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かくれんぶ!  作者: 鈴木智一
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その転校生はおかしい ~美少女カオス~

 クラスの生徒全員が揃った教室は、ざわざわしていた。今から転校生がやってくるのだということで、勝手な憶測が飛び交っている。


 芸能人がくるだとか、逆にアースクェイク(しょう)みたいなやつがくるんじゃないのか、とか。


【アースクェイク翔:寿々木粉雪のクラスメイト。中学一年生にして199センチ210キロという超巨漢の少年。あまりにデカイのでクラス中央列の最後尾に専用の席があり、席替え時も彼だけは特別扱いで移動することがない。成績は平均的で、良くも悪くもない。趣味は競馬とボートレース。本名は咲良囲(さくらい)翔】


 噂は絶えないが、その答えはすぐ間近に迫っている。演出にこだわる担任の村上先生は、わざといつもより靴音を鳴らす歩き方で、教室までやってきた。先生だけ先に入ってきて、転校生の姿はない。無駄に演出にこだわるので、めんどくさい。しかし、覗けば覗けるはずの廊下側の生徒も、けして廊下を覗いたりはしない。そんな無粋なことはしない。だって、めんどくさい先生がわざわざ演出してくれているのだから。


「さあ、みなさん、お待ちかねの転校生がやってきましたよ!」と、目を輝かせて言う。心なしか上気したような顔は赤く見えるし、なにやら鼻の穴も広がっている。なんだかしらないが、少し興奮状態にあるようだ。


「はよ出せー、引っ込めー!」出させたいのか戻させたいのかわからない野次が飛ぶ。


「お、おちついて、今呼びますから、おおお、おちついてっ!」慌てた先生が落ち着きなくおろおろしながら「そ、それではご登場願いましょう、みなさんお待ちかね、噂の転校生さんですぅ━━どうぞっ!」大仰なセリフと身振りで迎え入れる。


 ガラリ、と扉が開き(わざわざ見えないように閉めていた)跳ねるような足取りで教卓の前まで、わずか数歩で移動したプラチナブロンドの美少女(誰もが一瞬見ただけで超絶美少女だと認識できてしまうレベルの)が右手を腰に、左手を伸ばし人差し指で天を指しながら高らかに言葉を発した。


夢原(ゆめはら)エイミーでェーッス!」


 その瞬間に上がったおおお、とか、ごごごという類の地鳴りのような歓声はもちろん男子生徒のもので、それどころか女子生徒すらもきゃあっ! とか「嘘だろぉぉぉっ!」といった悲鳴や驚愕の言葉を洩らしていた。


 粉雪やもこ菜、寧たちクラスの中心的存在をどこか目の敵にする傾向のある石浜(いしはま)さと(うみ)が目を見開いて、口をパクパクしている。〈たとえ美少女が転生してきても、これくらいならば〉という事前の予想をはるかに上回った宇宙レベルの美少女を目の前にして、受け入れることができなくなっていたのだ。


「うっおおお……ちょっと見たことないレベルの美少女きたぞぅ」粉雪も立ち上がり、プルプル震えている。


「ここここなちゃん落ち着いて……大丈夫、人間だよ。ちょっと信じられないくらいカワイイってだけで、同じ人間だよぉ。たぶんっ!」言ってる本人も疑わしい言葉を、それでももこ菜は言うしかなかった。


 しかしもちろん、そんなことを言われても、とても同じ人間とは思えない粉雪。少なくとも、中一女子には見えなかった。同級生としては異質な高身長(173センチ)で、部活の仲間の桃姫ほどではないにしろ、それでも服の上からはっきりわかる巨乳は、なぜか形も張りもよさそうだなと思えてしまう。顔なんて美少女フィギュアそのもので、本場の北欧人ですらかなわないと思われるキラキラと透き通るような美しいプラチナブロンドの髪は、もはや人工的には作れない色合いをしている。おそらく染めているわけでもないだろうから、なおさら驚きなのだ。

