第58話 四姉妹に追加
「違……わ、ないけど……」
図星を突かれ慌てるジーシェイ。
「お前は今、いくつだ?」
「……十二、だけど」
「一人で生きて行くにはまだ子供だな、仕方がない」
「え? 私より年下の? 見えないよ!」
「うむ、まあ、マーキィはもう少し大人になった方がいいのかもな」
実際はジーシェイの方が普通なのだ。
マーキィもあのような友人がいるのだから平均的な年齢の容姿くらい覚えて欲しいとは思うが。
「それはともかく……エミルン、みんなで話がしたい」
「うん、何の話かは分かるし、私は問題ないけど。シェ姉が駄目っていったら駄目だからね? 私は擁護しないから……」
「それは問題ない。ありがとう」
「何々? 何の話?」
マーキィがいつも通り遠慮なく、ジークに抱きつき、それを見たオーヴォルも抱きついてきた。
「この子を、私の娘ジーシェイを、ここに住ませてくれないか、という頼みだ」
「へ? いいよ?」
「私も構わないが」
二人とも軽く了承する。
「うむ、それは話が早くていいのだが……二人は少しは警戒心を覚えた方がいいかも知れんな」
「だって、パパの子供なんでしょ? だったら私の妹じゃん!」
マーキィはジークから離れると、ジーシェイをぎゅっと抱きしめる。
ジーシェイ少しだけ抵抗しようとするが、それをやめ、抱きしめられるがままになっていた。
身長は同じくらいか。
だが、顔立ちなどを考えると、ジーシェイの方が姉に見える。
「髪綺麗! 旅してきたって思えないね?」
「そ、それは、旅の時も毎日時間をかけて整えてたから……」
オフホワイトの髪。
それは、ジークが愛した彼女の母親と全く同じものだった。
おそらく彼女もそれを自慢にしているのだろう。
「そう言えば、お前には聞いていなかったな。ここで、この子たちと住む事に問題はあるか?」
ジークは本人に確認していなかったことを思い出し、ジーシェイに聞く。
「わ、私は別にいいけど……でも、本当にいいの?」
「それを決めるのは私ではないが、今のところ四人中三人が問題ないと言ってるのだが」
「でも……私は、貴族でもないし……」
「それを言ってしまえば私も同じだ。それに、シェイヴィは確か生まれは貴族だったはずだが」
「え? そ、そうなの?」
驚いた表情のジーシェイ。
「私はそう聞いたが。確か、冒険者になりたくて家を出たと言っていたな」
「そんな……一言も言ってなかった。なのにあんなに苦労して……」
悲しげなジーシェイ。
彼女たち母娘の生活は苦しかったのだろう。
それでも実家に一切頼らずに、彼女を育てたのだ。
「悪かったな。これからは私が育てよう。いや、育てると言っても何も出来ないが」
「別にそれはいいわ、さっき話聞いたし、それで許したから」
そう考えれば、彼女がジークを殺そうとしたのも分からなくもない。
母が苦しくても自分を育ててくれるために必死になっているのに、父はそこにおらず、今も冒険の旅を続けていたのだ。
「そう言えば、私たちって貴族だったっけ? 忘れてた」
「その気さくさはお前の宝だとは思うが……少しは誇りを持ってもいいかも知れないぞ?」
かのルビアが惚れたのもこういうところだろう。
だが、それはそれとして、彼女が大人になってもこのままというのは父として心配になってしまう。
「我々も、貴族という名ばかりの地位にしがみついているどころか、生きていくのに必死だったから仕方がないのだ」
おそらく、おそらくの推測でしかないが、必死だったのはシェラナであり、エミルン以下それを何も出来ず見ていただけなのだろう。
それでも、そういう言い方をすれば、何となく苦労したのだな、などと思ってしまう。
「ま、とにかくそこに問題はない。お前は今日からでもここに住め。もう一人、長女にもきちんと説明して頼んでやる」
「う、うん……ありがとう、ございます!」
深々と頭を下げる娘を見て、ジークは、また少し背負うものが増えたな、などと思うのだった。