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かくれんぶ!  作者: 鈴木智一
24/42

レロレロレーンピギィーンヌパッヌパヌパメキョリンミキオバヒュッポンヌラァメタァピロピロピロッピロシゲオッバキュラスシゲオッテッテレテレチンチーンチンチンシゲオッジャリメリメキョキョシゲオッ

 日射しが心地よい廊下を、粉雪と桃姫のかくれんぼ部一年生二人が歩く。いざ、部室を目指しながら。


「ほんでね、もこちんが小説書くことになった」


 と、本日の出来事を伝える粉雪。

 あれから結局どういう心境に至ったか……わからないが、とにかく小説を書く決意を固めたもこ菜は今学年中に、短編でもなんでも、なにか一作書き上げると誓っていた。


「へえ~、そうなんですか。それは楽しみ」楽しみと言えば、と桃姫は続ける。「粉雪ちゃんとおつゆ部長が出演したフリキュアの映画、もうそろそろだったような?」


「あっそうそう、当初夏ごろ公開予定だったんだけど、音入れすぐに終わっちゃったから前倒しになったのよね。そんでもう明後日公開初日だからさ、しかもちょうど土曜日だから午後は部活がてらみんなで見に行く予定なんだけど(この作品世界のこの時代、土曜日の午前中は授業があった)、もちろん姫ちゃん強制参加でよろしいね?」


「あ、うん、よろしいです」


「おっけ。ちなみにチケットは何枚でも貰えるので全員タダです」


 映画なんて自宅にいながらいくらでも自由に見られる時代、だからこそわざわざ劇場で観賞することの「贅沢さ」に価値を見出だされた中では、その観賞チケットはけしてお安い価格ではない。ましてや中学生のおこづかいを考えると、なかなか痛い出費になる。それが無料となれば、もはや断る理由などなかった。


 桃姫はキャラに似合わない「よっしゃ!」という声を上げ、粉雪を驚かせた。


 そして、部室に到着━━


「部長ぉ~ん、れろれろれ~ん」


 粉雪はふざけた挨拶をかました。


「れろれろれぇ」露もかました。


「れ、れーろれーろれー」桃姫もかました。


「あちき最近かくれぼぉやってない気がする。気のせいだけど」


「だね。まったくの気のせいだよね。毎日部活やっとるし。今日もやるし。カクレボヌフゥス」


「イエス。ではさっそく、本日のクンカレンヌンヴォォォ・ンオンヌンフォッンサンヌンスッフンをはじめると思う」


 多分かくれんぼのことだな、と桃姫はなんとなく思いながら、黙って聞いていた。

 自分たちの住んでいる町には、なぜか変な人が多いのではないかと疑ったことがあるが(桃姫は今でもその疑いを捨てていない)、露と粉雪の二人も、そんな人間に近づいてるのでないかという気がしていた。もちろん口には出さないが。


「あちき鬼やる」露が、どことなく機嫌良さそうに片手を上げる。


「おや、これは珍しい。じゃんけんぽんもしないで、自ら鬼役に名乗りを上げるとは……さては部長、けずりんこ(スクラッチくじ)で大金を当てたのでは?」なんの根拠もなかったが、思いつきで粉雪はそう発言した。


 そしたらなんと、露が「ギクッ」とか実際声に出して驚いたものだから、まためんどくさくなった。


「その『ギクッ』は、ほんとなの嘘なの?」粉雪が言う。


「ホント」


 本当だった。


「えっ、いくら当てたん?」


「さんびゃくまんえん……」


「さん……は?」


 思っていたよりもずっと高額(せいぜい数十万円程度と予想していた)だったため、粉雪は一瞬理解できなかった。


「えええーっ!」桃姫が常ならぬ大声を上げる。「部長さん、ほんとですかーっ!」


ごちわら(・・・・)のスクラッチで、ナイトクロウラー十匹出た……」


 粉雪の母親が子供のころから続き、今なお新作が作られ続けている人気アニメ「ナイトクロウラーさんのご注文は藁ですか?」のスクラッチくじは、十個のマスすべてを削り、ナイトクロウラーの数によって賞金が得られらものなのだが……露の削った一枚は、すべてのマスにナイトクロウラーの絵が出現した。つまり、誰もが夢見る一等賞だったのだ。


「す、すげすぎる。いつかやるんじゃないか、このちっちぇえ小娘は……いつかやっちまうんじゃねーのかこのガキは、と常日頃から思ってはいたけれど、このチビッ子、ついにやりおったというわけなのかっ!」


「ちっちぇ……ガキ……こな、言うに事欠くな」


「すごいですおつゆ部長! ちっちぇえガキなのに、三百万円も当てちゃうなんて!」


「ももまで……あちきでっかくなるぅ~!」


 露がくやしがりプルプルと震えながら全身を伸ばしてみせたが、身長は変わらなかった。


「えっ、じゃあさ……そしたらもうわたし部長に奢る必要なくなるよね?」


 と粉雪が言ったら、露の表情が凍りつき、次いであわてふためく姿をさらす。


「なくならないのこと!」あわてすぎて、カタコトみたいになっている。「あちきのだけどあちきのじゃなくなって、変わらないから!」


「まったく、ぜんのぜんのたくのまつでイミフなんスけどぉ……?」と言う粉雪のセリフもまた微妙ではあったが、ちゃんと伝わった。


「大金すぎて、大人じゃないとお金もらえないから、ママにやった。そしたら、ほとんどママのになるってなって、あちき、あとで三万円もらえるだけになったから、だから、こなの金がなくなったら困る!」


