第52話 令嬢の告白
「まずはゆっくりおかけください」
ルビアはエスコートするように手を伸ばし、席を勧める。
「……では失礼します」
大人しく従い、席に座る。
「はじめまして、ですわね」
向かいには、今気づいたが、もう一人の少女が座っていた。
そちらもやはり同年代の少女だった。
「初めまして、マーキィの父、ジークと申します。今後ともよろしくお願いいたします」
「わたくし、エメルと申します。父は爵位は持っておりませんが貴族をしておりますわ。お見知りおきくださいまし」
下級貴族子女のエメルが丁寧に頭を下げる。
「こちらこそ。それにしても、このような女性たちの会に私のような者がいるのは多少不似合いに思うのですが」
「そんなの気にすることないよ!」
ジークはもちろんマーキィに言ったのではない。
これから優雅なティータイムが始まりそうなこの雰囲気を察し、再度確認する。
「構いませんわ。ルビア様にとっても大変ご興味のあることでしょうし」
にこにこと微笑みながら答えるエメル。
ジークはそれを聞き観念して再び座る。
「今日はね、パパと二人の日なんだよ!」
「それはそれは、羨ましいですわね」
「だからね、ルビアにも見せたいかなって思ったんだよ!」
「そうでしたわね、先程もそれでお越しいただいた事ですし」
そう言えば、先ほどわざわざここまで来てから帰ったのか。
そう考えると彼女たちがそれ程混乱していないのも理解出来なくもない。
しかし、マーキィはこのままの態度なのか。
前に今の師匠であるアルシェラに初めて会った時には、貴族令嬢たろうとしていたが、ここではそうでないという事は、彼女たちは本当に気心の知れた友達と言ってもいいのだろう。
「パパは凄いんだよ! 家を襲って来た妖魔を追い返したし、死霊使いも懲らしめたし!」
「おい、マーキィ!」
「……あっ! ごめん」
サルジス家との約束で、死霊使いの事は口外しないことになっている。
それはもちろんマーキィにも言ってあるし、あの姉妹で最もサルジス家に近しいマーキィは当然それを十分理解しているはずだ。
おそらく、ジークを自慢したいばかりに口走ってしまったのだろう。
「仲のよろしいことで。お強いお父さまですのね」
「いや、お恥ずかしい」
「ふふふ、羨ましい限りですわ」
ルビアが微笑む。
おそらく、父の武勇を自慢するマーキィと、それを誇りたくないから言って回るなとジークが言っていると考えたのだろう。
「ルビア、今日は何して遊ぶの?」
「少しだけ、お待ちいただいてもよろしいかしら? 私、お父上とお話がありますの」
「そうなんだ。パパに何の話?」
「ええ、ですから少しお待ちください」
マーキィの何も考えていない問いにもいらいらせずに微笑みながら応えるルビア。
ジークの知るお嬢様は大きく分けて二種類になる。
我が儘で自分の要求が通らない事など考えもしないタイプ。
そして、穏やかで貞淑で、いついかなる時も微笑んでいるタイプ。
彼女は後者のようだ。
絵に描いたような理想的な令嬢の姿があった。
お友達、とは言いつつ実質手下と思われるエメルも同じタイプだろう。
ある意味マーキィとは正反対のタイプとも言える。
彼女たちがなぜ親しくなっているのか、おそらく年齢の近い者が少ないこの地域ならではなのではないだろうか。
「それで、私に話とは何でしょう?」
「はい……まずは、マーキィのお父上を実質呼び出す事になってしまった失礼をお詫びいたします」
「いや、それは構いません、本日はマーキィと過ごす約束になっておりましたから」
「ありがとうございます。それで、わざわざお越しいただいたのには一つ、お願いがございまして」
お願い。
マーキィからおそらくジークが元冒険者であることは知っているだろう。
このように貴族が困っていることを秘密裏に解決する事は過去にもあった。
「私が力になれることなら何とでも」
「ありがとうございます。それではお願いさせていただきます」
ルビアはわざわざ立ち上がり、ジークのそばに来た。
そして、大仰に頭を下げ、こう言ったのだ。
「マーキィさんを、私にください。きっと幸せにしますわ!」