表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/94

第50話 マーキィの朝

「起きて! おーきーてーっ!」


 ゆさゆさと揺すられる。


「ん……む?」


 その弱く、だが激しい揺すり方に、ジークは心地よさすら感じていた。


「マーキィの姉よ、静かにしてくれないか。私はまだ眠りたいのだ」

「駄目! 今日は私と遊ぶから、もう起きて行くんだよ!」

「そうだったな……いや、ちょっと待て」


 目を開けると、彼に馬乗りに勝っているマーキィの顔と、その向こうにまだ夜空が見える窓があった。


「まだ夜が明けていないではないか? さすがに早すぎるぞ?」

「今日は一日私と遊ぶんだから、早い方がいい!」


「静かにしろ、ここにはオーヴォルもいるのだ」

「じゃあ、起きて、行こう!」


 マーキィは元気なのが取り柄だが、夜寝る時間は長い。

 一旦寝ると、起きるのに毎日ひと悶着あるほどだ。

 もう起きている、というよりまだ寝ていないのだろう。


「マーキィ、さすがにこの時間に外に出るのは危ない、朝になってからでいいだろう」

「駄目! 今から行くんだよ!」

「マーキィ、お前は分からんと思うが、夜は妖魔がそこかしこにいるのだ。この屋敷はユーリィが結界を張ってくれている上、私がいるから余程の妖魔でない限り襲ってこないが、外に出るとそうはいかん。私も他の子達のためにもここを離れるわけにはいかん」


「あ、そっか……」

「悪いな」

「うん……」


 もぞもぞと、大人しく布団に潜るマーキィ。

 ジークにしがみつく彼女の腕が少し震えていた。

 ジークはそれを優しく撫でてやった。


 あの出来事から時も経ち、そして、それ以降楽しく過ごして来たと、ジークには見えた。

 だが、それでもあの時の、いや、あの時以前の恐怖は、彼女の小さな身体に刻み付いているのだ。


 ジークはその小さな身体を抱きしめてやった。

 マーキィは安心したように力を抜いた。




「マーキィ、そろそろ起きた方がいいのではないか?」

「んー、もう少しー」


 翌朝、そろそろ朝も遅いという時間、まだ起きて来ないマーキィを起こしに戻って来たジークだが、マーキィはやはり起きなかった。


「今日は私と遊びに行くのではないか?」

「行くよー? もう少し後で―……」

「…………」


 そう言うのであれば、起こす必要もない。

 ジークは彼女が起きてくるまでゆっくり過ごすことにした。



「どうして起こしてくれなかったの!? もう昼じゃん!」


 もう昼になろうとしていた頃、マーキィが半泣きで起きてきた。

 ジークはリビングでエミルンの入れた紅茶を飲んでいた。


 向かいではエミルンが座り、本を読んでいる。

 いつもならオーヴォルがいて遊んでいるが、今日はマーキィの日という事で遠慮しているのだろうか姿がない。


「? いつもこの時間ではなかったか?」

「今日はいつもじゃないよ! パパと過ごす日だよ!」


 ジークからすれば毎日マーキィと遊んでいるのだが、今日は特別な日だったらしい。


「一度は起こしたのだがな……」

「何度も起こして! 起きるまで起こして!」


「だが、お前は起こすといつももう少し後でと言うではないか」

「それでも起こして!」


 おそらく、ジークが来るまでは、彼女は重要な時には誰かに朝起こしてくれと頼んで、その者は彼女が後でと言おうが抵抗しようが起こしたのだろう。

 ジークは優しいというか甘いので、言われたとおりにしてしまう。

 そこにどうしても双方に矛盾が生まれてしまう。


「マー、あなたはもうそろそろ自分で起きるようにしなさい?」

「えー、でも……」


 不満げなマーキィ。


「マー、私たちはいつか結婚してここを離れるのよ? あなたは毎日夫になる方に起こして貰うつもりなの?」

「んー……分かった」


 一瞬満更でもない表情をするが、姉が睨んでいることに気づき、渋々了承した。


「そう、ではご飯を食べなさい? スープを温めてあげる」

「うんっ!」


 マーキィは嬉しそうにエミルンについて行く。

 ジークは何となく、彼女たちがいつかどこかに嫁ぐという事実に憂鬱になっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