表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/94

第47話 オーヴォルの遊び場

「父よ」


 屋敷内で、そんな声をジークにかけて来るのはオーヴォルだけだろう。

 振り返ると、やはりオーヴォルが両手を広げて待ち構えていた。


「おはよう、オーヴォル。目覚めはどうだ?」

「うむ、息災だ」


 ジークがハグをしてやると、オーヴォルは答える。

 多少この場面で使う言葉ではないと思ったが、特に指摘することでもないだろう。


「今日は私と遊ぶといい」

「うむ、今日は何もないから構わんが、マーキィにも聞かないとな」

「マー姉は駄目だ。私と遊ぶのがいいと思う」


 つまり、お姉ちゃんと一緒じゃなく私とだけ遊んで、という事だ。

 父を独占したい、という気持ちは嬉しいし分かる。

 だが、父は誰か一人とだけ仲良くするわけには行かないのだ。


「ふむ……では、今日をオーヴォルと遊ぶ日にして、明日はマーキィと遊ぶ日にしてはどうだろう?」

「ふむ。一理ある。だが、姉はそれで了承するかな?」

「話してみるか。マーキィ、いるか?」


 ジークは彼の部屋でまだ寝ているマーキィに聞く。


「んー? どしたのー?」

「オーヴォルが今日は私と二人で遊びたいと言っているのだ。明日マーキィと二人で遊ぶからそれでもいいか?」


「いーよー?」

「分かった、悪いな」

「んー……」


 了承を確認すると再び部屋を出て、オーヴォルの待つ廊下に戻る。


「それで問題なかったようだ」

「うむ。では今日は私と遊ぶことにしよう」


 口調はともかく、その笑顔は十歳の少女のそれだった。




「どこに行くのだ?」

「私がいつも行っている馴染みの場所だ」

「ふむ」


 ジークはオーヴォルに付き合い、家を出る。


 この貴族の隠れ家と呼ばれる街の中でも、小さめの屋敷が多く、人通りも比較的多い地域だ。

 つまりは、この街なりの貧民街、と言えるのだろうか。

 貧民、と言っても、この街の基準であり、おそらく下級貴族や裕福な市民なのだろうが。


「馴染みの場所とはこっちにあるのか? どんな場所なのだ?」

「酒場だ」

「酒場だと?」


 十歳の娘の口から、酒場、という言葉が出て来るとは思わなかったジークは、驚いた次にどうすべきか迷った。

 叱るべきか、優しく諭すべきか、受け入れるべきか。


 だが、現状何も分かってはいない。

 もしかすると、子供のお遊びの何かの施設を酒場と呼んでいるのかも知れない。

 まずはその場所を確認することにした。


「こっちだ」

「……うむ……?」


 先導して入って行ったオーヴォル。

 そこは、酒場だった。

 間違いはない、入り口の看板に「アラム・ケセルの酒場」と書いてある。


 更に言えば、ジークはこの店の事は知っている。

 この街に来た最初の日に、ここで宿をやっているか確かめたのだ。

 であるから、ここが一般的な酒場であることも知っている。


「本当に、ここなのか?」

「うむ、馴染みの店だ」


 十歳の娘の馴染みの店が、酒場。

 これは叱るべきだろうか?

 いや、そもそも、ここに出入りさせている酒場の主人はどうなのだ?


「分かった。入ろうか」

「うむ」


 とりあえず、マスターに文句を言ってからでもいいだろう。

 ジークは最後の最後まで出来れば娘を叱りたくはないのだ。


「私だ、いつものを」


 入店すると同時に、オーヴォルは注文をする。


「あいよ、で、お連れさんは?」

「……そうだな、ノンアルコール(ヴァージン)の何かをくれ」


「それなら、グレープのでいいか?」

「ああ、それで頼む」


 文句を言おうとしたが、まずは注文をしてしまった。

 出鼻をくじかれ、切り出しにくくなるジーク。


「……オーヴォルはいつもここに来ているのか?」

「三年前からよく来るな。ま、営業時間と言っても昼は客も少ないし、荒くれ者も、いない、と言ってもこの街にはそもそも荒くれ者はいないが、昼は特にこの店も治安が悪くないから入れている」

「ふむ……」


 そう言われると、何も言えなくなるジークだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