第64話 父娘の冒険のはじまり
「準備はいいか?」
「うん、大丈夫」
翌朝、準備を整えたジークとジーシェイは、早朝に家を出た。
ジーシェイはこの数日は、エミルンの昔の服を借りていたが、今日は最初に会った時の軽鎧を兼ねた服だ。
そして、その背には、巨大武器の一つ、巨大斧が背負われている。
おそらく、もっとも自信のある武器なのだろう。
「持ってやろうか。そのような武器を扱うのは魔法だろう。移動で無意味に使う必要もあるまい」
「え? 魔力なんて使ってないよ?」
「それならおそらく無意識だ。無意識に魔力を使っているはずだ」
オーヴォルは、自分が魔力で怪力だと知らなかった事もあり、ジークはそう決定づけた。
「でも、お母さんはそんなこと言ってなかったし」
「そうか……そうだったな」
彼女は独学で学んだわけではない。
ここの到達するまで、母のシェイヴィから学んでいる。
オーヴォルのように知らないという事は、シェイヴィが意図的に隠していない限りあり得ないし、隠す理由が思い当たらない。
「では、お前は腕力で武器を振り回しているのか?」
「うーん……ちょっと違うかな? バランスとか重心とか遠心力とか、言い出すとキリがないけど、そういうもので動かしてる。もちろん力がある方が扱いやすいんだけどさ」
「そうだろうな?」
「でも、筋肉隆々の人が巨大武器を扱ってても、相手が油断しないんだって。素早く動きにくいし」
「なるほど」
詳細は何一つ語ってはいないが、ジークはだいたい理解した。
巨大なものは重いように見えて、実際はバランスよく持ち上げればそこまで重くない事も多い。
更に振り回せば遠心力もうまく使えて、自分の力以上の打撃を与えられる。
それを究極に極めたのが、巨大武器使いなのだろう。
「一応今、お前の師を探してもらっている。私が教えられればいいのだが、さすがにこれまで巨大武器を扱ったことがないのだ」
「そっか……しょうがないよね」
諦めたような微笑み。
それが、シェイヴィとの別れの時の最後の笑みに重なり、胸にずきりと突き刺さる。
何とかしてやりたい。
せめて、良い師を与えてやりたい。
あの四姉妹ほどの潜在能力があれば、いいのだが、それも分からない。
出来れば同じように能力があれば──。
「……ふう」
ジークは落ち着くように深呼吸をする。
違う、そうじゃない。
自分はあの四姉妹とジーシェイの五人の父だ。
その愛に分け隔てはないようにしたいと考えている。
ならば、彼女だけを優遇するのはおかしいのではないか?
勿論、同様に対しているつもりだが、彼女や、彼女の母に対する罪悪感から、知らぬうちに優遇してしまっているのではないか?
それには、心当たりがある。
四姉妹も何となく、気を使っているのが分かる。
あのマーキィが、ジーシェイには遠慮しているのだ。
それはおそらく、ジークの態度が影響していると思われる。
だから、自分は考えを改めなければなるまい。
私は五姉妹の父だ。
私は全員を分け隔てなく愛している。
「ジーシェイ」
だったら、自分に出来ることは、一つ。
「何?」
「お前に、最高の師を探してやるからな?」
他の姉妹と同じように、最高の師を与えることだ。
「……? うん」
ジーシェイが、不思議そうに振り返る。
彼女からすれば、ジークが同じ事を二回言ったのだ、そこに何の意味があるか、当然分かるわけもない。
「お願い、します」
だが、ジークの表情から何かを悟ったのか、ジーシェイも改まって応える。
「ああ、任せろ」
宛は未だにない。
だが、それでも彼女には最高の師をつけてやろうと思った。
またいつものごとくですが。
しばらく投稿に集中するので連載はお休みします。