第89話 接戦!
「────っ!」
エミルン由来の高速攻撃。
隙を突いたのもあるが、メルディアは避ける事しか出来なかった。
「やるわ……ねっ……!」
メルディアが何かを言おうとした瞬間の次の攻撃。
これは完全にメルディアの油断だ。
ジークの剣先が妖魔の肩をかすめる。
「ちぃっ!」
一旦後ろに飛んで態勢を立て直そうとするメルディア。
だが、メルディアは空を飛べないようだ。
ただの跳躍。
それは、高速戦では悪手だ。
何故なら、飛べないのであれば、着地点は大きくは変えられない。
飛んだ瞬間に、降りる位置は分かるのだ。
「ぐぁっ!」
ジークの一閃。
高速攻撃のただの一撃なのだが、その攻撃は、メルディアの左腕を切り落とす。
高速攻撃で、かつ、オーヴォルの怪力攻撃が加わったのだ。
「あぁぁぁぁぁぁっ!」
「終わりだ、メルディア」
片腕を落とされて激痛に顔を歪めているメルディア。
油断がなかったと言えば嘘になる。
動きが止まった相手なら、もう勝てる、と、そう思ってしまったのだ。
「この程度でっ!」
ジークが切り落とした左側から一閃しようとした瞬間。
叫びとともにメルディアの腕が瞬時に生えた。
「負けるかっ!」
一瞬の動揺。
それは、見逃されることはなかった。
「今度はこっちの番ね!」
メルディアの爪の一閃。
「ぐぁぁぁっ!」
言った通り、今度はジークの腕を切り落とされる。
「パパっ!」
「お父様!」
「来るな!」
ジークをメルディアからかばおうと、そして、ジークに治療を施そうと、娘たちが動こうとするのを止める。
右手に持つ剣を構え、斬られた左腕を庇うように、攻撃。
「ふふっ、もうこの程度しか──」
だが、その攻撃はブラフだ。
右に集中させているうちに後ろで左腕を再生させ、腰の短剣を握り──。
「くっ……!」
メルディアの腿に、それを突き刺す。
すぐに再生が可能だとしても、激痛は、切り落とされた腕よりも上だ。
更に、腿は死んではいない。
ジークと同じなら、再生は一瞬だが、治癒が必要なこれは、一瞬というわけにはいくまい。
つまり、治るまでの間、その激痛を抱えながら戦いを続けなければならないのだ。
「…………っ!」
逃げるのは悪手だと分かっているメルディアは、あえて攻撃を繰り出す。
だが、激痛に耐えてのそれは、線がぶれており、ジークは流すだけでよかった。
そして、攻撃で出来た更なる隙。
ジークはそれを見逃さなかった。
接近戦には短剣の方がよいと、次も短剣。
それでメルディアの腹部を突き刺す。
「…………ぁぁっ!」
腹筋を攻撃され、激痛で叫ぶことも出来ないメルディア。
だが、どうせいつかは治る。
倒すには即死させるしかない。
心臓か、頭か。
心臓は瞬殺ではない、狙うなら頭か。
チャンスは、今しかない。
「火焔爆発!」
マーキィ由来の魔法。
それを頭部にぶつける。
ぼん、と確かに爆発音が聞こえた。
確実に、弾けた衝撃が、あった。
だが──。
「っ!」
油断せず構えていたジークの前に、首のないメルディアの指先が伸びる。
「首がなくても死なないのか……? いや……!」
「ガァァァァァァッ!」
咄嗟に、首の骨を折って、背中側に落としたのだ。
まさに首の皮一枚つながった状態から。
治せると分かっていても、咄嗟に思いつかない避け方だろう。
だが、視界が悪いのか、攻撃に正確性がない。
治って態勢を立て直すまに──。
「アァァァァァァァァッ!」
「くっ!」
それが分かっているメルディアは、腕をぶんぶん振るって寄せ付けない。
「ウエイウアー!」
潰れた喉で何かを叫ぶメルディア。
次の瞬間、妖魔が炎に包まれる。
「くっ……!」
ジークは飛び退くしかなかった。
たとえそれが──。
「ふふふ、あなたはよく頑張ったわ。褒めてあげる」
メルディアの回復の時間稼ぎだと、分かっていても。
「そろそろ、終わろうかしら。いいわね、あなたも食べてあげる」
メルディアの瞳の色が、変わった。




