第42話 ベック邸の二人の美少女
「これでいいだろう。私もあの四姉妹ほどではないにしろ、なかなかの潜在能力を持っておるからな」
「…………」
自分より、遥かに年上の、だが少女にしか見えないユーリィが悪戯っぽく笑う。
抗議の目をしているジークを全く気にする事もない。
「ほう……我ながら優れた才能だ。これなら負けることはあるまいて」
ユーリィはジークを見て感心するが、彼には自分が何の能力に秀でたのか理解出来ていなかった。
ただ、先ほどまでよりも身体に力が漲っている。
少なくとも何らかの力を得た事だけは分かる。
「ふむ……貴様が昔、英雄で女にもモテたのいうのは本当だったのだな?」
「? 見る影もなくて申し訳ないが、確かにそうだったが……」
何故、今、それを聞くのだ?
「では行くがいい、ベック邸の入り口での待ち合わせとなっている」
「分かった、行って来よう」
ジークは再度ユーリィの家を出て、ベック邸へ向かう。
ベック邸の前には二人の若い女性が退屈そうに待っていた。
「君たちがベックの兵士か?」
「そうだ、け……ど……っ!?」
弓を持っていた少女の歳の女性が、だらしなくこちらを振り向き、愕きの表情になる。
「は、はいっ! 私は弓兵のエレナ、こちらは盗賊のリーン」
「おい、エレナ、私はもう盗賊じゃねえ。ベック様の愛人だ」
「いいからっ! 黙ってなさいよ!」
「うむ、私はジーク。今日はよろしく頼む」
「はいっ! よろしくお願いします!」
「よろしくー」
二人の、特にエレナの態度に大きな違和感を覚えたが、深くは気にしないことにするジーク。
なんだか、先ほどから視線を感じるが、中年がそんなに珍しいのだろうか?
確かにベック邸には若い男、ベックと、それ以外は若い女性のみの屋敷であるのは想像がつく。
そう考えると、ジークが珍しいのかも知れない。
「では行こう、場所は聞いている、出没地域は限られている。巣を作るとほぼ移動はないからだ」
「はいっ」
「作戦を立てよう、エレナ殿は弓師でよいのだな? 私は今のベック氏を信じているが彼の送って来たエレナ殿の腕を信じてよいのだな?」
「は、はいっ! 私は八人に残ってましたし!」
「八人に残っていた」はおそらく、ベックの「負けたら愛人」という戦いの最後の八人に残った、という意味だろう。
「そうか、それは心強いな。リーン殿は?」
「……最初の戦いで負けた」
「そうか……」
「私はベック様の愛人という地位に満足している」
「そうか」
リーンはおそらく、ベックが解放した後、愛人として残ることを望んだのだろう。
だとしたら、何故そんな者を寄越したのだろう?
「私は志願してここに来た。だが、エレナは違う」
「ちょ……! 違います! 私も志願……はしてませんけど、街のための任務をあたえて頂いて喜んでいます!」
慌てて訂正するエレナ。
エレナは先ほどから、ちらちらとジークの様子を窺っている。
雇用者でもない自分になぜそこまでいいとことを見せようとする?
「そうか。戦力は分かった。では大爬虫が出たら、リーン殿が囮になって注目を浴びてくれ。その間に私が弱点を切る。エレナ殿は、リーン殿が襲われないように弓で脅してくれ」
「分かりました!」
「……私が危ない目に遭うのか?」
「すまない、盗賊と聞いていたから、攪乱は得意だと思っていた」
「苦手ではない。だが、盗賊をやめて一年になる」
「そうか、ではエレナ殿ではなく、私も命を賭けて守ろう。ベックから預かった大切な愛人を傷つけるわけには行かない」
「う、うん……分かった」
少し、驚いたように、そして照れたように頬を染め、リーンが答える。
そして、ジークから少し離れる。
「私はベック様の愛人、私はベック様の愛人……」
小さな声で呟くように言っている。
それを妬むような見ているエレナ。
何だろう、これではまるで自分がモテているみたいではないか?
ベックが王都で厳選した美少女冒険者百人のうちの二人。
さすがに、この歳の差の自分が男性として見られているわけがない。
そう思ってはいるのだが、それと現状との乖離に戸惑うしかないジークだった
今月いっぱいは忙しくなるため更新は来月(2018年12月)以降になります。