 友人を金づると捉えているようにも思える内容であったし、事実、露の目には粉雪の姿がたまぁ~に歩くATMに見えることもなくはなかったのだが……。

 必死の訴えにより、粉雪は「それならまぁ」と、これまで通りの支援(?)を約束(?)し、その場は収まった。


「子供だから仕方ないね。でも部長、三万円もらえんなら、それ何に使うのさ?」


「山本サボのマンガ買う」


「山本……なんじゃそりゃ」


「あ、あたし知ってます。なんかゲームとか、不幸せな出来事のマンガを描いている人……この町って変な人多いじゃないですか(あっ、言っちゃった!)、そういう人によく出くわす方みたいで、そんな話をマンガにしてて……おもしろいですよ?」


 桃姫は最近、変な人に興味があった。自身、自覚はほとんどなかったのだが、もう興味津々といってもいいレベルになっていた。


「へ~、わたしは別に興味ないかな。変な人は変な人で、ただ、そういう人ってだけだし」と言う粉雪は直近でも変なおやじに関わっていたのだが、それは思い浮かべていないあたりすごい。粉雪はすごい。


「それで、どのマンガ買うんですか、おつゆ部長?」


 山本サボの作品はけっこう出ているので、全部買ったら三万円では済まない。人気作家であり、その単行本は中古でも新品と似たような価格なので、やはり全作品の収集には無理がある。


「とりあえず『きょうの変質者』買う」


「あっ、それわたしも好きなシリーズなんです! 四巻まで出てるから、全部そろえるのをおすすめします!」


「なんか姫ちゃんの意外な素顔が。あんた、そーゆーの好きだったのね。そして部長もなにげにそーゆーの知ってるってゆー」なんとなく置いてかれた気になった粉雪。


『きょうの変質者』というマンガは、作者が常日頃遭遇するおかしな人物やヤバイやつら、イカレた人たちのエピソードを中心にした内容で、その評価は高かった。

 そしてなぜ露がそれを知っていたかというと、書店で暇潰しにと適当に手にした一冊だったという、ただそれだけのことだったのだが。


 本との出会いなんて、そんなものだし、それでいいのだ。そうして出会った中の一冊があなたの人生を左右するかもしれないし、永遠に心に残る作品となるかもしれない。名作か否か、世間の評価が高いか低いか、認知されているかいないか、そんなことは関係ないのだ。他の誰もが知らなくとも、自分だけが知っている。それでいいではないか。誰かに知ってもらう必要はなく、誰かに認められなければいけないということはないのだ。自分は自分。他の誰でもないのだから。自らで選べ。自分で判断しろ。すべてに抗え。誰にも決めさせるな。お前の選ぶものは、お前にしか選べないのだから……。


 ━━目覚めよ。


「はっ……!」露が突然、大きく目を見開いた。


「どうした部長、死ぬのか!」冗談ではなく、ほんとにそう思った粉雪はAEDの場所を頭に浮かべてさえいた。


「あちき……なにかに目覚めそう……」


「なんだ、なにに目覚めるんだ!」とりあえず死ななそうだったのでAEDの場所は頭から追い払い、粉雪は声を上げた。


「なんか、なんかの声がした……作者の声かもしれない……」


「なんじゃそりゃ、またそーゆー……わたしらの世界は小説じゃねーのよ?」


「なんかごちゃごちゃ言って、最後……『目覚めよ』って、偉そうな感じで、上から目線で、なんか、言われた気がした……」


「気のせいだろ、としか言えないんだけどねそんなこと言われてもわたしとしては……でもまあ、それってあれか、スタンドマン的なやつかもね。ジェイジェイ(JJ、主に面白い擬音で知られる人気の少年漫画。【例】『ヌパッヌパパ(溶けた顔面に小指で穴を空けられる音)』『シゲオッ(路上生活者の男性がローションまみれの鉄板で足を滑らせてエアコンの室外機に頭を強打した時に出した声)』『シゲオッ・バキュラス・シゲオッ(敵の能力者が主人公のスタンドマンに立て続けに鉄パイプで顔を殴られ腹を銃撃されつま先にコンクリートの塊を落とされた時の声)』)の作者、ここいらの出身らしくて、作品の舞台もここいらの町がモデルだっていうし。スタンドマン、実在すんのかも。部長、スタンドマン使いになるのかもよ?」


「あちきが、スタンドマン使い……」まんざらでもなさそうに、実はマンガ好きだった露は呟いた。が、もちろんそんな特殊能力者としての覚醒などしない。


「どう、スタンドマン出そう?」


「わかんない……やってみる」


 ジェイジェイ(JJ)の主人公(第一部~第十三部)である浄玻璃(じょうはり)ジョン太郎のポーズを真似て腰を落としたガニ股の姿勢になり、なにかに苦しむように戦慄いた表情と表現で両手のひらを両耳の横にして、全指を気持ち悪く動かしながら口を歪め左斜め上を睨み付けながら「そこじゃネっダロぉぉぉん?」と言い、「スタンドマぁぁぁン、カモンッ!」って叫んで右手を上に左手を下に伸ばして跳び跳ねたけれど、なぁんにも出てこなかった……。

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