表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/94

第45話 最高の男(過去形)

「なるほど……」


 全てを理解した。

 彼女たちがジークを見る目が違ったのも。

 ジーク自身が彼女たちを性的に見てしまったのも。


 この、若い身体がもたらしたのだ。

 それを、この二人にどう説明する?

 彼も自分が若い頃の姿なら女性を魅了することは理解している。


 このままでは自分に恋をしてしまうかも知れない。

 下手に説明して幻滅されるより、おそらくもう会うことはないし、このまま去るのが一番だろう。


大爬虫(リザード)も倒したし、今日はこれで帰るか」

「あ、あのっ! 出来ればまたこれからも──」

「…………来たっ!」


 おそらく、今後も機を見て会いたい、と言うような話をしようとしていたエレナの口を止めるように言うジーク。

 軽い地響きと共に、呻くような声が、ほら穴の中から聞こえる。


「まだ大爬虫(リザード)がいる! ほら穴の奥からこちらに向かってくる!」


 しかも、音の大きさから察するに──。


「気を付けろ! さっきのより大きな個体が来る!」


 どすどすと、ほら穴から響いてくる足音は、壁のあちこちに跳ね返って更に大きくなっている。

 とは言え、ほら穴の大きさ、そして音の様子から、ジークには奥にいる大爬虫(リザード)の大きさは大体把握できる。

 先程のものよりもかなり大きい事は分かる。


「ど、どうしよう、私たちだけでは無理かも……!」

「さすがに疲れている。もう一度同じことは出来ない……」


 慌てているエレナとリーン。


「大丈夫だ、任せておけ」


 だが、ジークなら、若い、今のジークなら、たかが大きな蜥蜴など取るに足りない。

 何しろ、彼は古代竜(エンシェントドラゴン)を倒した頃の彼なのだ。

 ゆっくりと剣を抜き、ほら穴から出て来るのを待つジーク。


「な……っ!」

「に、逃げよう!」


 現れた大爬虫(リザード)は、先ほどのものよりかなり大きく、それはもう、ドラゴンと言ってもいいような大きさだった。

 先程の大爬虫(リザード)ですら嫌悪を抱いたエレナが腰を抜かしそうになっている。


「グギャァァァァァッ!」


 大爬虫(リザード)は、死んでいる大爬虫(リザード)、おそらくつがいだったのだろう、その死骸を見て、吠える。

 それは、冒険者をすら怯えさせるほどの音だ。

 エレナだけではなく、リーンも、怯えているように思える。


「ふんっ!」


 だが、それでも、ジークの敵ではない。

 一閃。

 辺りに、突風が吹く。


 ──いや、ジークは刀をただ、左から右へと動かしただけだ。

 それだけで、その巨大な大爬虫(リザード)は二つに分かれた。


「グキャー! グギャァァァァ!」


 爬虫類の悲しさか、いまだ切られたと思っておらず、蠢いているのだが、おそらくすぐに動きを止めるだろう。

 ジークは刀を納める。


 今のジークからすれば、これらは雑魚に過ぎない。

 この程度では何の感慨もない。


「これで、終わりか?」


 動きが止まりつつもいまだに痙攣している大爬虫(リザード)に怯えている二人をよそに、ジークは、ほら穴からの気配を探る。

 気配はもうない。

 おそらくこの二頭だけだったのだろう。


「終わったようだな。では帰ろうか二人とも」


「あ……はい……」

「うん……」


 緩慢な動きで、二人が応える。


「……あれ? あ、あれ?」


 尻もちをついていたエレナは、立ち上がろうとして、腰が抜けて立ち上がれないことに気づく。


「しょうがないな、ほら」


 ジークが手を差し出す。


「あ、はい……」


 エレナはその手を恥ずかしそうに取り、ジークは立ち上がらせる。


「エレナ、君は、実は冒険者じゃなかったんだろ?」

「へ? あ……わ、分かっちゃいました?」


 いきなり口調の変わったジークに驚きつつも答えるエレナ。


「強い弱いは人によるだろう、けど、大爬虫(リザード)程度であそこまで慌てることは冒険者にはないからな」

「…………」


 うつむき加減で、ジークの様子を窺うエレナ。

 その表情が可愛く映ってしまったジークは少しから買いたくもなった。


「悪い子だ」

「っ!?」


 エレナの腰を引き寄せ、顔を近づけながら囁くような声で言う。


「ベックには秘密にしておくよ」

「は、はい……」


「この秘密は、ここにいる三人だけのものだ」

「はいっ!」


「リーンも、いいかな?」

「う、うん、でも、私はベック様の愛人で……」

「ふうん?」


 ずい、と顔を近づける。


「っ! っ!?」


 無表情のはずのリーンが顔を真っ赤にして焦る。

 実に嗜虐心をそそる。

 だが、これが限界だろう。


「だったら、もう、帰ろうか」


 全盛期の笑顔で、二人にそう言って、三人は変えることにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