第91話 更に……!
少しの驚きが、抵抗となった。
だがそれは一瞬の話で、ジーシェイはすぐに力を抜いた。
ジーシェイの体液から、力が流れ込んでくる。
これは、この潜在能力が、ジークのそれであり、若い頃のジーク、古代竜を倒した頃の力が、漲って来るのだ。
「すまない、ジーシェイ。そして、ありがとう」
「う、うん……」
状況を把握しているのかいないのか、戸惑いつつも返事をするジーシェイ。
「では、奴を倒して来よう」
「あ、うん……」
メルディアは、高速で動けないオーヴォルを狙おうとして、だが、エミルンやマーキィの妨害でうまくいっていない。
だが、それらも複数の奇襲が、姉妹の合っている息で成功しているだけで、すぐに見極められて、反撃されることだろう。
それ以上、考える前に、ジークは動いた。
「…………っ!」
ジークの剣は、メルディアの腕を切断した。
すぐに生えてくることは分かっている。
だが、それで娘たちへ向いていた注意を、ジークに向けることが出来る。
そして、ニ撃、三撃──。
「ぐあぁぁぁっ!?」
速度は、更に向上。
回復する前に、攻撃。
おそらくメルディアは今となっては、あの時の古代竜よりも、強い存在になっていることだろう。
あの頃のジークですら、勝てたかどうか、わからない。
だが、今は、ジーシェイの潜在能力、つまりジークの力だけではない。
更に四人の姉妹の潜在能力がある。
五撃、六撃、七撃──。
回復を許さぬ速度で、ジークは切り結ぶ。
「待……て……!」
全ての、防御可能な身体の部位を、一時的にその機能を破壊した。
全てを破壊したその瞬間。
最初の機能が回復する直前。
心臓も、脳も、完全に無防備になったその瞬間。
「今度こそ、滅びよ、メルディア!」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
一閃。
頭部から心臓にかけて、その剣で切り落とす。
絶叫とともに崩れていくメルディア。
その血を一身に受けるジーク。
「……ふん」
もう、立ち上がらない事を確認して、顔の血を軽く拭く。
「また血を浴びさせれられたな」
■
「パパ! パパ!」
「……む……?」
ゆっくりと目を開く。
そこには、マーキィに顔があった。
「…………」
しばらく、その顔を見つめながら、状況を把握する。
ここは自分の部屋の寝室。
「ああ、もう、朝か」
ジークは身を起そうとする。
「……っ!」
腰が、肩が、悲鳴を上げる。
「どうしたの?」
「少し肩と腰がな」
「情けないなぁ」
「仕方ないだろう、昨日の今日だ」
ジークの痛みはその日に来るものではない。
翌日にやって来るのだ。
「昨日何かあったっけ?」
「ジーシェイと手合わせをしたのだ」
「ふーん?」
「お、おい!?」
もぞもぞとベッドに入ってくるマーキィ。
そのままジークの腕を抱きしめるように横になる。
「お前……いい歳をしてどうした? それに、なんだその口調は?」
「昔を思い出しまして、からかってみたのですわ」
悪戯っぽい微笑み。
あの頃と寸分変わっていない姿。
だが、表情で大人だと分かる。
マーキィ24歳。
ジークを父と認めてから十年が経過した。
マーキィはその潜在能力により、その歳にして、熟練の魔法使いとしての能力をものにしていた。
「それで、旅から帰ってきたジーはいかがでしたか?」
「今回の冒険に出る前から既に私を追い抜いていたが、いまや手加減されても敵わん。というか、強くなりすぎて手をかなり抜いてももはや私にはどうすることも出来ん」
「そうですか」
「だが、あいつも私にどれだけ強くなったのか見せたかったのだろう、少し強めに来た。その結果がこれだ。シェラナの治癒を受けて、傷は治ったが、肩と腰はそうもいかんかった」
「ご自愛くださいませ。さて、そろそろ朝食の時間ですわ」
「うむ……」
ここで文句を言っても意味はないだろう。
マーキィは確かに成長はしているが、性格の大本は何も変わってはいなかった。
ただ、貴族子女として「教育」されただけなのだ。
主に、彼女の師匠によって。
自分で聞いたことに対して、興味がなかったらそこで話を打ち切るような性格は変わっていないのだ。