第73話 鍛冶屋へ
「失礼する」
週明けに、ジークとジーシェイは再び武器屋を訪れる。
発注した武器を受け取りに行くためだ。
「お待ちしておりました、ジーク様、お嬢様」
店主はこの前と同様に、慇懃に頭を下げる。
「この前注文した剣を受け取りに来た」
「存じております。ですが、大変申し訳ございません、剣はまだ出来ておりません。もう少しお待ちください」
申し訳なさそうに、もう一度頭を下げる。
「それは……構わないが、何かあったのか?」
ジークは先程から、いや、ここ数日ずっと楽しみにしていたジーシェイの落胆を思いやって、ちらり、と見てから言う。
「鍛冶屋の手配が、どうにもなりませんでした。あのクラスの受注は出来る鍛冶屋が限られておりまして、頼んだ鍛冶屋に断られました。交渉を続けながら、別の鍛冶屋も探しておりますので、今しばらくお待ちください」
店主が深く頭を下げる。
「断られた? 何故だ?」
「その……昔気質の職人でして……」
「ふむ……」
昔気質の職人。
腕は知らないが、そのような者は信頼できるかもしれない。
そして、そのような者が断るというのもよくある事だ。
そして、断る理由というのも、何となく分かる。
「それはどこの鍛冶屋だ?」
「それは、隣の町の──何故、お聞きになるのですか?」
「もちろん、直接造ってもらえるよう話に行く」
「申し訳ございません! それは、ジーク様に大変不愉快な思いをさせてしまいますのでおやめください!」
「その言葉で、何と言われたか、大体分かった。貴族の女の遊びの剣術のための道具など造らん、と言われたのではないか?」
「それは……」
「ならば、そうではないことを話しに行くだけだ。本人を連れて行けば分かるだろう」
「……ですが」
あれほど慇懃を崩さなかった店主が困ったように俯く。
「店主よ、私は最良の剣を造って欲しいだけなのだ」
「……畏まりました。鍛冶屋の場所をお伝えいたします」
店主は折れ、再び頭を下げる。
■
「ふう、着いたか」
ジークは、ジーシェイと共に、馬を使い、隣の町に到着した。
あの街に来てから、討伐などで街を出ることは多かったが、他の町に行くのは初めてだ。
この街は通り道として通ったことがある程度で、ほぼ記憶にはない。
だが、街の構造というのは大抵どこも同じだ。
「今回は拠点を探す必要もないし、直接行くか」
「うん……」
「どうした? 疲れているのか?」
「そうじゃ、ないけど……」
ジーシェイの態度がおかしいので訊いてみるが、言葉を濁すだけだ。
「緊張しているのか?」
「っ! そう……かも……」
ジーシェイの緊張の責任は、ジークにもある。
前に武器屋に行った際、ジークと店主の話を聞かせてしまった。
つまり、武器屋の頑固な主人が、自分の武器を造るのを拒否している、女子供のお飾りの剣など造らんと言っていることを知ってしまった。
だからこそ、彼女を連れて行き、お遊びの貴金属を造るわけではないことを伝えに行くのだが。
自分が試されるのを理解したジーシェイは、緊張しないわけがない。
何しろ、十二歳の少女だ。
「ジーシェイ、そんなに心配する必要はない。交渉は私がする。お前は、そこにいて、何か聞かれたら答えるだけでいい」
「う、うん……」
ジークはそう言って元気づけたが、それで元気になるわけもない。
仕方がない、これが効くかどうかは分からない。
「気にするな。私に任せろ」
「……っ!」
ジークは彼女の手を握り、言う。
汗ばんでいる小さな手。
それが、力強く握り返して来た。
「うんっ!」
ジーシェイの表情から、やっと緊張が消えた。