第67話 娘の適性
驚きで、身を堅くするジーシェイ。
だが、あらかじめこの行為に意味があることを伝えてあるので、特に抵抗はなかった。
とは言え、目的などは分かっていないだろう。
実の父のいきなりの行為に、おそらくは戸惑っていることだろう。
ジークは出来る限り優しく、彼女の母にしたように、優しく、落ち着かせるように背を撫でた。
「…………」
心が収まった、とは言い難いだろうが、先ほどよりは落ち着いたのかも知れない。
「グギャァァァァッ!」
再びの咆哮。
さて、彼女に潜在能力はあるか、ないにしても何かしらの能力はあるか、と思い、口づけをしたのだが、どうだっただろう。
ジークは、巨大武器を握り直し、レッサードラゴンへと走る。
感覚が、鋭い。
手足も、軽い。
巨大武器を使う潜在能力があればよいのだが……。
「ふんっ!」
「グギャァァァァッ!」
斬り合い、多少のダメージを与える。
だが、なんだ、この違和感は?
「……っ! ……っ! ……っ!」
「グギャッ! グギャッ! グギャァァァァッ!」
何度か切り結んでいくうちに、違和感は徐々に増していく。
そして気づく。
冴え渡っている頭脳が、その結論にたどり着く。
どうやら、最適な武器は、これではない。
この武器でも使える。
実際、戦えている。
だが、この程度は昔の自分でも使えた。
そして、理解し、それの位置を確認する。
「グギャッ! グギャァァァァッ!」
細かい攻撃の後の、大きめの攻撃。
それとともに、ドラゴンの後ろにまわる。
巨大武器を落とし、それを拾う。
「やはり、これでなくてはな」
それは、先ほど投げた、彼の手に親しんだ武器。
挨拶代わりに、ぶん、と振ってみる。
問題ない、これでなければならない。
そう、ジーシェイには潜在能力があった。
そして、それは、巨大武器ではなかった。
彼女が母から受け継いだのは、その美しい姿。
そして、人見知りしながらも、言うことは言う強さ。
彼女が父から受け継いだのは、その戦闘力。
「グギャ──」
一閃。
その咆哮を、最後まで言わせることは、なかった。
まさに鎧袖一触で、レッサードラゴンを倒した。
無理もない、今のジークは彼らレッサードラゴンが束になっても敵わない、古代竜ですら、倒せてしまうほどなのだ。
生命力のある爬虫類でも、心臓のある胴体の中心を切断すれば、即死に近いだろう。
彼は、他に気配がないかを探り、そして、念のため、レッサードラゴンが起きあがらないかを注意していた。
「あ、あの……」
「……どうやら、終わったようだな」
自分と、ジーシェイの呼吸しか聴こえないことを確認し、ジークは剣を下ろした。
「待たせたな。これで終わりだ。報告に行くか」
「あ、うん……」
何も分かっていない、ジーシェイが戸惑っているのが分かる。
さて、何から話すか。
まずは、実の娘の、将来恋する男と初めてすべき事を奪ってしまった事の説明からか。
「前に言ったとは思うが、私は他人の体液を口にすると、その者の潜在能力を一時的に我が物に出来てしまうのだ」
「え……えっと……?」
ジークもこれだけで理解されるとは思ってはいなかった。
おそらくそんな能力があることは前にも伝えているはずだが、実際の事象として理解していなかったのだろう。
それを理解しろ、とは十二の娘には酷な話だ。
「先ほどのキス、あれで、お前の潜在能力を吸収したのだ。それで、あれから強くなっただろう?」
「う、うん……」
「あれは、お前の中にある潜在能力だ。お前の武器を投げて悪かったな。お前にはあれよりも普通の剣が合っている」
ジークは自分の剣を軽く揺らす。
「ジーシェイ、お前は将来、私の若い頃よりも強い戦士になれる潜在能力がある。これからは、私が師匠としてお前を鍛えよう」
ジークは嬉しかった。
この、彼が愛したシェイヴィに似た顔をした娘の適性が、自分と同じ剣だったことに。
「あ……うんっ!」
そして、それはジークだけではなかった。
ジーシェイの弾んだ声が、深い森に響いた。