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第78話 ベック家の従者たち

「こちらです」


 通された部屋は、おそらく従者の部屋であろう。

 ベックが必要もないのに男を雇うとも思えないので、女性の部屋だと理解し、ジークは外で待つことにしようと、一度立ち止まる。


「……む、エレナ殿?」


 奥にちらり、と見えた、乱れた髪の蒼い顔の少女は、ジークも知っている少女、弓兵のエレナだった。


「あ……れ? ジーク、さん……?」


 弱々しい声が聴こえた。


「うむ。治療は私の娘がやる。少しだけ耐えてくれ」

「あれ……? え? ジークさんって、けっこ──」


 ジークがドアを閉める直前、エレナの声が少し漏れた。

 ああ、そう言えば、彼女の思う「ジーク」は若い青年であった。


 それならなぜ、この姿の彼を「ジーク」と呼んだのか?

 おそらく、面影しか見えないほど、重症なのだろう。


「それでは、治療させていただきますが、何がありましたか?」


 ドアのうちから、シェラナの声が聴こえてくる。


「ちょっと他の子と遊んでて山の中を走ってたら、蛇に咬まれて……多分それなんじゃないかと思うんですけど」

「分かりました。どこを咬まれましたか?」


「足の、ここです……」

「……はい、分かりました。毒が全身に回ってますね? 先に解毒してから、傷口を治します」

「はい、お願いします……」


 しばらく、シェラナの小さなつぶやきと、エレナの少し荒い息だけが聴こえてきた。

 これはしばらくかかるか、と、ジークは落ち着ける場所を探そうとした。


 エレナの部屋がある以上、おそらくここら一体が従者もしくは愛人の部屋なのだろう。

 あまりうろついていていい場所ではないだろう。


 いっその事、ベックに会って来るか?

 いや、それはシェラナと合流してからでいいだろう。

 どうせシェラナが自邸に来て、会わずに帰すことはないだろう。


 さて、それならば、どこに行けばいいだろうか?

 他人の家の廊下に立ち尽くしながら、少しだけついてきたことを後悔し始めていた。


「ジーク殿、ではないですか? どうしましたか、こんなところで?」

「……?」


 声をかけられ、振り返ると、金髪ロングのスレンダー美少女が立っていた。


「エイシャ殿、久方ぶりだな」


 そこに立っていたのは、ベックの近衛であるエイシャだった。

 休日であるのか、近衛の鎧ではなく、普通の少女が着るような服装をしていた。


「このようなところで何を? まさか、この中の者に恋慕する者が……?」

「いや、ベック殿の配下は私には若過ぎるので、そのような者はいないな」

「そう、ですか……」


 多少がっかりしたようなエイシャ。

 普段はしっかりしているように見えるが一般的な少女と同じく、恋愛沙汰が好きなのだろうか?


「実は、娘のシェラナが魔法医として依頼を受けたので、私はその付き添いで来たのだが、今治療中でな。私は外で待っているところだ」

「なるほど、あのお嬢様がもうそこまで出来るようになられたのですね。この前まで、何も出来ない、本当の意味でのお嬢様でしたのに」

「ふむ、そうだな」


 ベックの近くで、おそらくジークよりも前からシェラナを見ているはずのエイシャ。

 潜在能力(ポテンシャル)など、誰も見出す前の、ベックの前で困った表情で微笑んでいるだけの彼女はどう映っていたのだろうか。


「お時間があるのでしたら、私の部屋に来られますか? お茶くらいならお出しできますが」

「それはありがたいが、よいのか?」


「はい、エミルンの事も話したいですし」

「そうか、それはありがたい」


 彼女はエミルンの師でもあり、エミルンは言葉少ないため、今どのくらい出来るようになったのか、あまり口にしないのだ。

 まあ、それを言い出すと、シェラナも聞いても控えめにしか言わないのだが。


「では、お願いしよう」

「はい、ではこちらへ」


 ジークはエイシャに連れられ、彼女の部屋を訪れた。


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