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第54話 豹変。

「ところで、何の話してるの? 私の話?」


 話に入れないことを寂しく思ったのか、それまで黙っていたマーキィがジークとルビアを交互に見ながら聞く。


「マーキィ様とルビア様がこれからも仲良くいられるよう、お父様にお願いしているところですわ」


 空気を察したエメルが、二人の代わりに答える。


「ふーん? 別にパパにお願いしなくてもルビアは友達なのに、変だね?」

「……今よりも、もっと親しくなれるよう、お願いしているのですわ」


 少し、寂しげな笑みを浮かべるエメル。

 彼女は完全にあらゆる意味でルビアの配下なのだろう。


「私とルビアは友達だよ! 大好き!」

「マーキィ……」


 天真爛漫なマーキィの言葉に、うっとりとするルビア。


「エメルも大好き!」


 その無垢な言葉は、この場の空気を微妙なものにする。


「あと、アルも好き!」

「……アル、というのは、前サルジス伯爵のアルシェラ様ですわね……? 確か、齢四百を越えて少女のようなお姿という大魔法使いの」

「うん! 魔法教えてくれる!」


 師匠という名の友人、アルシェラまでここで出すとは。

 本当に状況を理解していないのか? と思いたくなる程、ルビアの心に的確にダメージを与えている。


「シェラ姉もエミ姉も大好き! オヴォはちょっと生意気だけど、大好き!」

「……ご姉妹は大切ですわね? 」


 ルビアは辛うじて微笑みを絶やしていない。


「でも、一番はパパ! パパが大好き!」


 そう言って、マーキィはジークに抱きついてきた。

 普段家でしているような、全力で甘えてくるような、そして、それに応えて欲しいとせがんでくるような甘え。


「やれやれ、しょうがない奴だ」


 人前、それも貴族の少女達のお茶会の最中であり、出来ればしたくはなかったが、求められれば受け止めるしかない。


「えへへ~」


 満面の笑みのマーキィ。

 その笑みを見るだけでも、ジークは多少の気恥ずかしさも忘れてしまう。

 彼女ら娘たちのためなら、世界を敵に回してもいいとさえ、思える。


「私はね、大きくなったらパパと結婚するんだよ!」


 だが、その守るべき存在は、この場で最も言ってはならない言葉を口にする。

 さすがは大魔法使いの潜在能力(ポテンシャル)を持つ娘、というところだろうか。

 ここまでの雷撃、もしくは爆撃は、一般人には使えないだろう。


「……それは、初めて聞いたな?」

「あれ、言わなかったっけ? シェラ姉がパパと結婚したいって言った後でさ!」


 もちろんジークも彼女の言葉全てを覚えているわけではなく、正直なところ、大半の他愛もない言葉はほぼ忘れていると言ってもいい。

 だが、さすがに結婚したいという言葉はそう簡単には忘れないと思うのだが。


「いや、まあ、どちらでもいいのだが……」


 ジークは恐る恐るルビアを見る。

 そこには、確実に憎悪の瞳で彼を睨むルビアがいた。


「あ、貴方は、ご自分の娘をたぶらかしておられるのですのね? これは何という──」

「ルビア様!」


 おそらく、そのまま罵詈雑言を吐こうとしていたルビアに、慌てて駆け寄り、彼女を抱きしめる。


「あ……っ、はぁ……っ! はぁ……っ!」


 必死に何かを抑えているルビア。

 抑えられているのには、彼女を抱きしめているエメルが貢献しているように思える。


「ルビア、どうしたの?」


 無邪気にジークに聞くのは、彼女をそんな姿にした本人。


「……どうやら、取り込むようだ。今日は出直そうか」


 ジークとしては少しでもこの場にいたくはない。

 もしこの少女が何かに取り憑かれていたら、今確実に化けるところだ。


「パパが言うならそうしようか。またね、ルビア!」


 あくまで暢気に、正常ではないルビアに手を振るマーキィ。

 彼女は実は姉妹一番の大物ではないだろうか?


 ジークはそそくさとヴィア家を出て、家へと向かった。


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