第65話 対峙する敵
そこは、街道を離れて、獣道をかなり進んだところ。
辺り一帯がへこんでいる地帯。
途中崖のような切り立った部分があり、周囲を見回してみると、それが続いているため、おそらく円状の窪地なのだろう。
「気をつけろ、爬虫類の匂いがする」
「……うん」
ジーシェイが緊張しているのが分かる。
理由は、おそらく自分がこの場では役に立たないことを理解しているからだろう。
彼女の戦いは巨大武器を繰り出すこと。
それはこのような木々の生い茂った場所では使いにくい。
母のシェイヴィなら、もっと木の生い茂った場所でも、狭い洞窟の中でも、平気で振り回せていたが、見るところ彼女にはそこまでの実力はない。
気配が、いや、殺気が強烈になる。
ジークは、手でジーシェイを止め、気配を探る。
前方からの殺気。
おそらくこちらには既に気付いている。
剣を抜き、構えながら前進する。
大爬虫の速度から考えると、この距離も余裕があるわけではない。
おそらく一匹。
ならば、速攻で倒すのがセオリー。
の、はずなのだが。
「!?」
気配が、消えた?
先ほどまで、強烈な殺気を放っていた、大爬虫の気配が、殺気もろとも消えてしまった。
何が起きたのか。
大爬虫はそこまで頭もよくはない。
であるから、気配を消した、とも思えない。
とにかく、今は気配を探るしかない。
「…………」
神経を極限まで尖らせる。
隣のジーシェイの気配すらうるさいと思う程だ。
すると、遠くに草の揺れが微かに聞こえる。
風では、ない。
ジークはこちらも気配を消して、移動する。
ジーシェイもそっとついては来るが、気配の消し方を知らないらしく、気配を漂わせたまま、ついてくる。
……何がいる?
大爬虫が気配の探り合いなどしない。
であるとするならば、何か。
大爬虫と見間違えるような見た目の、少なくとも気配の探り合いが出来る敵。
そんなものはかなり上位の敵ではないだろうか?
「……無駄だな」
「え?」
「気配を消し合っても無駄だ」
はっきりとは言わないが、ジーシェイが気配を出してついてくるのなら、いくらジークが気配を消しても無駄だ。
ジークは逆、気配と殺気を放つ。
「…………!」
そうすることで、相手が警戒をし、その瞬間に気配が大きくなるからだ。
「そこだっ!」
走る。
剣を振り上げる。
そして、気配のした場所に、切りつける。
敵に避けられる。
が、これで位置は把握した。
こちらが攻め続ける限り、再び気配を消して隠れることは出来ない。
連続して攻撃を避けられる。
まずいな、神経を張り詰めた後に高速戦闘は、息の切れが早い。
どのくらい続けられるか?
長く続けられない以上、全て一撃で倒す気で切りかからなければならない。
だが、そうすれば体力の負担も大きい。
そして、今日は四姉妹もいない。
「く……っ!」
だが、それでも切り続けるしかないのだ。
休めばまた隠れられる。
場合によっては隙を見て攻撃される。
「やぁっ!」
最後の力を振り絞るように、脚の筋肉を最大限に使い、追いついて剣をふるう。
ガンッ
「!?」
硬い、まるで岩に当たったような感触、そして音。
既に分かっていた事だが、これは大爬虫ではない。
一体何だ?
大爬虫よりも硬い皮膚。
この速度であれば、甲殻亜類でもないだろう。
「っ!」
それが逃げた先の草木の丈が、そこだけ低くなっていた。
ジークの目に入って来たそれ。
「グギャァァァァァッ!」
咆哮するそれは、レッサー種ではあるが。
硬い皮膚に強力な腕力、そして、高い知能を持つ、最強の生物の一つ。
ドラゴンの、小型種だった。