 胸はデカイが腰はキュッと引き締まっており、ヒップも女性的で、同性の粉雪からしても魅力的なものだった。ミニスカートから伸びる足は黒タイツに覆われてはいるものの、スラリと長く形がいい。太腿も細すぎず太すぎず、理想的な形状に思われてならない。思わず自分の胸と足を見てしまった粉雪は、見たことをすぐに後悔したほどだ。

 自分とは、あまりにも違いすぎる。

 なんなんだ、あれは! と。


「せっ、せんせ~、ハァハァ、オレ、オレもうオレなんでトイレ行ってきま~すぅぅぅ」返事を待たず、花麿くんが股間を押さえて出ていってしまった。

 間近で見て、なにかが我慢の限界を迎えたのだろう。先生も含め、充分に理解できたクラス中の誰もがみな、そんな花麿くんを責めることはないのだった。どころか、男子生徒は誰も彼もが似たような状況だった。鼻の穴を広げたり、顔を赤らめたり、もはやその姿を見ることすら耐えられず、下を向く者すらあった。


「エイチシステムジャパンからきましターッ、マイホームがソコなのでェーッス! みなさん、よろしくねーっ!」片言っぽい喋り方だったので、てっきりハーフで英語のほうが得意な子なのかと誰もが思っていたところで、最後は綺麗な日本語の発音を披露した夢原エイミー。

 どうも、片言っぽい喋り方は、わざとやっているらしい。「わたしは普通の人間にも普通じゃない人間にも興味はありマース!」と、どこかで聞いたことがあるようなないような台詞も付随する。


「けっ、けっこんしてくだバービッ!」


 突然アースクェイク翔が普段は出さない大声を出したので、クラスが騒然となった。「あいつ、あんな大声出せたのかよ!」と、普段のぼそぼそ喋りをしっているみんなは、信じられない思いでいた。

 並のレベルではないスーパー美少女は、()てして日常を変えてしまうものなのだろう。なにをせずとも周りが勝手に影響を受けて、普段やらないような行動を、簡単にやってのける。その最たる見本がアースクェイク翔の告白だった。


「オー、センキュー! でもごめんなさいデェース、まだわたしたちには早いデス。お友達からはじめましょう」言って、ウィンクするエイミー。


 真正面からそれを受けたアースクェイク翔は「どっしぇ~っ!」とか言って、ガクガクと震え出した。あまりの振動に、彼の周囲もガタガタ揺れた。しまいには、教室全体が揺れたし、学校全体で揺れを感知していた。


「震源地が徒歩数歩の地震なんて、わたしはじめてだにょ!」粉雪が言った。粉雪だけじゃなく、みんなはじめてなのだが。


「では、夢原エイミーさんの席は寿々木さんの隣に用意してますので、あの空いている席に座って下さいね」村上先生が粉雪の隣に、すでに先週の放課後の段階で準備されていた空席を示す。

 おかげで隣の席だった宮脇(みやわき)咲増(さくぞう)くんの席が押しやられ、なぜか彼とアースクェイク翔の席だけピッタリくっついているという状況が生まれていた。


 宮脇くんと翔は元々仲は良かったので、彼らにとっては願ったりな状況でもあった。しかしながら、超絶美少女の席がすぐ隣にあるという事実に、宮脇くんは身を固くしている。明らかに緊張している様子だったし、先ほどの超局地的地震の影響を最も受けており、なんだかプルプルしている。


 そんな彼だけではない。クラス中の男子生徒全員が今まで味わったことのない、変な緊張感の中にあった。気を緩めれば淫らな妄想に支配され、我を失うのではないかという無意識下の防衛本能が警告を発していたのだ。意識して緊張状態を作り出すことでしか、夢原エイミーの魅力に抗う術がないとでもいうように。


