらいわけわからんセリフに聞こえた。

 なので、露はなにも理解していない。


「あちき、(万寿夫なんてやつ)知らね」露が言う。


「わたしもよく知らねーんだけど、その万寿夫が大会実行委員の委員長でー、あれ、違ったっけか?」粉雪はエイミーを見る。


「山籠万寿夫は、かくれんぼ協会の理事長ですよコナユキ。大会実行委員は、まだ決定前の段階です」


「そっか。そゆことみたい。ほんで、なんかよくわかんねーけど、大会出るからには勝ちにこだわりたいから、部長やる気出してがんばろぜって話」


「……あちき、出るの?」


「え、当たり前田のマイクロバスじゃん。あちきも姫ちゃんもエイミーちゃんもあちきもみんな参加型よね」


「えー、めんどくせ」露はえー、めんどくせとか言った。


「ほ、ほんとにやるんだ、全国大会……」


 かくれんぼごときで……という言葉も出そうになったが、それは出さない桃姫。

 代わりに、エイミーが言った。


「かくれんぼごときですけど、ちゃんとした競技として広めたいというのがハツユキの意向デース」


「ハツユキって……粉雪ちゃんのお母さん?」


「そ。例によって例のごとく、わたしんとこのママママママ~ンがほとんど勝手に決めちゃったみたいな感じでごめ~んね~ん。まことにすいまめ~んね~ん」ぜっんぜん申し訳なさ皆無な言い方で、粉雪はふざけた。

 なので露がイラッとした。


「カネの話になるぞ」


「部長、カネの話になるの?」


「なる」


「いくら?」


「千円」安いもんだった。


 最悪、参加拒否をしてきたところで千円さえ支払えば参加してくれるらしい、ということだ。露の値段は安かった。


「あ、じゃあわたしも千円でいいです」なんて、ちゃっかりと桃姫も乗っかる。いつもながら、この娘は意外にちゃっかりしている。


「わたしはハツユキ関係はすべて、無料となっております」エイミーはロハだった。


「そんなら、わたしも無料だわ……」粉雪は諦めたようにつぶやく。が、そもそもカネが関わる話ではないはずだ。「まあ、なんにしてもまだ先の話ではあるから、それまで部活がんばろうぜってこと」


「あちき、いつもがんばってる」


「う~ん、でも全国大会ってからには、そりゃもう全国からかくれんぼの猛者たちが集結するわけだから、たぶん、今のままじゃやられるっ……!」


「やられる……?」


「そう、完全に、まっ平らに、ぶっ潰されて泣きっ面にハチミツをかけられる!」


「あま~い」露が顔を歪める。この少女は、想像だけで味覚に影響を受けまくるという特性を持っていた。特に、辛いものは見ているだけでいろんな汁があふれてくるとかこないとか。


「ハチミツをかけられる可能性は、もちろん皆無とは言いきれません」エイミーもそんなことを言うものだから、桃姫がビビる。


「可能性あるんだ……」


 いったいどこのどいつが、ハチミツなんて持ち歩いているんだ。しかも、人にぶっかけられるくらいの量を。なんて考えはどーでもいいので、桃姫は違うことを訊ねた。


「トロフィーとか、もらえるんですか?」優勝したら、とエイミーに向けて言う。


「もちろんあります。それと、ハツユキの計画では、賞金も出るはずです」


「なんと!」


「おいくら万年?」露の目が輝く。


「おそらく、優勝で一千万ですね」


「一千万年!」露が気絶しそうになる。


「そんなに生きられないね。人体パーツ全取っ替えどっきんこ大手術するか黒人サイボーグ化しないと無理だし、それ以前にそんな幾星霜の時を生きたってしゃーないわな!」


 話がおかしくなってきたので、桃姫は部活を始めましょうと言おうとして失敗し「いい一千万あったら、わたしいくらもらえるんですかーん!」とかほざいたのだった。

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