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かくれんぶ!  作者: 鈴木智一
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部員ぼしゅー中

 教室窓側の最後尾に席がある粉雪に、前の席で美術部に所属している立花もこ菜ちゃんが話しかけた。


「二年生が体育してるねー」


「うに。あれはうちの部長のクラスだにょ。ほんで今走り高跳びでなぜか顔面からバーに突っ込んだのがうちの部長だねぇ」


「うわー、痛そう。大丈夫かなぁ?」


「バー持って逃げたから平気だっちゃ」


「なにやってんだろね……そういえばわたし昨日、部長さんにスカートめくられたよぉ」


「なぜに……あ、たぶんだけど、もこちんのスカートん中にわたしが隠れてないか確認したんだと思うよ」


「……そんなとこに、いるわけないじゃん」


「んー、わかんないよー。そのうちいるかも」


「えー、なんでいるのー!」


 などと授業中だということをすっかり失念していた粉雪ともこ菜は、しっかり先生に怒られましたとさ。


 ★★★★★


「へい、ぶらざー。パ~スぅ」と言って露は高跳びのバーを男子に渡した。


「え、こんなのいらねーよ」


 無理矢理渡された男子は文句を言ったが、露を追いかけていたはずの男性教諭に追いつかれ、なぜか代わりに説教をくらっていた。

 かわいそすぎるが、仕方ない。露はすでに女子の塊に同化していて、先生の目からは逃れていた。


「部活スキル発動━━素人にはめっかんないやつ」


「おお、おつゆちゃん、さすがかくれんぼ部。隠れるのうまいねー」


 クラス委員で、なおかつ美少女という裏山スペックなクラスメイト・中島(なかしま)緋見呼(ひみこ)ちゃんに誉められて、まんざらでもなさそうな露。油断してたら、あっさり先生に見つかってしまった。

 でも、こちらは女子担当の女性体育教師な松村先生だったので、あんまり怒られなかった。


「つゆちゃんがバー持ってっちゃうから、わたし跳ばなくて済んだよ。ありがとう」ってクラスメイトで軽音部の平山紀依ちゃんがちょっと嬉しそうに言ったけど、もちろんあとでしっかり跳ばされるのだった。

 だって記録をつけていたので、跳んでいないのがバレバレなのだから。


「きい━━軽音部はどうやって部員を5人にしたの?」部員がふたりしかいないかくれんぼ部の露にとって、5人というのは大人数だ。

 どうすればそんなに人が集まるのか、ヒントが聞きたかったのである。


「それはねー、昔やってた『ざつおん!』っていうアニメが好きな子が、勝手に集まってきただけなんだよー」なんのヒントにもならない真実を、紀依ちゃんから聞きだすことに成功する。


「勝手に集まった……裏山……のオバケが出そうな池が集合場所にオススメ」


「えっ、なんでそんな危ないところに!」なんのために━━と、真面目な紀依ちゃんは露のおふざけをまともに受けとめて答えた。


「つゆちゃん、もしかして部員募集するの?」


「しそう。こなとふたりだと、2パターンだけだから」


「そうなんだ━━わたしもなにか協力できることがあったらするから、なんでも言ってね」


「じゃあ、3人ぷりーず」


「あ、それはちょっと無理かなぁ……ごめんなさい」


 ぺこり、と謝罪の紀依ちゃん。できないことはすぐに認める、正直者なのだ。というか露の言動がめちゃくちゃなだけではあるのだが……。


 なんとなくそんな感じで、部員を募集する方向に気持ちが傾いていった露は、さっそく本日の部活動で、そのためのなにかをしようと画策していた。


 ★★★★★


「では、今日の活動」


 やっぱり狭っ苦しい部室で、わずか十センチ以内の距離で顔をつき合わせているふたり。なのだけど、実は別にその距離でなくてはいけないわけじゃなく、スペースはもっとあった。でも狭い部室を体現するかのように、いつもその距離でミーティングをするのだ。


「部員をー、集めろ」


「なぬ、命令かよっ━━どっちかってゆーと部長が集めろ」


「……どーやって?」


「どーやって……うに~……まあ、貼り紙とか? ポスター作りますか?」


「よい。こな案を採用する」


「嬉し恥ずかし」


 どうやら部員募集のためのポスター制作をすることにしたようだが、部室には紙もなにもなく、作るための材料が不足していた。


「美術部」


「ですな」


 頷き合って、さっそく部室を出たふたりは美術部へと向かった。かなり迷惑なふたり組であるが、当人たちに自覚なんてない。


「へろ~」とか言って、我が物顔で美術部が活動中の美術室へ入る露。


「あっ、またきたかくれんぼ部」と、美術部部長の三年生・志路(しじ)最西湖(させこ)が迷惑そうに反応した。


「紙とペン、ぷりーず」


「えっと、ポスター作りたいんで、なんか貸してください」粉雪が捕捉説明がてらお願いする。志路部長は難しい顔をしたものの、お願い自体は難しいものじゃなく、特に断る理由もないので貸すしかなかった。


