第43話 若い少女たちにモテるジーク
「この辺りが大爬虫の目撃情報があった場所だ」
そこは、広いとは言えない道。
その左右共に木々と雑草に覆われており、この辺りでは珍しくもない、森の街道と言ったところだ。
ジークは注意深く、辺りを確認する。
「怖いです……しがみついていていいですか?」
不安げにエレナがジークの腕に軽く触れる。
「……構わんが、いつ戦闘になるか分からんぞ?」
「分かってます! やったー!」
そう言うと、エレナは、ジークの腕にしがみついて来た。
「…………」
若い女性にしがみつかれるのは、自分の娘で慣れて来たが、それでもこの態度には違和感を覚えずにはいられない。
自分は自分がよく分かっている。
無条件に愛してくれるあの娘たちならともかく、他の女性に親しくされるはずもない。
当然そうなると、何かを企んでいる、としか思えないのだ。
とは言え、ベックの配下の者を根拠もなく疑うわけにはいかない。
「エレナ殿、そろそろ気配を感じたいのだが」
「はい!」
「……いや、より近づけと言いたいわけではない」
離れてくれないと気配を読めない、と言ったのだ。
そんなことは弓師なら分かるだろうに。
「では、私もそうしよう」
「!?」
反対側の手に、今度はリーンがしがみついてくる。
「勘違いするな、庇護すると言った貴殿を信じて匿われているのだ。私はベック様の愛人だからな」
「いや、そんな照れた表情で言われても……そちらは利き腕だから、剣が出せんのだが……」
娘に抱きつかれることはあるし、歩いている時にそれで両手が塞がることもある。
ジークからすれば、彼女らも大して変わるわけではない。
そう、思っていたのだが、どうにも先ほどから妙にこの二人が魅力的に感じてしまう。
いや、見た目の可愛さは認めているのだが、彼からすると子供、言い換えればガキであり、少なくとも性的な魅力は感じないはずなのだ。
だが、今は妙にそれを感じてしまっている。
正直に言えば、ジークの娘たちの方が魅力的ではあると思っているにも関わらず。
これまで我慢してきたが、これ以上は耐えられない、ここは一旦離れてもらうか。
「二人ともいい加減にしろ。ここには敵がいる。殺すか殺されるかの緊張の場なのだ。離れて戦闘準備をしてくれ」
多少イライラしながらジークが言うと、二人の動きが止まり、ぱっと離れる。
「ご、ごめんなさい……」
「気を悪くしたのならすまない」
二人ともなきそうな表情で謝り、ジークの顔を窺っている。
「いや、反省しているのならいい。私も強く言ってすまなかった」
反省している二人が、どうにも可愛く思えて、そう答えてしまった。
どうにもおかしい。
そもそも、彼女たちはベックのものだ。
しかも、彼女らの同僚でもあるエイシャやレーナは娘たちの師匠だ。
そんな者たちに自分のような年老いた親父が手を出したとあってはさすがにこの街にいられなくなる。
いや、いるべきではなくなるだろう。
ここは、早急に大爬虫を探し、退治を──。
「こっちか!」
遥か遠くの気配を、ジークは察知した。
これまでにないほど遠くの気配だが、これは間違いない。
周囲の気配に妙に敏感になっている。
二人が不思議そうに息を呑むのも感じている。
どうしたのだ?
先ほどから感覚も鋭いし、力もみなぎっている。
いや、考えるのは後だ。
剣を握り、走ると、道の脇に大き目の獣道がある。
いや、獣と言うには幅が広すぎる。
ジークは躊躇なくそこに入ると、剣を抜いて走る。
思った通りだ。
そこには大きな穴があった。
それは大爬虫の巣穴だと分かる。
何故なら、今まさに、そこに入ろうとしている大爬虫がいたからだ。