第62話 娘の強さ
「でも、どうやって、修行すればいいのか……」
「誰か師を探そう。巨大武器を駆使する者はなかなかいないだろうが、この町に顔が利く二人に訊いてみよう」
「うん……あ、あの、さ……お父さんが……教えてくれないかな……?」
「ふむ……そうしたいところだが、私には巨大武器を使う技術がない。剣技なら教えることは出来るが、きちんとした師に付いた方がいいだろう」
「うん……そう、だよね……?」
少し、寂しそうに笑うジーシェイ。
ジークとしても、教えられるものなら自分で教えたい。
だが、自分が教えて、彼女が将来身にならなかったら?
あの四姉妹は、潜在能力があるし、今後同じ姉妹として生きていった時、肩身が狭くなるのは彼女だ。
「ねえ、パパ?」
「どうした、マーキィ?」
「一緒に戦いに行って、キスすれば?」
マーキィの言葉は、説明があまりにも省略されていて、事情を理解しているジークですら意味を考えるのに時間がかかった。
当然、何も知らないジーシェイには、別の意味に聞こえた。
「え……? ええっ!?」
先ほどまで懐いていたように見えた彼女は、ジークから一歩離れる。
「おそらくお前が考えているような事ではない。……だが、全く違うわけでもない」
「……どういう、こと……?」
戸惑いながらも、ジーシェイが訊く。
「私は妖魔を退治した折──」
ジークはこれまでのことを全て話した。
妖魔メルディアを倒した際に、血を浴びて妖魔の能力を一部吸収してしまったこと。
そのため、潜在能力のある者の体液を口にすれば、その能力を一時的に受け継ぐことが出来るということ。
四姉妹のそれを、緊急事態の際、キスすることで受け継いだということ。
そして、それによって、彼女たちの能力が分かったということ。
また、不定期にこの街を脅かす存在を退治していること。
「そう、なんだ……」
ジーシェイはそれを黙って聞いていて、最後に一言、そう漏らした。
何を考えているのか、ジークには分からない。
だが、少なからず、四姉妹に嫉妬しているのだけは、その表情から分かった。
「次の依頼の際、自分で身を守れるのであれば、来るか?」
「え? あ……うんっ!」
やっと、年相応の笑顔になる。
「あ、ずるい! 私が行くって言っても連れてってくれないのに!」
「まだ実力のないお前たちを連れて行くのは、どうしても危険が伴う。……どうしても私の手に負えない敵が想定される時のみ、お前たちの潜在能力の力を使わせてもらっているだけだ」
「でもーでもー!」
マーキィがだだを捏ねるように、ジークを揺さぶる。
「お前が私の背中を預けられると思ったら、いくらでもついてきてもいい。逆にお前が私を守れるようになったら、その時は私の引退の時だろうな」
「パパが引退するなら私も引退する!」
まっすぐなマーキィの視線。
義妹としては、どうすればいいか、ジーシェイは戸惑う。
「それは好きにするといい。だが、今はジーシェイだ。ジーシェイ、次には私について来い」
「うんっ!」
ジーシェイはただ、父ジークの言葉だけを信じてしまう。
新しい姉妹と仲良くなるのは、もう少し先のことだろう。