「いろんな色のマジックセットと画用紙でいい?」


「いい。さんくす」


 受け取った露はすでに出口へ向かっている。行動が早すぎる。用件が手短すぎる。


「終わったらマジック返しにきまーす」粉雪もそう言い残して、美術室をあとにした。


 自分たちの部室に戻ったふたりはさっそく画用紙を挟んで座った。かくれんぼ部には椅子や机などの備品すらないので、地べたに正座が基本である。


「ってかさ」粉雪が今になって不満を口に出す。「画用紙一枚だけだね━━意外にケチくせー」


「……失敗は許されない」


「確かに……これ一枚でキメなきゃですな」


「こなに任せる……」


「いやいや、わたし絵とか無理だから━━部長どーぞ」


「………………」しばし沈黙したのち、露はちょっと震える手で黒のマジックを掴むと、太いほうでいきなり自由に描きはじめた。


 黙ったまま見守っていた粉雪だが、なんとなく絵が完成に近づくにつれて、笑いをこらえることが難しくなってきたようで、口元をおさえて「ぷっ、ぷぅぅぅ……ぐっふぅ……」と自分の中で笑いの衝動との激戦を繰り広げた。


「ポスターできた」


「ぶひょっひょ~! なぁーはっはっはっーっ!!!」盛大に笑い転げた粉雪が、部室の右側の壁と左側の壁に交互に衝突しながら、ごろごろとしばらくローラーみたいになっていた。


「しゃらぷ━━こな、笑いすぎ」


「だって! だってぇ~……部長のポスターそんなんなんだもーん! ひっひっはーっ!」


 粉雪が涙を流して笑い死にしそうになった露の絵━━ポスターは、壁から出ている四つん這いの下半身というかオシリに、さらに四つん這いの人の頭がめり込んでいるイミフで変なイラストだった。

 その上に小学校低学年的な平仮名で『かくれんぶぼ』と書き間違った部名があった。


「なっ、なっ、なんの意味かわかんねーっ!」あははははー、と、いまだに笑っている粉雪は心底それを楽しんでいる。

 それに比べ、画用紙を掲げた露の表情は能面のように固まっていた。


「こなが描けと言った」


「言った言った、完全に逝ったぁーっ!」のひょひょひょひょー!!!


「こな……そろそろ(ころ)━━すとっぷ」


「あひっ、あひっ、す、スミマーソン……ふぅふぅ、はぁ~……あー、おもしろすぎたー。ひさしぶりにお花のトンネル見えたかも。あーやべー、ほんと死ぬかと思ったにょ~」


「笑いすぎ」


「スミマ、部長のせいなんですけど……で……うふっ、それで完成でオッケーです?」まだちょっと笑いそうな感じの粉雪が確認する。


「おっけ。これを━━」


「それ一枚だけだと弱いから、コピーして増やしたらよくないですか?」


「おお、ナイスこな。アイデアガール」


「えへへー、まーね。あそこです部長、パソコン部に行ったら、コピーしてもらえる」


「ナイスこな。コピーガール」


「誰の? ってゆーか、それだとほんとにわけわかんないと思うから、部長ちょっと貸してー」

 そう言って露から画用紙を受け取った粉雪は、マジックの細いほうで左下のスミに申し訳程度のちいちゃい文字で「部員ぼしゅー中」と付け足しておいた。


「うに、カンペキ」画用紙を露に返す。


「パソコン部」


「行こー」


 今度は二階にあるパソコン部が使用しており、授業でもわりと頻繁に訪れる機会のあるコンピュータ室へと向かった。


 意外とあっさり承諾してくれたパソコン部の顧問・轟木(とどろき)先生がかなり協力的で、ばんばん印刷してくれたので結果として大量のポスターが手に入った。


「で、なんなのこれ?」大量のコピーを印刷したあとで、轟木先生が尋ねる。


「ポスター」露が一言で説明した。


「うちの部の、部員募集のポスターです」粉雪が改めて言う。


「へ? 募集なんて、どこにも……あ、あった……肝心なところが、ちっちゃいね……まあ、がんばってね……他の部に移る子も少ないとは思うけど……いるかもしれないからね」


 たぶん一人もいねーよと思っているだろう轟木先生は、それでもふたりを応援してくれた。そして、このあと発生する『校舎のあちこちに不気味なポスターが貼られている事件』で少しばかり怒られることになるのだが、彼はまだそのことをしらない━━。

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