第49話 マーキィの不満、オーヴォルの不磨
「どうして私を置いて、二人で遊びに行ったの!?」
帰ると、マーキィが怒っていた。
半ば泣いていると言ってもいい表情だ。
「いや、行く前に確認したぞ? 今日はオーヴォルとだけで遊んでいいかと」
「聞いてない! 勝手に行った!」
もはや本泣きしそうな勢いのマーキィ。
だが、ジークも確実に彼女から行ってもいいと聞いたのだ。
「あの時、寝ぼけていたのか……」
「寝ぼけてない! ずっと起きてた!」
寝ぼけていた者はみんなそう言うものだ。
とは言え、それをまず認めないのも、また事実だ。
「パパは許せない! 罰として明日は私一人と遊ぶの!」
「……ああ、それは元々──」
「遊ぶの!」
「……分かった、そうしよう」
元々そういう約束だったのだが、それを言う必要もあるまい。
「じゃ、明日は私とだけ遊ぶ! それでいいね? オヴォも」
「ちょっと待って欲しい」
それで決まりそうだったのに、オーヴォルが待ったをかける。
「なに? 今日一日パパと遊んだんでしょ? だったら明日は私が遊ぶの!」
「それはおかしい。今日は、マーキィの姉が起きてこなかったから私が遊んだのだ。それを寝て過ごして置いて私と同じになるのは許されない」
オーヴォルの主張。
分からなくもないのだが、提案したのは自分ではないだろうか。
今朝出発する際に納得していたではないだろうか?
「オーヴォルよ、お前は今朝、納得していたと思うが?」
「していた」
オーヴォルは平然とジークを見上げる。
いや、だったらどうして反論したのだ?
「……だったら、明日、マーキィと行ってもいいのか?」
「うむ、致し方ない」
すんなりと、認めた。
「……では、どうして反論したのだ?」
「マーキィの姉の態度に立腹したのだ」
「…………」
まあ、分からなくもない。
何も知らなかったマーキィが、条件提示をしたオーヴォルと同じとなるのは不公平に思えるのだろう。
「まあ、そう思えるかもしれないが、その条件を提示したのはお前の方だろう?」
「うむ。分かってはいるのだ」
じっとジークを見つめるオーヴォル。
表情が変わらないから分からないが、おそらくこれは拗ねているのだろう。
自分が動いて得た権利と同じものを、何もしていない姉が受けるのがただ、気にくわないのだろう。
冒険者として同じような経験を幾度も受けてきたジークにはそれが分かるのだ。
「オーヴォル、こうは考えられんか? お前の行動がマーキィを幸せにした。怒ってはいるが、マーキィはお前の行動で喜びを得たのだ」
「………………」
「? どういうこと?」
おそらく意味をぼんやりながら理解しているオーヴォルと、何も分かってはいないマーキィ。
「つまり、オーヴォルは私と、お前がつまらないと思う場所に行きたかったのだ。その望みを叶えるために、明日をお前がオーヴォルが行きたがらない所に私と行く事も作り出したのだ」
「…………?」
「早い話、明日私がお前と好きなところに二人で遊ぶ事は、オーヴォルの提案で実現したのだ」
「そうなの!?」
その事実を今初めて知ったマーキィ。
オーヴォルはそう言えば何も言っていないし、ジークも言おうとして言わなかったことを思い出した。
「ありがとう、オヴォ!」
「……うむ」
満面の笑顔のマーキィに、表情こそ変わらないが頬の赤いオーヴォル。
「まあ、楽しんでくるといい」
「うんっ!」
言葉だけ聞くとどちらが姉か分からないが、この妹は姉の感謝に満足したようだ。




