第70話 姉妹の関係
「……別に恥ずかしいなら隠せばいい。十二の娘ならそれが普通だ」
あまりにも居たたまれなくなり、ジークが言う。
「そんな必要ないよ! 家族しかいないし!」
「マーキィ、気持ちは分かるが、世の中にはいきなり家族になれる者ばかりではないのだ。徐々に慣らしていけばいい」
「そっかー」
マーキィは、少し残念そうに、引き下がる。
「だ、大丈夫、だから……!」
だが、本人であるジーシェイが意を決したように、隠さずに歩いてくる。
「無理はしなくてもいいのだぞ?」
「大丈夫!」
そう言いながら、勢いでジークの隣に座するジーシェイ。
「ふむ。私は最初から無理をしていなかった。だとすれば、私の方が上なのではないか」
そう言いながら、反対側のジークの隣に陣取るオーヴォル。
「あ、ずるい!」
いつもなら、逆が自分の場所だったので、居場所がなくなるマーキィ。
「オー!」
「断る」
「どいて!」
「他を当たるのだ」
「他……」
ちらり、とジーシェイを見る。
「どーいーてー!」
だがそれは一瞬だけで、やはり、オーヴォルの手を引っ張る。
「私はどかぬ。ここは私の場所だ」
「うにゃぁぁぁぁぁっ!」
軽いオーヴォルは、半ば持ち上がってしまう。
「マーキィ、それにオーヴォル、ジーシェイ。少し話を聞いてくれんか?」
「うん!」
「うむ」
「う、うん……」
「私はお前たち五人を、全員等しく自分の娘だと思うつもりだ。もちろん、その時々によって誰に肩入れをするという事もあるが、基本的に等しく愛するつもりだ」
「そうなの?」
「もちろん分かっている」
「……うん」
「だから、お前たち同士もそうあって欲しいと思っている。これは別に強制ではないのだが」
「? ちょっと分からない」
「うむ」
「…………?」
子供達には、遠回しな言い方は難しかったのだろう、首をひねる。
オーヴォルも、おそらくは意味を理解せず答えているのだろう。
「これは難しいかも知れんが、お前らはみんな、姉妹なのだ。姉妹として仲良くして欲しい……いや、こういう言い方は難しいか。お互いに遠慮するな、という事だ」
そうは言っても、難しいことは理解している。
ついこの前まで会ったこともない他人なのだ。
しかも、片やジークの実の娘、片や貴族の娘。
互いに気を遣うのも、仕方がないことなのかも知れない。
だが、それを承知の上で、その壁を乗り越えて欲しいのだ。
それを、十代前半の少女たちに望むのは難しいのだろうか?
いや、十代前半の、まだ子供と言っていい年齢だからこそ、行ける可能性があるのではないだろうか?
「つまり、パパの言うことってさ──」
最初に口を開いたのは、マーキィ。
最年長者でありながら、最も子供っぽい少女だ。
「こういうことだよね?」
そう言うと、彼女は、反対のジーシェイの方へと移動する。
「ジーシェ、どいて!」
「……え? え!?」
「そこは私の場所だからどいて!」
「あ、はい……」
「違うでしょ!」
「……?」
言う通りにしようと立ち上がりかけたジーシェイに、マーキィが怒る。
「パパの隣にいたいなら、ジーシェも嫌って言えばいいの! 姉妹って自分を主張してもいい相手なんだよ!」
いや、そういうわけではない、お互いを尊重することも必要だ、などと、ジークは思ったがそれを口にする必要もないだろう。
マーキィはいち早く、ジークの言っている意味に気付いたのだ。
多少間違っていようがよしとしよう。
「じゃ、じゃあ、どきませんっ! 今日はここにいたいですっ!」
「なにを~?」
その意思を汲み取るジーシェイ。
マーキィは嬉しそうにその手を引っ張る。
ジーシェイはそれに抵抗する。
「おいおい、暴れるなよ?」
ジークはそう言いながら、幸せそうに笑った。