のんすのんす日和
「もこちん、おはっぴ」
「こなちゃん、おはっぴ」
粉雪は変な顔をしたが、もこ菜はしなかった。
教室で朝のあいさつをすませた直後、もこ菜が言った。
「秋の全国大会でるの?」と。
「は?」
しかし、粉雪はなんのことだかわからない。
「あれ……かくれん部のホームページで見たんだけど」と、もこ菜。
「は?」
粉雪は席に座ると、自分のスマホを取り出して滅多に、というかほとんど見ることのない部活ホームページ(母親が勝手に作った)を開くと、目を丸くした。
「なぬ!」
トップページにでかでかと『10月、全国中高生かくれんぼ大会開催決定!』とあった。続報を待ての言葉通り、詳しい日時はまだ発表されていないようだが……。
「あたし聞いてないんだけど……あれぇ、ママいたんだけどなぁ……言い忘れたのかなぁ」
頭の中がハテナだらけの粉雪は、混乱している。
「ハツユキは、たぶん言い忘れてますネ」
粉雪の右隣に席がある、エイミーが断言する。彼女以外の言葉なら、勝手にそんなこと言ってー、となるセリフだが、エイミーが言うのならその通りなのだろうと粉雪は納得する。
「うちのママ、どーでもいいことは逐一言ってくるけど、重要度が上がるにつれて言い忘れてたり言ったつもりになってたりするからなぁ」と、母親のことはよくわかっている実の娘が発言した。
「で、なんなのこれは?」
「かくれんぼの全国大会デース」
「それは、わかった。なに、お遊びイベント的なこと?」
「違いますね。ちゃんとした競技として、勝敗を争う正式な大会です。このために中学高校かくれんぼ協会が、すでに設立されています」
「なんとまあ」
粉雪はおどろき、あきれた。
「それにともない、かくれんぼ協会の理事長が大会開催決定の旨、コナユキに報告へ来ました」
エイミーは確かに『来ました』と言った。
「にょ?」まさか、と教室の扉へ目をむけたタイミングで、知らないおじさんが勝手に侵入してきた。
平日の中学校という場所において、およそあってはならない出来事だった。のだが、誰もあんまり気にした様子がない。
明らかな変質者ではなく、きっちりと正装した男性だったからか。これが某映画館の館長だったなら、きっと通報は確実だったろうに。
「ああどうもぉ、お初にお目にかかりますぅ。あたくし、寿々木初雪様からかくれんぼ協会を任されましたぁ山籠万寿夫と申す者でのんすぅ」
「のんす……!」独特な語尾に反応する粉雪。
「なんでもぉ、粉雪様を中心にかくれんぼ競技を広めていくとゆう方針だそうでぇ。あたくし、こうしてご挨拶にうかがった次第でのんすぅ」
「いや……まったく聞いてないのんすよ。わたしを中心にされても。ってか、部長いるのに」
副部長なのに部長をさしおいて中心に据えられるとなると、また露が機嫌を損ねてしまう。と、粉雪は考えた。
「細かいことは気にならさないように、と初雪様からの伝言でのんすぅ」
「あっ、そ」
どうやら母親が無茶苦茶な先手をうっていた。
なので、粉雪は細かいことを気にするのはやめる。
「おっちゃん、そろそろ授業はじまるのんすけど、いつまでいるのんす?」
もう帰ってほしいので、暗に帰れと言う。
「ああ、これはまずい。それでは、とりあえず今日のところはご挨拶が目的でしたのでぇ、こんれで失礼いたしまのんすぅ」
そこは「いたします」か、どうしてものんす言いたいなら「いたしますのんす」のほうじゃないのかと思った粉雪だが、そんなことはどれでもどうでもいいので黙っていた。
「はんわっ、キャ~ワワぁ! あっ、はぁん……いい匂い~ん……」
帰り際、やっとエイミーの存在を認識した山籠理事長が驚きと恍惚の入り交じった表情のまま、しかもエイミーから目を離さずに教室を出てゆくまでを見送ってから、粉雪は言った。
「なんか、めんどくせーことになったし」
「あの人、変な喋り方してたね。のんす……むっふす、ふんっ」もこ菜が思い出し笑いをする。
人様に変な喋り方とか言う権利がないくらい、もこ菜の笑いかたも変なのだ。
「変な笑いかた大会あったら、もこちんが優勝確実なのでもこちんが出ればいいんだけど、かくれんぼの大会って……どーなの?」
粉雪はもこ菜に向かって言ったが、もこ菜はちょっと怒ってぷりぷりした。
「その言い方はひどいと思うよぉ、わたし、そんなに変な笑いかたじゃない……はず」自信はなさそうだが、否定はするようだ。「エイミーちゃん、どう思う?」と、もこ菜は肯定意見を求めてエイミーにふった。
「変デース」エイミーは笑顔で答える。
「が……がっがぁーんっ!」とか言って、もこ菜は膝をつき、両手もついて、最後は床にひっついた。うつ伏せの状態で、動かなくなった。
「あ……もこちん逝っちゃった」
神々の待つ━━かつてのみんなが待っている、あの、最後の光と闇の世界へ!
つづく。




