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第81話 未来のシェラナ

「そろそろシェラナの様子を見て来るかな」


 紅茶を飲み、一通り歓談した後、ジークは立ち上がる。


「え? もう、ですか?」

「折角のエイシャ殿の休日を長く潰しては申し訳ないからな」


「それは全く構いませんが……そうですか。何もお構いできず申し訳ありませんでした」

「いえ、こちらこそ申し訳ない。では失礼しよう」

「またいつでもお越しください」


 ジークはエイシャの部屋を出て、元の部屋に向かう。

 そう言えば、シェラナはどうなのだろう?

 まさか、あのユーリィがもう手を余して、修行に出しているということはないだろうか?


 何しろ潜在能力(ポテンシャル)の持ち主ではあるし、事実、エミルンは一年後には持て余すと言われたところだ。

 マーキィはどうだ? オーヴォルは?

 ジーシェイだけは自分でそれを把握できるが、それ以外は任せっぱなしだ。


 一度、聞いて回った方がいいのかも知れない。

 そんなことを考えながら、ジークはエレナの部屋のドアの前に着いた。


「ジークだ。今はいいか?」


 ノックと共に、中に声をかけるジーク。

 すると、すぐに中から誰かが駆けて来る足音が響く。


「お父さま! 助けてください!」


 現れたのは汗だくのシェラナ。

 焦燥の表情が、起きている事象が緊迫している事実を知らせている。


「何かあったのか?」

「その……申し訳ありませんっ!」

「……っ!」


 何の前触れもなく、シェラナはジークの口に、その口を付ける。

 寄せてくる身体の柔らかさと、芳香に、自分の娘であることを瞬間、忘れそうになる。

 だが、湧き上がってくる血がそれを掻き消す。


「お父さま、エレナさんの毒が抜けません! いえ、消してはいるのですが、どんどん増えていきます! 私、どうしていいか分からなくて……」


 いつも穏やかなシェラナが狼狽している。

 こんなことになるなど、考えてもいなかったのだろう。


「分かった、見てみよう」


 もちろん、医者でもないし、治癒魔法など使えない。

 だが、今のジークは、天才魔法医師と同等なのだ。

 目の前のシェラナの完成形の力があるのだ。


「失礼する」


 毒を帯びたエレナ。

 汗だくの少女に近寄るのは失礼ではあると思うが、これは仕方のない事だ。


「ふむ……」


 ジークはエレナの手を取り、自分の手をその上に載せる。

 それだけで、身体の状態を理解出来た。


 これは、毒という表現とは少し違う。

 先程までのジークなら、これを「呪い」と表現しただろう。

 だが、今のジークはこれを「細菌」と言う。


「これは、細菌を宿している。毒の解消だけではただ、一時的な処置に過ぎない。細菌を殺す必要がある」

「細菌……ユーリィさまに聞いたことはあります、けど……私はまだ詳しく教わっておりませんし、対応出来ません」


「細菌は、まあ、目にも見えない程小さな虫のようなものだ。それが体内で身体から栄養を吸収して毒を吐いているのだ」

「なるほど……」


 シェラナは納得したように頷く。

 だが、それはシェラナだからであって、近くに立っている他の従者は意味を理解していないような表情をしている。


「基本的に熱を与えれば死滅するが、身体が高温になると負担も多い。初期ならともかく、ここまで弱っていると命に関わる可能性もある。だから、魔法で滅菌するしかないだろう」

「そう、ですか……」


 自分には出来ない、そう思って落ち込んでいるシェラナ。


「シェラナにも出来るぞ。やってみるか?」

「は、はい。あの、どうやって……?」

「大半の細菌が弱いのは、熱と乾燥と──」


 ジークは細かく説明する。


「と言う事は、こうですね……?」

「そうだ、少しずつ細菌が減っている。だが、彼女の体力が持たない、すまないな、シェラナ、後は私がやろう」

「は、はい……」


「さて──」


 ジークはエレナの手に触れ、本気の魔法を使う。

 辺りが少しだけ、ぼう、と光る。

 だが、それは、一瞬の事だった。


「ふう……終わった」

「あれだけで、ですか……?」


 一瞬で治療が終わったことに、シェラナが驚いている。

 自分がやれば、おそらくかなり時間がかかったことを理解しているからだ。


「ああ、もう大丈夫だ。後はしばらく寝かせて体力を整えれば回復する」

「ありがとうございます!」


 従者が謝意を述べる。


「いや、気にしなくてもいい」


 これは彼の能力でもないし、それで感謝されるのは違うだろう。

 後で、少し落ち込んでいるシェラナを慰める必要があるな。

 ジークはそう思った。


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