第83話 マーキィの成長
ジークがその日訪れたのは、サルジス伯爵家の別邸。
アルシェラの名前を口にして、中に招かれた。
「待たせたのですわ!」
元気よく現れた、可愛いご令嬢。
に、しか見えない、四百歳強の元当主。
十三歳くらいの上品な少女にしか見えないが、ジークの十倍近くは生きている。
こう見えてもう、隠居の身だ。
魔法の大家であるサルジス伯爵家。
そのもう一つの顔は死霊使いを研究している家系だ。
もちろんそれは絶対に秘密であり、万一外に漏れてしまうと、おそらく貴族を剥奪され、家族全員が処刑されることだろう。
死者を使役する魔法は、少なくともこの王国では厳禁となっている。
ジークはこのことを少し前に墓地で襲われたことから知っているが、当代サルジス伯爵に懇願され、秘密にしている。
それと引き換えに、マーキィに魔法を教えてもらっている。
彼らにとって死霊使い以外の魔法の術は、全てただのカモフラージュでしかないため、気軽に教えてくれた。
そして、その師匠が、このアルシェラだ。
「お久しぶりですわ! その後いかがでしたが?」
「家族全員、息災だ」
見た目もそうだし話し方も完全に子供のそれなので、どうしてもジークは年下と対峙しているように扱ってしまう。
だが、アルシェラ本人は、気にしていないどころか、いつも遊んでくれる大人が訪れたように嬉しそうにしている。
隠居してやることもなく、退屈なのだろう。
もちろんジークは遊びに来たわけではなく、マーキィの様子を聞きに来たのだが。
「今日はレイシェルが首都に行っているのでわたくしがお相手しますわ! お茶のお代わりはありますわ! スコーンも沢山ありますわ!」
「いや、今日はマーキィについて話を聞きに来たのだ」
「マーキィ? 私のお友達がどうかしたのですか?」
「うむ、そう言ってもらえるのは嬉しいが、その前に今日は師匠として対してくれ」
「あの子のことで何の用ですの?」
一瞬で態度が変わる。
まあ、その方がやりやすいが。
「最近魔法の習得は進んでいるのかと、伺いに来たのだ」
「そんな事は、あの子にお聞きになればよいのではないですか? それよりも! 死霊の画期的な操作の仕方を考えたのです、ご覧になりませんか?」
「遠慮しておこう」
そもそも、その死体はどこから手に入れたのだろうか?
レイシェルは買えると言っていたが、そもそも死体を買うというマーケットはまともなのだろうか?
まあ、死霊使いの使っているマーケットにそんなものを求めるのがどうかしているが。
「では何しに来たのですか!」
急に不機嫌になるアルシェラ。
そんなに見て欲しかったのだろうか?
まあ、ジークは彼女が死霊使いだと知っている数少ない一人だ。
同じ死霊使いの家族以外でその技を自慢できる人間が来たのだから、自慢したかったのだろう。
「マーキィの様子を聞きに来たのだ。本人にも聞いているが教えている側の意見も聞きたい」
「……普通ですわ」
まだ多少不機嫌な様子で、アルシェラが答える。
普通、と言うのはこれまでの他の子達とは異なる所感だ。
「ま、レイシェルの時よりは覚えは良いですわね。あのままなら二十年くらいで大魔導士なれますわ」
「二十年……」
長いようで、魔法と言うものを考えると、かなり早い。
いや、そもそも、普通の者は大魔導士には何年かかってもなれないだろう。
それが二十年後には到達する、と言うことだ。
冷静に考えれば、彼女の孫である、レイシェルはアルシェラから実力で当代の座を奪った天才だ。
その天才よりも早い、と言うことではないだろうか。
「分かった、ありがとう」
「もう、そっちの用事、終わり? じゃ、次はこっちの用事ですわね! 色々見てもらいますわ!」
「勘弁して欲しい」
「駄目ですわ! わたくしも付き合ったのですから、わたくしの用にも付き合う必要がありますわ!」
そう言われると弱い。
ジークは重くはないものだけを見せてもらい、時間を過ごした。