第59話 あっちの娘、こっちの娘
「まあ、お父様の実の娘さん、ですか」
帰ってきたシェラナに勧められ、客間に通されたジーシェイ、そしてジークや、ついてきた三人の妹たち。
「ああ、それで母が死んで身寄りがないから私としてはここに住ませて欲しいと思っている。だが、これは完全に私の我が儘だ。だから全員の承諾がなければ出来ないと思っている」
「そう、ですか……」
即答で返ってくると思っていたのだが、何故か思案げなシェラナ。
「お、お願いします! 片隅でいいですし、雑な扱いで構いません! ジー……父と同じ部屋で我慢します……っ!」
自分と同じ部屋なら我慢なのか、などと思ったが、十二歳の少女なら当然のことだろう。
むしろ風呂まで一緒についてくるマーキィの方がおかしい。
「それは、困りましたね?」
苦笑いのシェラナ。
何か懸念事項でもあるのだろうか?
「何か問題があるのか?」
「そう、ですね……」
問題がある、つまり、ここに彼女を住ませられない、ということか。
ジーシェイよりも、ジークの方が驚いていた。
この姉妹の中で、最も穏やかで優しいと思われたシェラナ。
その彼女がこの中で唯一異を唱える意味とは何だろう?
「具体的に言って欲しい。それで駄目なら他の手を考える」
「いえ、その……他の手はないと思いますけど、その、ですね……」
シェラナが再度言いよどむ。
そんなに言いにくいことなのだろうか?
「実は、今みんなが使っている部屋以外は、お掃除をサボっているのです……」
「…………は?」
恥ずかしそうに言うシェラナ。
だが、その内容は全く深刻なものではなかった。
「そして、これから夕食の準備がありますから、今からお掃除が出来ないのです……」
「いや、それくらい私がやるぞ?」
あまりにも申し訳なさそうに言うので、思わずそう口にするジーク。
「わ、私もやります!」
「私も手伝う!」
「うむ、頑張るといい」
「オヴォもやるんだよ!」
やる気がなさそうなオーヴォル引っ張るマーキィ。
「いや、そんなに人数が多くても仕方がない。我々だけでやろう」
「えー、でも、出来るー? 大変だよ?」
「大丈夫だ。全ての掃除をするわけではない、とりあえず、落ち着く場所と寝る場所を確保することを優先するだけだ」
「そうなの? だったら応援するよ!」
マーキィはただ、ジークといたいだけなのだ。
そして、これから家族になるジーシェイの人となりを観察したいのだろう。
「いや……」
「マー、邪魔しちゃ駄目よ! こっち来なさい」
空気を察したエミルンが、マーキィの身体を引き寄せる。
「えー! でも、でも!」
「この時間はいつも父と遊んでいるのだ。だから、マーキィの姉が駄々をこねるのも仕方がない」
オーヴォルはマーキィの事を言っているようで、自分の主張をしているいつもの口調。
二人の主張も分からなくはない。
だが、非日常が混じった時には日常を継続するわけには行かない。
これまでの日常と変わるジーシェイがいることで、今は日常を続けられない。
それが理解出来ないであろうことは、ジークも分かっている。
だからこそ、エミルンの手助けに乗るのがいいと思った。
「すまんな、出来れば手早く片づけたいのだ。早く終わればまたすぐに遊べる」
「……うん、分かった」
涙目なのが同情を誘う。
だが、ここはジーシェイを優先しよう。
「心配しなくても、ジーシェイもお前たちも私の娘だ」
だから、もしかすると不安に思っているかも知れない、それだけを伝えた。
「うん」
「分かった」
二人は納得したように、エミルンに連れられて行った。