第76話 待望の剣
「お待ちいたしておりました。出来上がっております」
慇懃に頭を下げる店主。
「うむ。出来を確かめるまでもないが、見せてもらおう」
「はい。少々お待ちくださいませ」
そう言うと一礼して、奥へと下がる。
「まだ? ねえ、まだ?」
店主が下がると、ジークの後ろにいたジーシェイがジークの裾を掴んで引っ張る。
「今、持って来てもらっている。少しは落ち着け」
ジークは待ち遠しくて居ても立ってもいられないジーシェイの頭を撫でてやった。
昨日のうちに武器屋の開店時間を調べ、逆算しても明らかに早い時間にジークを起こし、食事もそこそこに、まだ開いていないと言っても、もしかして早く開くかもしれないから行こう、前で開くまで待っていよう、とずっと言い続けていたのだ。
道中も、ずっと走ろうとして、それを手をつないで止めながらここまで来たのだ。
十二歳の彼女は、もう割と力も強いため、ジークの方も疲れた。
あれだけ朝からずっと元気だった彼女の方は、全く疲れ知らずにも見える。
それほど、この日が楽しみで楽しみで仕方がなかったのだろう。
十二歳にしては大人びていた彼女が、普通の子供のようにふるまうほどに。
「まだ? まだかな?」
「急かしても、早くはならんぞ? 少し落ち着け」
ジークは今朝起きてから、おそらく人生で一番「落ち着け」という言葉を使っただろう。
とはいえ、ジーシェイの様子は本当に微笑ましいと思う。
普段はマーキィの方が妹のようだが、今日だけは彼女が妹だった。
オーヴォルにさえ「落ち着くのだ、マーキィの姉」と言われているマーキィにさえ「少しは落ち着こうよ」と苦笑される始末だ。
その彼女が、じっとしていられない様子で、店の奥を見てはそわそわしていた。
そして、奥から店主が戻って来る際、ジーシェイはジークを強く抱きしめた。
「お待たせいたしました。こちらがオーダーの剣となります」
「うむ。確かに受け取った。色々手間をかけたな」
「いえ、こちらこそ、ご迷惑をおかけいたしまして、申し訳ありませんでした」
こういう、大人のやり取りをしている時にも、ジーシェイはジークを背後から引っ張ったり、叩いたりして、早く寄越せと急かす。
「ジーシェイ、これがお前の剣だ」
ジークは、剣に巻かれている布を解くと、ジーシェイに手渡す。
「…………!」
受けとったジーシェイは、意外に重かったのか多少ふらつくが立ち直る。
「……抜いてもいい?」
「周りに気をつけてな?」
「うん!」
ジーシェイは多少留め紐に手間取ったが、それを抜いた。
熟練の鍛冶屋の業が見える、鈍い光。
柄には「ジーシェイ」と彫られていた。
完全に、間違いなく、彼女の、彼女のために造られた剣だ。
「ちょっと重い……」
「元巨大武器の使い手とは思えんな。ま、未来のお前のために造られた剣だ。その剣に似合う強さになればいい」
「うん……」
静かに、だが、嬉しくて仕方がないように、剣を見つめるジーシェイ。
自分の、自分のための剣。
そんなことはないと理解しているが、これさえあれば強くなれる気がした。
「……! ……!」
せがむようにジークを見上げる。
早く帰って剣を振りたいのだろう。
「うむ。また後日礼に来る。今日は早く剣を使いたいのでな」
「かしこまりました。では、その際にお使い心地をお聞きいたします」
慇懃に頭を下げる店主。
それに答えながら、ジーシェイの頭を撫でるジーク。
「本当なら手入れが先だが、帰ったら一度振ってみるか?」
「うんっ!」
即答するジーシェイの頭を、もう一度撫でるジークだった。