第55話 本当の。
「……む?」
入り口の方から、来訪を告げる呼び鈴が鳴る。
ジークは自分の部屋でマーキィやオーヴォいつものように遊んでいた。
「誰か来たね?」
「ふむ、今日はシェラナも外出中か……」
長女シェラナは、魔法を学びにユーリィの家に行っている日だ。
そうなると、次女のエミルンが出る事になるのだろうが、あの人見知りには負担が大きいだろう。
「私が出てくるか」
一応姉妹から父、と呼ばれてはいるが、外部的にそう認識される事は時期尚早だと思っているジーク。
「えー、でもエミ姉が出るんじゃない?」
「エミルンばかりには頼っていられないからな」
彼は、これまで自分への来訪者でない限りなるべく出ないようにして来たが、エミルンの負担を減らすのが第一だと考えた。
だが、それをそのまま妹たちに告げるには、エミルンにも体面というものがあるだろう。
「では行ってくる。おとなしくしているのだぞ?」
「うむ、行ってくるといい」
「いってらっしゃーい」
二人に見送られ、玄関に向かうジーク。
途中であたふたしたエミルンに会うが、自分が出ることを告げるとほっとしたような表情になる。
「お待たせした。どちら様ですか?」
ドアを開けるジーク。
「………………」
そこにいたのは、年端も行かない少女。
身長や端正な顔立ちから推測出来る年齢からすると、マーキィより年下、オーヴォルより年上、といったところか。
だが、その険しい表情はもう少し経験を積んだ大人に見えなくもない。
これは、成長の遅い、もう少し大人の少女なのだろうか?
彼女が目を引くのは、その端正な容姿ではない。
その、背負った巨大な荷物だろう。
年端も行かない少女が背負えるとは思えないほど巨大なそれは、ゆうに本人の身長を超えている。
「……誰かの友達なのか? シェラナは留守だがそれ以外の娘なら──」
「ジークという者が、この屋敷にいると聞いた」
静かだが、多少険のある声。
少なくともジークに友好的な交流に来たとは思えない。
「……ジークは、私だが?」
「そう……そうだと思っていたけど──」
少女の身体から、湧いて出てくる殺気。
そして、背負っていた荷物を下ろすと、巨大な皮の袋の中から出てきたのは、巨大な剣。
「!?」
既視感が、ある。
このような光景を、過去に見たことがある。
巨大な武器を操る、小柄な少女。
彼は、そんな姿を見たことがある。
いや、それどころか──。
「私は貴方を殺しに来たわ。覚悟しなさい?」
少女は巨大な武器を構え、ふらつくこともなく、ジークを睨む。
「殺す、とは穏やかではないな。人の家に突然訪問して武器で殺すよう言われているのか?」
「言われてはいない。これは私の意志だ」
年端も行かない少女に恨まれる覚えはない。
であるから、誰かに殺人を命じられたと思っていたのだが、そうでもないようだ。
「だとしたら、随分非常識な話ではないか? いきなり訪問して、名前も名乗らずに武器を構えるとは。親からどういう躾を受けてきたのだ?」
「………………」
ジークは素手であり、もし、この少女がこの武器を操れるのであれば、そう簡単に勝てる相手ではないだろう。
だからこそ、搦め手からのアプローチを試みた。
一般的に特殊な武器を操る者は世襲であることが多く、大抵の場合、親を誇りに思っている。
だからこそ、「お前の親はお前にどんな教育をしたのだ」という言葉は効く事も多い。
「……私の名前は、ジーシェイ」
「そうか……」
まただ、妙な既視感。
そんな名前の少女など、知らないはずなのに、ジークの頭は何故か強烈な懐かしさを覚えている。
「珍しい名前だな。だが、やはり私には君に殺される覚えがないのだが」
「でしょうね、貴方は私を知らないし、私にも会ったことがない。私も貴方に会うのは初めてだわ」
「そうか、では何故?」
ジークが問うと、少女ジーシェイは再び殺気を漂わせ、ジークを睨む。
「……私の名前は、両親の名前の一部を取って名付けられたわ」
「そうか」
「母の名前は、シェイヴィ。そして、父の名前はジーク」
「っ!」
ジークは、彼女の母の名前を知っていた。
それは、かつての仲間、そして、恋人。
「私の母は、貴方に遊ばれて捨てられた、巨大武器使いよ! 覚悟しなさい!」