「寿々木粉雪サーン、よろしくデェース!」


 スクールバッグを机の上に、ふわりと椅子に座った動きは軽やかで、その一挙一動が魅力を振り撒いて止まない。

 わずかに浮いたスカートの中を確認しようと、男の子たちの目は超望遠レンズのような能力を発揮しようと試みたが、そんな機能はないので失敗した。

 ハナから見える可能性のないわずかな布の動きではあったのだが、彼らにとって可能性が一ミリでもあるのなら、そこには無限の夢や希望が見えるのである。


「よ、よろしくでーす……にょおお……エイミーちゃん、なしてそんなにカワイイのよ?」間近で見るとさらに可愛さが引き立って、粉雪は目が眩みそうな心地でいた。

 どんなに目を凝らして見ても、つるっつるの肌は毛穴なんて存在していないようだった。


(いやマジで、毛穴なくない?)なんて思って凝視するが、やはり確認できない。


「ありがとっ。わたしのママ━━会ったことはないけど━━ホニャルコニャンコ・ルリレロラリエル・ユーウェンファウラァの生き写しだって、キセキは言っていたわ。あなたのママにも、そう言われた。だから嬉しいの、わたしが誉められるってことは、ママが誉められているのと同じだから」


 美少女フィギュアに微笑まれたように感じた粉雪には、どこかに現実感というものを置き忘れてきてしまったかのような、得も言われぬ感覚があった。

 目の前の美少女が本当に存在しているのか、そんな疑問すらよぎる。耳に心地よい声は美少女として理想的なもののように思う。人気絶頂のアイドル声優が声をあてているのではないかと思えるほど、見た目の印象に合っていた。いや、それ以上の癒し効果さえありそうな、いつまでも聞いていたくなるような声だ。


「ほにゃ……ラリルレロロにゃんレロレロファーザーとかなんとかってのは、人の名前? キセキは、キーちゃんだしょ、それはわかる……そしてうちのママは初雪でーす!」わけがわからなくなり、最後に母親の名前を答えた粉雪。


「ホニャルコニャンコは、ホニャ子の本名。ママは地球では夢原ホニャ子っていう名前で暮らしていたの。キセキやハツユキとも、お友達だったんだよ」


 自分の母親を名前で呼び捨てされたことに一瞬え? とはなった粉雪だが、あまり気にせず理解した。


「あ~、そういやママがそんな話しとったよ」


「わたしもキセキとハツユキに聞いたのですケドねー」前の席から様子を見ていたもこ菜に顔を向け「エイミーをよろしくデース」とウィンクして見せるエイミー。


「うわ~、なんたる美人」間近で凝視したもこ菜はそう洩らした。


 さらに、もこ菜の前の席の江草(えぐさ)偉瑠(いる)くんも、そのまた前の席の怒羅魂(ドラゴン)巣喰竜(スクリュー)くん(ドラゴンが名字でスクリューが名前。法改正で条件を満たせば好きな名字に変えることができるようになってから、彼のような変わった名前が爆発的に増加していた)もエイミーのほうを見ている。というか、クラス全員がエイミーを見ている。


「あの、みなさん……エイミーさんが気になるのはわかりますけど、前を向いてくださいな」


 しかし村上先生の言葉は届かず、届いてもあからさまに無視された。みんなエイミーの顔や身体を一分一秒でも長く見ていたいという、抑えがたい欲求の虜になっていたのだ。


「みなサーン、センセの言うことには従わなければいけませんよー。間違ったことを言っているわけではありませんから、お利口さんになりましょう。エイミーはお利口さんが好きデスよ?」


 瞬間。

 男子生徒は全員が身体をぶん投げるような勢いで教卓側に向き直った。実際に勢い余って身体をぶん投げた瀬賀田(せがた)音速(ソニック)くんは自分の机ごと顔面から床に転倒して鼻骨を骨折し保健室へ行きそのまま病院へ向かうこととなりその日はもう帰ってはこなかった。


「美少女カオス……」


 粉雪はその恐ろしい考えを言葉にせずにはいられなくなる。

 あまりにも美し過ぎる少女は、きっとこれからも思いもよらない影響を及ぼし続けることだろう━━そう思えてならなかった。

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